アラン・デュカス飽くなき美味の追求が生む

“比類なきショコラ”


RiCE.pressRiCE.press  / May 1, 2023

アラン・デュカスといえば、厳選したカカオ豆からショコラを手がけるフランス料理界の巨匠として世界中にその名を轟かせている。そんな料理・チョコレート業界のマエストロが、日本橋にある[ル・ショコラ・アラン・デュカス東京工房]がオープン5周年を迎えるのを機に来日を果たした。

RiCE3月号の「チョコレートは愛だ」特集でキュレーターとして活躍いただいたチョコレートジャーナリストの市川歩美さんが、新作発表会と工房見学の後、貴重な対面インタビューを行った。


©Pierre Monetta

――お久しぶりです。5年前にお会いした際にいただいた『ショコラの言葉』(アラン・デュカス氏の著書)は全て読ませていただきました。

アユミさんは何でも知っているからもう私に聞く事はないでしょう?(笑)

――とんでもないです。お聞きしたいことがたくさんあります。振り返ると5年前の2018年、日本の[ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房]ができたとき、とても嬉しかったんです。今まで全く日本になかった種類のチョコレート店でしたから。

東京で工房を立ち上げてからというもの、ずっと競合がいませんからね。5年経った今でも、バックミラーに誰も写っていない気がしています。

――バックミラーに(笑)。パリでのブランド名[ル・ショコラ・アラン・デュカス・マニュファクチュール・ア・パリ]に表れているように、デュカスさんのショコラは「マニュファクチュール(自社一貫生産)」が徹底されています。高い技術力と経験を持つ職人によってカカオ豆から作られているという点が、オンリーワンですよね。

カカオ豆のセレクションは、私が自ら行っています。世界最高峰のプランテーションで育てたカカオ豆をパリに届けて焙煎し、パリ到着から72時間以内にはクーベルチュールを完成させます。そして、東京工房ではそのクーベルチュールを使ってボンボンショコラをはじめ、全ての商品製造の全工程を行う。私たちは、比類なきショコラを「現場で」作っているのです。


©Atsuko Tanaka

――まさしく日本で誰もやっていないことですね。

それだけではなく、工房ではショコラ作りのノウハウを色々な人に伝授しています。人を育て、未来へと繋いでいくということが非常に重要なことなのです。現在、パリのボンボンショコラのナンバー2責任者は日本人女性ですよ。彼女は東京工房で仕事をし、職人として育ちました。日本には優秀なスタッフが多くいます。

――日本人として、とても光栄です。ところで、私はアメリカのムーブメントとしてのビーントゥバーと、デュカスさんのマニュファクチュールを重んじたショコラ作りを全く違うものと捉えています。

その通り、無関係です。例えばホームベーカリーを買えば誰でもパンを作れますが、それは最高のパン職人のパンとは別物でしょう。

――そうそう。わかるなぁ〜。

©Pierre Monetta

ビーントゥーバーをやったからといってショコラティエを名乗るなと言いたいですね。

――(笑)。私もそう思うことがあります。

大事な点なので、わかってもらえてとても嬉しい。つまり、カカオ豆からショコラを作るからと言って、ショコラティエを名乗ることはできないのです。

――おっしゃる通りだと思います。カカオ豆からショコラを作る過程自体に重きをおくビーントゥバーからは、技術力や美味への深い追求が見えないこともあります。しかしデュカスさんのショコラは、ハイレベルな技術とセンスを兼ね備えた職人が美味しいバーのためにカカオ豆を用いている「結果としてのチョコレート」ですね。これは「ビーントゥバー」ではなく「バートゥービーン」だと思うのですが、私の認識は正しいでしょうか?

そのとおりです。

――よかったです! このインタビューで、デュカスさんのショコラと他のショコラとの違いをお知らせしたいです。

ぜひそうしてください。ジャーナリストの役目ですからね。

――美味しさだけでなく、妥協のないブティックやパッケージの美しさも含めて、クリエイティブディレクターとしての側面もデュカスさんの大事なポイントだと思います。

偶然には、何事もおこりません。全ては偶然の産物ではなく考えて作っていることです。

©Pierre Monetta

――日本のお客さんについて聞きたいのですが、日本のお客さんとフランスのお客さんと、なにか傾向の違いはありますか? それが商品に反映されてたりしますでしょうか。

私が日本進出を選んだのももちろん偶然ではありません。それは日本人とフランス人が、まさしく違いがわかる国民だということなんです。言い方に誤解がないようにとは思うんですけれど、私たちは味を“強要”しているんです。私たちがお客様に味を提案していて、お客様が選んでいるわけじゃない。お客様が、どういう味が好きかではなくて、私たちが作ったものを食べてくださいというスタンスで提供してるんですよ。いわば、強制しているんです。お客さんの好みに合わせているのではないよということですね。

――自分達がこれを食べてほしいというものを提供する。私たちに提案をしてくださっているということですね。

はい。そういう意味では民主的じゃない。言ってみれば私は味の独裁者なんです(笑)

――(笑)。だから、デュカスさんが一番美味しいと思ったものを食べてくださいと、自信を持ってお出ししているっていうことですね。わかりました。あと日本のことをお聞きしたいです。デュカスさんはフランスの文化を日本に伝えてくれているんですけど、同時に日本のこともすごく大事にしてくれている感じがします。

本当に日本の文化には影響を受けていますよ。

――今回のご来日でも、何か新たな発見などはありましたか?

例えば今日のランチは最高だった。[エステール]で、シェフが選んでくれたアスパラガス。加熱してマリネしたすごくシンプルなお料理なんです。それがすごく良かったのは、食材がいいからなんですよね。そういった卓越性っていうのもどんどん向上していると感じました。(シェフたちの)素材を生かす技術が高まっている。

――[エステール]ですね、「ベージュ アラン デュカス 東京」の総料理長だった小島景シェフが、この1月にシェフに就任しましたね。

ところでアユミさんは、いつパリに私たちのビスキュイとアイスクリームを食べに来るの?(2022年ビスキュイとアイスクリームの工房&ブティック[ル・ビスキュイ・アラン・デュカスがフランスでオープン)

――すぐにでも行きたいです……。デュカスさんのショコラは、ハイレベルな美味という目標のもとで作られているので、全てが美味しく美しい。アイスクリームもビスキュイも、きっとそうに違いないです。

ありがとう。私たちのビスキュイとアイスクリームを味わいに、ぜひパリにおいでくださいね。フランス行きの航空便は、毎日何本も飛んでいるから。


©Atsuko Tanaka

Alain Ducasse(アラン・デュカス)

1956年フランス南西部ランド県生まれ。33歳でモナコの[ル・ルイ・キヤーンズ]に料理長として就任し仏版ミシュランガイドで3つ星を獲得。以降、フランス料理界を牽引し続け、モナコに引き続きパリ、ロンドンでの3つ星獲得を実現。現在は世界中で30以上のレストランを展開。チョコレートブランド[ル・ショコラ・アラン・デュカス]を手がけ、仏外発の工房[ル・ショコラ・アラン・デュカス工房]は、今年で5周年を迎えた。

東京工房
東京都中央区日本橋本町1-1-1
Instagram @ALAINDUCASSE
HP HTTPS://LECHOCOLAT-ALAINDUCASSE.JP


Photography by Atsuko Tanaka
Interview by Ayumi Ichikawa
Edit by Hiroshi Inada
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