
もっと知りたい、酒屋さんのこと「Get to Know SAKAYA」001
良い酒を知り味わい買える[伊勢五本店 中目黒店]
創業は江戸時代、専門スタッフが待つ国産酒の店
日本酒、焼酎好きの人におすすめの酒屋を聞けば、必ずと言っていいほどその名が挙がる[伊勢五本店]。今回訪ねたのはその中目黒店だが、創業店は谷中の地で現在[伊勢五本店 千駄木店]として営業する。ちなみに「本店」というのは、伝統的に酒屋の屋号に付くことが多く、その歴史の深さを象徴する意味があるなどと言われる。千駄木店も中目黒店もシンガポール店も、いずれも「伊勢五本店」となっている。
元々、谷中の寺町に開いた[伊勢五本店]は、お寺にお酒を納めるなど古くから日本の酒を取り扱ってきた。創業は1706年(江戸の宝永3年)だから、今話題の蔦重が生まれる50年近く前のこと。今年で創業から319年を数える。
[伊勢五本店 中目黒店]には、日本酒が200〜300本、芋焼酎約200本、麦焼酎約50本、泡盛20本前後、さらにはウイスキー、ワイン、クラフトビール、ジンなどいずれも国産にフォーカスしながら、抜群の品揃えを誇っている。
日本酒が並ぶ冷蔵庫
手前に見えるのが日本酒、その上には調味料もあり、右手に回り込むとジンなどの蒸留酒。奥の棚は焼酎。そのさらに奥に角打ちカウンターがある
「人から買ってもらう」を大切に
品揃えが抜群なだけでも、酒ファンにとっては行く価値あり!と推したくなるところだが、創業以来変わらないのは「商品は よく吟味して 確かでいいものを お客様に対しては 誠実を第一に」という姿勢。
営業を務める山本貴文さんも、そうした「商人としての姿勢」を大事にしていると話す。
山本さん。レストランのサービス職を経て、[伊勢五本店]に入社。現在は飲食店などへの卸しの営業を務める
「お客様によいものを買っていただくというのが商売の原点だと思っています。有名だから、ということだけではなく、美味しいものはなぜ美味しいのか。本質の部分を伝えていくことが、これからの時代は特に大事になってくると思います。酒蔵さんがどういう努力をしているのかなど、その背景を知り、お客さんにフェイス・トゥ・フェイスで伝えることを大事にしているので、うちは値札に説明を書かないんです」
たしかに。値札には、蔵名・銘柄名・値段の他に、産地、種別、容量しか記載がない。首掛けでPOPが付いているというわけでもない。
お店に入ると、スタッフさんが数人いて、まるで洋服屋さんのように「お探しのもの、ありますか?」といった具合ですぐにアプローチしてきてくれる。
「この『村祐』なんかも面白いですよ。淡麗辛口が多い新潟にあって、旨甘の酒造りを続けている酒蔵さんです。これは夏の生酒なのでややすっきり、バランスのよい味わい。これからの季節におすすめです」
と言った具合で、あまりの品揃えのよさに圧倒されそうに思うが、こちらの好みやシチュエーションなどによってプロが提案をしてくれる。
ちなみに、日本酒の並び順は産地や特定名称別などになっていそうだが、「ランダムです」とのこと。“情報”よりも、飲んでみた感じ、飲み方やシチュエーションなどを重視している
また、[伊勢五本店]がこだわっているのは適正価格での販売。基本的に酒蔵と直接取引をすることで、メーカー希望小売価格を守っている。酒屋商売の基本とも言えるのかもしれないが、造り手と売り手に対してフェアであるために大切なことを学ばせてもらった。
いいものを知ってもらう角打ち
では、いかにものの価値を伝えていくかは同時に重要になってくる。中目黒店では、日本酒・焼酎・ワイン・ウイスキーを有料試飲形式で角打ちを楽しむことができる。
日本酒は15種ほど、他も十分過ぎるほどにラインナップがある。300〜500円が中心の価格帯で、飲み比べをするにはうってつけ。0次会的にいいお酒を飲んで夜をスタートするという使い方もあるそう。とはいえ、バーではないので適切な利用を心がけたい。
味わいについてスタッフと意見を交わすのも楽しい。「ワインだと味や香りを例える用語がありますが、もっと感じたままに、濃いとか淡いとか、奥行き縦横の広さ、何色っぽいとかの表現でいいと思いますよ。最初はひたすらノートに飲んだ感想を書くことですね」と、テイスティングの際の意識づけについてもヒントをもらえた
クラフトサケも試すことができる。お店のとっては情報発信の場であり、お客にとっては新しい味に出会える機会だ
この日、おすすめの一本
最後に、[伊勢五本店]山本さんにおすすめの一本を選んでいただいた。この品揃えの中から「おすすめを一本」というのは気が引けるお願いではあったのだが、この日の気分も含めて快くピックアップしていただいた。
鹿児島霧島の[中村酒造場]は、「Flare」などモダンな新作に注目が集まるが、山本さんはトラディショナルな「なかむら」をチョイス。甘さと香ばしさがやさしく身体に行き渡るような上品な一杯は、[中村酒造場]こだわりの手造り製法によって生まれる。
「焼酎のソーダ割りももちろんいいのですが、個人的にはお湯割りを推したいと思っているんです。『なかむら』のお湯割りをぜひ試してみてほしいですね」
伊勢五本店
東京都目黒区青葉台1-20-2
10:00〜19:00
火・祝 定休
IG @isego.nakameguroPhoto Yuki Nasuno(写真 那須野友暉)@yk_nsn
Text by Yoshiki Tatezaki(文 舘﨑芳貴)