エディターズノート

「RiCE」第42号「麹」特集に寄せて


Hiroshi InadaHiroshi Inada  / Aug 6, 2025

RiCEの第42号は麹の特集です。創刊以来いろんな特集をしてきましたが、微生物を取り上げるのは初めてです。厳密にいうとカビの一種であり、発酵のスターター。醤油、味噌、酢、みりん、甘酒、日本酒、焼酎などなど。すべて麹がなければこの世に存在しませんでした。もしそうなっていたら日本の食文化はどうなっていたんでしょうね? 国菌として麹が大切にされるわけです。

特集として発酵そのものに向き合うのも初めてなのですが、発酵といえば発酵デザイナーの小倉ヒラクさんがいらっしゃいますね。今回の麹特集の構想は、ヒラクさんのこんな言葉に打たれたのがきっかけのひとつでありました。

「麹でベースを作ったお味噌とか醤油とかと焼酎って合わせるとやっぱり美味しいじゃないですか。それがなぜかっていうと、全て麹を基点にしているからです。だから日本の焼酎、泡盛の素晴らしいところは、こんなに料理と合う蒸留酒は他の国にはほとんどないです。で、それは食べ物もお酒もどちらも麹を根幹にしてできているからです」(本誌第39号、焼酎特集より引用)

たしかに! 取材現場でこの言葉を聞いたときには思わず膝を叩きそうになりました。まるで長年目の前をかすませていた霧が晴れたかのような心持ち。そうだ、麹こそが日本の食文化をすべて司るキーエレメントに違いない。あるいはコンピュータにおけるOSのように、あらゆる発酵プロダクトを裏から動かし方向づけている。日本発のフードカルチャーマガジンとして、麹に向き合わないでなんとする?

いや過去に麹を取り上げたことがありました。RiCEの第26号、「日本の自由なサケ」特集です。サブタイトルに「麹がつなぐ日本酒、焼酎、クラフトサケ」とあるように、日本で造られている和酒はすべて麹で醸されている!という当たり前の盲点に着目してお酒から麹を、麹からお酒を見つめてみました。

今回の特集では、麹そのものを見つめながら、そのレンズを通して日本の食文化全般、さらに世界的な広がりへと視野を広げています。そしてひとつだけわかったことは、麹はよくわからないということでした。知れば知るほどわからないし、興味が尽きない。

世の中は発酵ブームが続いています。というか世界は発酵を求めています。健康、美容、環境、平和、ウェルビーイングなどなど。われわれ人類が希求するものはすべて発酵にひもづいている。中でも日本人が何百年以上にもわたって大切に培ってきた麹のおかげで、われわれは健康に、幸せに、楽しく暮らせているのかもしれません。

そういえば、麹にはもうひとつ漢字があって「糀」と書きます。米麹が白い菌糸を伸ばして米の表面に花のように咲いて見えるため、視覚的なイメージから作られた当て字のようです。今後も日本の食文化が花開くのは麹が発酵を起動してくれるからこそ。まるで季節が巡るように、何度でも再起動してくれるに違いない。麹に感謝。

RiCE No.42 SEPTEMBER 2025 特集「麹がおいしくしてくれた。」

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