エディターズノート
「RiCE」第44号「ウイスキー」特集に寄せて
RiCEの第44号は初のウイスキー特集です。これまでだいたい年に一度はお酒の特集をしてきた気がしますが、いよいよ真打登場? そんな言葉がよぎるくらいに待望の特集です。いつかやりたかった。
日本酒や焼酎、ビールにワイン、スピリッツと過去に特集を組んできましたが、ウイスキーにはマニアックなファンも多く、専門メディアがいくつもあるほど。世界的なカルチャーの一部としてここ日本においてもしっかり根付いています。
世界五大ウイスキーといえば、本場スコットランド、アイルランドに続き、アメリカ、カナダ、そして日本がカウントされる。日本で国産ウイスキーの歴史が始まったのは1923年、寿屋(のちのサントリー)社長の鳥井進治郎が山崎蒸溜所を建設を着手し、1929年に「サントリーウヰスキー」、通称「白札」が発売になったところから始まっています。つまりたった100年前後の歴史で世界的な評価を確立したことになる。
寿屋で国産本格ウイスキーの誕生に携わって後にニッカを創業した竹鶴政孝は、スコットランドの地でウイスキー造りを学んで日本に伝えました。そこでの様々な苦労や冒険はかつてNHKの朝ドラ「マッサン」でも描かれた通り。そこで生まれた日本のウイスキー造りのDNAは今も受け継がれ、特に2000年代初頭あたりからサントリーの「山崎」や「響」、ニッカの「竹鶴」、キリンディステラリーの「富士」、そして「イチローズモルト」といった銘柄が国際的なウイスキーコンペティションで最高賞を次々受賞。そうした快挙が毎年のようにニュースとなり、呼応して海外からの需要も増えて品薄になることもしばしば。海外輸出額は近年ついに日本酒を超えたそうです。
そんなに求められているならどんどん増産すればいいのでは。ところがウイスキー造りはそう簡単ではありません。モルト(大麦麦芽)のみを原料に単式蒸留する「モルトウイスキー」と、トウモロコシなどの穀物を原料に連続蒸留する「グレーンウイスキー」、そして両者をブレンドすることで「ブレンデッドウイスキー」ができるわけですが、いずれも樽で寝かせる必要がある。しかも最低三年以上。
専用の樽で長年貯蔵された原酒は熟成を重ねることで独特の風味が生まれ価値を高めていくことができる。職人の手により今日造られたウイスキー原酒が世の誰かに口にされるまで何十年とかかるかもしれない。途方もなく気の長い話ですが、同時にロマンを感じたりもしませんか。今回の取材で立ち会ったあるチーフブレンダーの方に「ロマンチストですか?」とストレートに質問してみたところ、「ウイスキー造りについては、間違いなくそうです」と断言されていました。
バーやお店で、あるいは自宅でウイスキーと向き合う時間はどこか特別です。それは独特の風味を感じ取りながら、そのウイスキーが経てきた時間の旅を味わっているのかもしれません。
RiCE編集長 稲田浩

- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。