
小さな駅、美味しい町—Good Local Stations— 002
お気に入りのワインを見つけに、駒場東大前[WINE&SUNS]へ
世界でも指折りのメジャー駅を擁するビッグシティ東京だが、単路線で乗り換えのない小さな駅も数多く存在。そんな「小さな駅」にスポットを当て、ローカルな魅力溢れる美味しいお店と出会うシーリズ「小さな駅、美味しい町—Good Local Stations—」。
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001 駒場東大前[888]で出会う新しい家庭の味
街のお洒落なワインショップ[WINE&SUNS]
歴史を感じる建物が残る東大駒場キャンパス。その裏側にあたる通称「航研通り」は、代々木上原・東北沢とグラデーションをなす境界エリアで、居酒屋[Lanterne はなれ]や和菓子店[オオノ餅店]、ラーメン店[千里眼]、イタリア食材店[ピアッティ]など、個性豊かな店が点在している。[フレッシュネス・バーガー]の一号店(富ヶ谷店)がある通り、と言えばピンとくる人もいるかもしれない。今回訪れた[WINE&SUNS]は、そのフレッシュネスの隣のビル2階にある。
太陽をモチーフにしたロゴが目印。1階は[COSMOS JUICE TOMIGAYA]
オープンは2023年1月。店主の植松孝行さんは、開業以前には撮影用ハウススタジオの内装デザインの仕事をしていたが、心機一転、自分が好きなワインに関係する仕事をしたいと思い至ったという。かねてより「店をやるなら航研通り沿いの東大のグラウンドが見える場所で」という具体的なイメージを持っていたと話す植松さん。独立してまもなく、タイミングよく、東大のグラウンドを望むこの物件と出会ったのは、まさに千載一遇と言っていいだろう。今やご近所さんが集うワインショップとして愛されている。
「営業のスタイルは酒屋なので、店内で飲んでみて、気に入っていただけたものを買って帰っていただけたら嬉しいです」
ヨーロッパを中心に、ワイン初心者も手に取りやすい価格帯のものから流通量が少ないレアなものまで幅広く揃えている。酒屋として15時からオープンするこの店には、自宅用やピクニック用にワインを買いに訪れるお客もいれば、店内でグラスを傾けるお客もいる。角打ちという言葉のイメージとは裏腹なほど、窓際のカウンター席やテーブル席でゆったりと飲めるのがこの店のスタイル。
抜け感のある空間から植松さんのセンスがすぐに感じられる。中央のテーブルにある大きな生花や惑星のような照明、壁には植松さん愛用のサーフボードがかかっている。それらがインテリアとして全て空間に馴染んでいて心地よい。前職での経験や旅先で訪れたアメリカのホテルの情景を組み合わせ、自分の“好き”を空間に落とし込んだ。
植松孝行さん
多様なワインが揃うセラーでお気に入りの一本を
お洒落な空間で飲むワインはいつにも増して贅沢な感じがする。その日に植松さんが開ける7〜8本のグラスワインメニューを試すのもおすすめだが、ワインセラーからとっておきの一本を見つけるのも楽しい。
二人くらいがちょうどいいコンパクトなセラーは、それだけに自分だけの本棚のような感じでわくわくする
赤、白、オレンジ、ロゼが棚ごとに陳列されていて、ボトルを眺めているだけでも楽しくなってくる。どれを選べば良いか迷ってしまう……という方は、まずはボトルに掛けられた“テイスティングノート”を見るといい。味わいや香り、造り手のエピソードなどが植松さんの言葉で綴られている。それを読みながら、今の自分にピンとくるワインを吟味する時間はまた楽しい。
「なるべくお客さまのことを詳しくお聞きしたいと思っています。苦手なものを避けるように気をつけて、そういう時は違うアプローチでご提案するようにしています」
味の好みに限らず、その日の気分や誰と飲むかなどのシチュエーションを伝えれば、きっとお気に入りのワインと出会えるはず。この日は2本ピックアップして、早速店内で開けてみることに(抜栓料は1,650円)。
一つは、紫系の果実感が特徴で味わいの変化や深みがクセになるフランス「ストリップ・シップ 2023」。口に含んだ瞬間は果実のジューシーさが際立つが、後味は爽やかで、ほのかに残るベジタブル感が特徴的な一杯。
もう一つは、イタリア[ラ・ロージ]の希少なワイン「ヴァン・デル・フラーテ 2022」。マスカットの華やかさとアロマティックな香りが立ち、しっかりとした強めの味わい。このワイナリーで生産されるものは全種合わせて年間6,000本ほどと少なく、その大半はイタリア国内で消費されるという。このラベルを見たら頼まずにはいられなくなるだろう。
オリジナル、セレクトアイテムも充実
植松さんのこだわりはワインに留まらない。クラフトビールのほか、食品、調味料、店オリジナルのアパレルや小物も置かれている。バリエーション豊かで思わず手に取りたくなるデザインのものばかりで、ついつい財布の紐が緩んでしまいそうに……!
写真の左にあるボトルを持ち運べるバッグは型から起こしたオリジナル。ソックスの他にTシャツ、スウェットなどのアパレル、ペンなどの小物まで
「ワインショップ以外の部分も利用してもらえれば」と、用途を限定せず訪れやすい店を目指していると語る植松さん。オリジナル商品についても、“お店のグッズ”にはならないように、「お客さまの日々の生活がより豊かになる商品」を意識して展開している。
一推しの調味料は、自身も長く愛用する[片上醤油]の醤油各種。木桶天然醸造のお醤油を1931年から造りつづけている
離れられない駒場の、暮らしを豊かにする酒屋
植松さん自身この街に住んで20年以上。離れ難いほどに好きな駒場エリアについて尋ねると、「都心だけどこんなに自然に囲まれているところって珍しいと思うし、そこが好きです。ここに住んでいる方々はみんなこのエリアを愛しているというか、一回住んだらなかなか離れられない街なんだということを、お客さまとの会話から日々実感しています。そんな街ってすごく珍しいですよね」と話し、さらに近所のおすすめのお店まで教えてくれた。
近所にあったら、散歩コースに組み込んで立ち寄ったり、家のワインを仕入れに行ったり、暮らしまで変わるなぁとついつい妄想も膨らんでしまうワインショップ[WINE&SUNS]へ、ぜひお出かけしてみては。
WINE&SUNS
東京都渋谷区富ヶ谷2-23-5 2F(Google Maps)
火〜土 15:00-23:00
日月定休
IG @wineandsuns_tokyo
Photo by Tatsuya Hirota(写真 廣田達也)IG @pppanchiii
Text by Megumi Bunya(文 文屋めぐみ)
Edit by Yoshiki Tatezaki(編集 舘﨑芳貴)
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