タコス特集 #2 はじめてのメスカル

万珍酒店・宮さんに聞く、アガベと酔い心地の話


RiCE.pressRiCE.press  / Jun 11, 2026

「メキシカンと言えば、メスカルっしょ。」「ね、やっぱ現地のものは現地のお酒で楽しみたいもんね。」

ある日のそんな会話。知ったかぶりのわたしは、メスカル=メキシコのお酒、という一本槍でそれっぽく相槌を打ち、メスカルを飲んだことがないという事実を告げずにその場をやり過ごした。
けれどその代償としてその日から、「メスカルってどんな味がするんだろう」という興味が、頭の片隅に居座り続けることになった。

そもそもメスカルなんて、今まで意識して探したこともなかった。今思えば、あのバーにもこの酒屋にも、きっと並んでいたはずなのに、まったく記憶にない。
ただ不思議なもので、一度その存在に気づいてしまうと、急に街のあちこちで目に入るようになる。実はメスカル、街のあちこちにちゃんといた。

そんな折、せっかくだからと飲んでみたAMARAS VERDE(アマラスベルデ)のソーダ割。スモーキーなのに口当たりはドライで、するする進む。今までにないその感覚に、すっかり心を持っていかれてしまった。このスモーキーさ、なるほどタコスに合いそう。特にカルニタスだろうか。でもジャークチキンとも相性よさそうと気付けばいつものように、頭の中で勝手なペアリングが始まっていた。

知らなかったお酒をひとつ知るだけで、食べたいものや行きたい店、聞いてみたい話が一気に増えていく。そんなタイミングで、ちょうどタコスの企画が進んでいたこともあり、スピンオフ的にメスカルを扱うことになった。

せっかくなら、いちばん信頼できる人に聞きたい。メスカルと言えばどこですか、誰に聞いたらいいですか、と周りに聞きまくった結果、珍しいお酒を数多く扱う[万珍酒店]の店主・宮川さんに行きついたのであった。

世田谷区・代沢にある[万珍酒店]の店主、宮さんこと宮川義浩さん。メキシコでメスカルと出会い、母体の会社[MANGOSTEEN]として約10年前からメスカルの輸入を始める。

メスカルとは、アガベからつくられるメキシコの蒸留酒のこと。現在は原産地呼称によって保護されていて、メキシコ国内の認定された地域でつくられたものだけが、「メスカル」と名乗ることができる。

日本でもよく知られるテキーラが、主にアガベ・アスール(ブルーアガベ)を原料とするのに対し、メスカルにはさまざまな品種のアガベが使われる。中でも最も一般的なのが、畑で栽培することもできる「エスパディン」だ。一方で野生で育つものや、成熟までに長い年月を要する希少な品種もある。

メスカルには、もともとその土地の村人たちの間で飲まれてきたものも多い。自然発酵を経て蒸留されるため、土地の気候や水、微生物、つくり手の手仕事が、味わいに色濃く表れる。まさに村のお酒なのだ。

ただまあ飲んでみないと、その個性も違いもわからない。

「酔い心地がほかのお酒と違うところを、飲んだことない人に味わってもらいたい。酔い心地を体感してもらったらいちばんわかりやすいかな」

宮さんの言葉に背中を押され、[万珍酒店]の角打ちで、実際にメスカルを飲み比べてみることに。

すべてAMARASのもの。使われているのはそれぞれ単一品種で、左からエスパディン、クプレアータ、セニソ。

左のエスパディンは、やはりいちばんオーソドックスな味わい。マイルドでありながらスモーキーで、メスカルならではの特徴がわかりやすい。真ん中のクプレアータは、青っぽさや草っぽさが感じられ、後からほろ苦さが追いかけてくる。そして右のセニソは46度。度数が上がるぶん、アルコール感はほかの2つに比べて早く来る。ただ、その奥にはまろやかな甘みとほのかな樽香があり、余韻も長い。

なるほど、3つともまったく違う。考えてみれば、同じ蒸留酒である焼酎やジンだって、ものによって個性も味わいも違う。ただメスカルの場合は、その振れ幅がひときわ大きい。ひとつのジャンルの中にいながら、その枠をぴょんと越えていくような個性の強さがある。

そして何より、アルコール度数が3550度くらいあるのに、嫌なつんとした感じが少ない。口の中でゆっくりほどけていくような、そんな印象があった。

試飲用のコピータ(小さい器)たち。どれも縁は厚く、飲み口が広いからか、アルコールの口当たりがまろやかに感じられる。

コピータに入ったメスカルを見て、「これって一気に飲むものですか」と聞いてしまった瞬間、すべてがバレたような気もしますが、メスカルはなめるようにちびちびと楽しむもの。

現地ではメスカルグラスや、ヒカラ(ひょうたんの器)で飲まれる。メスカルグラスは、教会のキャンドル入れを使っていた流れから、裏に十字が印字されている。

そして、メスカレリア(メスカルを飲む場所)に行くと、よく一緒に出てくるのがオレンジと塩だという。塩と言っても、わたしたちが想像するような塩ではなくスパイスやハーブがいろいろ混ざったもの。
今回は、「サル・デ・グサーノ」というアガベを食べる芋虫(グサーノ)の粉末とチリ、塩を混ぜたものと、チリ、ライム、塩を合わせたすっぱくて辛いスパイスミックス「タヒン」が添えられていた。

テキーラと一緒に出てくるライムとは違い、メスカルのオレンジはあくまでおつまみ。

オレンジに塩をつけて食べるもよし。塩だけ、ちょんってするのもよし。
さんざっぱら薬味だけで酒は飲めると公言しているので、わたしはもちろん塩でいただきました。いもむし塩うまい。 

「メキシコで食事とメスカルを合わせているところにあまり遭遇したことがない。食事の時ってビールを飲んでる人の方が多いし、飲むとしたら食前食後。」
「でもそれって、欧米の食文化が影響してる。向こうって食事の前に一杯ひっかけて、食事は食事。そして終わったらバーに行って飲むみたいなスタイルが多いけど、日本は食事とともにお酒を飲むっていう文化じゃないですか。」

ああ、だから日本では、ストレートでちびちび飲むメスカルを食事に合わせるために、ハイボールという飲み方が選ばれるのかもしれない。そう思うと、腑に落ちた。

メスカルのチェイサーとしてのビール。
そんな発想から、[MANGOSTEEN]は山梨・北杜で[万珍醸造]のビールづくりを始めたという。今ではラインナップも増え、すべてがチェイサーのためというわけではないけれど、低アルコールのものが多いのには、その考えが大きく関係している。

店内のショーケースには、[万珍醸造]でつくられるビールも並ぶ。

せっかくなので、今あるラインナップの中からメスカルに合いそうなものを選んでもらうことに。この日いただいたのは、「すべての働く人たちへ」というDRYHOPPED LAGER
キレのある軽やかな飲み口で、メスカルの余韻を邪魔せず、次の一口へとつないでくれる。なんともちょうどいい。

「ミドルとハイぐらいのところで酔う感じ。」
酔ってはいる。でも、思考はクリア。
メスカルの酔い心地について、宮さんはそんなふうに話してくれた。

お酒のジャンルによって、酔い心地は違う。だからこそ、「この後に何を飲んだら自分が一番気持ちよくなるか」を考えながら、その日の流れを自分で組んでみる。そんな楽しみ方もあるのだと、ハッとさせられた。

「酒は飲んでも、飲まれるな」という言葉は大事。けれどそこには少しだけ、お酒に対するネガティブさも含まれている気がする。

音楽と同じで、お酒にも始まりがあって、展開があって、終わりに向かってムードが変わっていく。その流れを意識しながら飲むことは、お酒に対して案外いちばん誠実な向き合い方なのかもしれない。

メスカルを学びに行ったつもりが、お酒の飲み方そのものまで教わってしまった。
自分、まだまだです。

万珍酒店
住所:東京都世田谷区代沢4-29-14
営業時間:14:0022:00
店休日:月曜日
IG: @mangosteen_liquors

Photo by Ryota Isogai (写真 磯谷 亮太)IG @kanosala_
Text by Terra Owen 

TAGS

WHAT TO READ NEXT

RiCE編集部からお便りをお送りしています。

  • 最新号・次号のお知らせ
  • 取材の様子
  • ウェブのおすすめ記事
  • イベント情報

などなど……RiCEの今をお伝えするお手紙のようなニュースレターを月一回配信中。ご登録は以下のページからアドレスとお名前をご入力ください。

ニュースレターの登録はコチラ
PARIYA CHEESE STAND Minimal Bean to Bar Chocolate
BALMUDA The Kitchen
会員限定の最新情報をいち早くお届け詳しく