GWに行きたい軽井沢ガイド #2
[ガガン][caveman]を経て軽井沢へ。日常にひらくワインバー[stand fog]
軽井沢・発地(ほっち)エリア。軽井沢といえば、駅周辺や旧軽井沢の華やかな通りを思い浮かべる人が多いが、ここはそこから少し離れた場所。観光客で賑わう軽井沢のイメージとは異なる静かな空気が流れるこのエリアには、自然豊かな[軽井沢レイクガーデン]があり、その敷地内にここ数年で新しい店が少しずつ増えはじめている。
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店内からはレマン湖を一望できる。この景色を楽しんでほしいと言う思いもあり、明るい時間帯から営業している。
2025年10月にオープンしたワインバー[stand fog]もその一つだ。
オーナーは、森本浩基さん。東京や海外のレストランでソムリエとして経験を重ねてきた。そのキャリアは、レストランの第一線だ。
アジアのベストレストラン1位にも輝いたことがあるタイの名店[ガガン]で約1年半、ソムリエチームの一員として働いた経験を持つ。きっかけは知人からの紹介だった。「日本人のソムリエを探しているらしい」という話を受け、「面白そうだから行ってみよう」と決めたという。当時すでに[ガガン]は将来的な店のクローズが決まっていたこともあり、「2年くらいなら」と軽やかに飛び込んだ。
2019年に帰国後は、[kabi]の姉妹店としてオープン準備が進んでいた日本橋[caveman]へ。当時のオーナーシェフ黒田敦喜さん(現[AC HOUSE])とのつながりもあり、オープニングメンバーとして参加し、約5年間にわたりマネージャーとして店を支えてきた。
その[caveman]は2025年2月にクローズ。次のステップを考えたとき、「どこかで働く」という選択肢は浮かばなかったという。
「自分でやるタイミングなのかなと思ったんです」
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[caveman]でともに過ごした仲間たちは、いま各地で店を構え活躍している。先日蔵前にオープンした[ours]の熊取谷准シェフも、[stand fog]のオープン時には駆けつけるなど、森本さんを取り巻くつながりは今も続いている。
そうして選んだのが、妻のあゆみさんの地元に近い軽井沢だった。あゆみさんの実家は、軽井沢に隣接する群馬県嬬恋村で代々農業を営む。地域の人々にとって軽井沢は生活圏でもあり、森本さん自身も以前からこの土地を行き来していた。[caveman]の閉店からわずか2か月後には現在の物件が決まり、スピーディーに新しい店づくりが始まっていった。
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店内はテーブル席が3卓に加え、約8名ほどのスタンディングスペースを備える。
軽井沢は観光地であり、避暑地であり、別荘地でもある。二拠点生活の人や、夏だけ戻ってくる人も多い場所だ。そうした環境の中で、森本さん自身はこれまで“ハレの日”の印象を強く感じていたという。
「夏になると、富裕層の方が多く訪れて、高級車が並ぶような風景があって。そういう人たちを対象にした店が多い印象でした」
もちろんそれも軽井沢の魅力のひとつではある。ただ、その一方で、この土地を訪れるたびに感じていたのは、日常の居場所の少なさだった。
「地元の人たちが、もう少し気軽に通えるようなお店があればいいのになって思っていたんです。だからこそ、ふらっと一杯飲みに来るとか、ちょっとだけつまんで帰るとか。犬の散歩のついでに立ち寄れるような、そういう場所にしたかったんです」
[stand fog]が目指すのは、“ハレの日”ではなく“ケの日”。観光のための店ではなく、地域に暮らす人たちが日常的にワインを楽しめる場所だ。
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“ケの日”の延長として気軽に過ごせる酒場を目指し、ワインは一杯から楽しめる。
店の空間も、その想いをそのまま表している。湖を望むロケーションを活かしながら、気軽に入れる距離感を大切にした設計。明るい時間帯から営業しているのも特徴で、15時ごろから訪れて夕暮れまでゆっくり過ごす人も多い。時間帯によって客層が変わるのも、この店ならではの風景だ。
フードメニューは、野菜を中心に構成。使っているのは、あゆみさんの家族が嬬恋村で手がける[CULTIVATE(カルチベイト)]の野菜。兄弟で育てている畑から届く新鮮な野菜を、できる限りシンプルに調理して提供している。
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ワイルドクレソンと苺ピクルスのサラダ。嬬恋村の清らかな湧き水のそばで育つ野生のクレソン。栽培のものに比べて味わいはクリアながら、噛むほどに心地よい辛味と深みが広がる。この繊細なクレソンに、あゆみさんが仕込んだ夏苺のピクルスを合わせた一皿。北欧では苺をピクルスにして保存食として楽しむ文化もあるという。
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定番のロールキャベツ。嬬恋村がキャベツの産地であり、あゆみさんの実家も代々キャベツ農家だったことから、その美味しさを生かしたメニュー。一般的に煮込むことの多いロールキャベツだが、キャベツの食感と味わいをしっかりと残すためにあえて蒸して仕上げている。中は鶏もも肉のミンチに、塩とナツメグのみというシンプルなもの。余計な要素を削ぎ落とすことで、キャベツ本来の甘みや風味が際立つ、軽やかで滋味深いロールキャベツに仕上がっている。
森本さん自身は、これまで料理人としてのキャリアを歩んできたわけではない。だからこそ、自分にできることを見極めたうえで、無理に手を加えすぎないスタイルを選んだ。
「できることが限られているからこそ、シンプルに。本当に美味しい野菜を焼いて、塩をふって食べていただく」
しかし、その一皿にのる野菜の鮮度は圧倒的だ。店の2階が森本さん夫妻の住居になっていることもあり、夕方になると、あゆみさんが畑から収穫してきた野菜をそのまま店に運び込むこともある。2時間前に畑にあったものが皿に乗る。その距離の近さが、この店の大きな魅力になっている。
ワインはナチュラルワインを中心にセレクト。フランスの生産者を軸に、畑から醸造まで一貫して手がける小規模な造り手のものが並ぶ。ただし、ペアリングを前提にした提供ではない。
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フランス・オーベルニュの[ドメーヌ・ラ・ボエム]による、シャルドネがメインのスパークリング。柑橘のニュアンスが軽やかに広がり、暖かくなってきた軽井沢にぴったりの一杯。
「難しいことを考えずに、それぞれが美味しいと思う楽しみ方をしてほしいんです」
これからの展望について森本さんは、「まずはこの土地の人に楽しんでもらうこと」を挙げる。ナチュラルワインに馴染みのない人にも、その面白さを伝えていきたい。そしてもう一つ大切にしているのが、農業とのつながりだ。
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軽井沢という土地柄、ノンアルコールドリンクも重要な存在だ。[kabi]や[caveman]で培った経験をもとに、水出しのお茶や、季節の果実を使った自家製ドリンクなども用意している。
「ここでしか食べられないものを通して、季節や自然を感じてもらえたら」
何でも手に入る時代だからこそ、その土地でしか味わえないものに価値がある。畑と店がつながることで、食の背景にある風景まで届けることができる。
[stand fog]は、ワインを飲む場所であると同時に、軽井沢の日常をひらく場所でもある。特別な時間を過ごすための店ではなく、日々の中にそっと入り込む場所。そのあり方こそが、これからの軽井沢に求められているのかもしれない。
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stand fog
長野県北佐久郡軽井沢町発地342-110
15:00〜22:00
IG @stand_fog
【森本さんに聞いた 軽井沢のおすすめの店】
[サジロカフェ・フォレスト]
旧軽井沢にある[サジロカフェ・フォレスト]は、よく行くお店のひとつです。ネパール出身のニールさんと、奥さんのカヨさんが二人でやっているんですけど、ニールさんのセンスが本当にすごくて。
店内にはヨーロッパなどで自ら買い付けてきたアンティーク家具が並んでいて、その配置のバランスも絶妙なんです。照明ひとつをとっても可愛くて、空間全体がとても魅力的。スタッフのユニフォームもすごく良くて、細かいところまでしっかり作り込まれているなと感じます。
もちろん料理も美味しいですし、空間も含めて楽しめるお店です。
Photo by Shouta Kikuchi (写真 菊地晶太)IG @shouta.kikuchi
Text by Shingo Akuzawa(文 阿久沢慎吾)