GWに行きたい軽井沢ガイド #1
軽井沢らしい日常をつくる、小さなスーパーマーケット[Horse and the sun]
軽井沢・発地(ほっち)エリア。軽井沢といえば、駅周辺や旧軽井沢の華やかな通りを思い浮かべる人が多いが、ここはそこから少し離れた場所。観光客で賑わう軽井沢のイメージとは異なる静かな空気が流れるこのエリアには、自然豊かな[軽井沢レイクガーデン]があり、その敷地内にここ数年で新しい店が少しずつ増えはじめている。
その流れをいち早くかたちにしたのが、2024年にオープンした[Horse and the sun(ホースアンドザサン)]だった。
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店内にはイートインスペースを備え、カフェメニューをその場で楽しめる。
カフェを併設したグロッサリーショップであるこの店は、近隣を中心とした作り手による有機野菜などの生鮮品をはじめ、ハムやソーセージなどの加工品が並ぶ。一方で、それらの食材をふんだんに使ったドーナツやドリンク、ランチも提供。物販と飲食が緩やかに溶け合う日常に寄り添う場所だ。
オーナーは高橋今日子さん。新卒で[DEAN & DELUCA]に入社し、その後は徳島を拠点に農業や給食事業、レストラン運営などを手がける会社に所属。東京では系列のドーナツ店[FarmMart & Friends]に携わるなど、食を軸にしたさまざまな現場を経験してきた。
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「軽井沢に土地勘があるわけじゃなかったのですが、この場所の景色に惹かれて。あまり悩まずにこの場所に決めました」と話す高橋さん。
当初は慣れ親しんだ東京で店を構えようと考えていたという。しかし、生活と仕事のバランスを見つめ直したとき、「このまま東京でやるべきか」という疑問が生まれた。夫の主馬さんは木工作家として活動しており、制作に使う木材の保管場所にも都内では限界があった。
「このまま東京で続けるのは、ちょっと現実的じゃないなと思って」
そうして選んだのが軽井沢だった。主馬さんが木工に使う広葉樹が身近にあること、人の流れがあること、そして暮らしと仕事の距離を整えられること。その条件を満たす場所として、この土地が浮かび上がった。
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店内には、主馬さんによる木工作品がさりげなく並ぶ。空間の随所に、手仕事の温度が息づいている。
もともと「DEAN & DELUCA」で働いていたこともあり、目指したのはスーパーマーケット。食料品を選び、並べ、届けることに魅力を感じていた。そこにカフェの機能を掛け合わせることで、この場所で成立するかたちを探った。
並ぶ商品は、小規模な生産者によるものが中心。地域を限定せず、これまでの仕事で出合ってきた作り手や、軽井沢に来てから新たにつながった生産者のものが混ざり合う。四国の生産者のものが並ぶのも、そのためだ。
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調味料から菓子、飲料、生鮮の野菜や果物まで並ぶ店内。初めて出合うものも多く、新しい味を見つけるのも楽しい。
ドーナツを看板に据えたのも、前職で携わっていたこともあり手応えがあったのはもちろん、「誰にとってもわかりやすい食べもの」であることも大きかった。
「小さい子からおじいちゃんまで、“ドーナツ”って聞けばどういうものかイメージできるじゃないですか。だから美味しいドーナツがあれば、人は来てくれるんじゃないかなって思ったんです」
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ドーナツはプラントベースで仕上げており、佐久市の鈴木茂さんの日本ミツバチから起こしたはちみつ酵母を使った、やさしい甘さ。いつも売り切れてしまうほど人気の看板メニュー。チュロスは、高橋さんが「めちゃめちゃ美味しい」という群馬[東毛酪農]の乳製品とバターをたっぷり使用。サクッと軽い口当たりで食べられるクラシックなスタイルのチュロスだ。
カフェメニューは、ドーナツやドリンクに加え、カレーやフォカッチャサンドなどの軽食も用意。とくにフォカッチャサンドは、その時期に手に入る野菜によって中身を変えており、訪れるたびに違う味に出合える。
さらに特徴的なのが、生ハムの量り売りだ。隣町・御代田の[porco]のハムを使い、注文ごとにカットして提供する。
「量り売りって、ちょっとワクワクする感じがあると思っていて。パックされたものももちろん美味しいんですけど、やっぱり切りたてって全然違うので」
物販と飲食が同じ空間にあるからこそ生まれる体験。その“少しの特別感”も、この店の魅力のひとつになっている。
一方で、軽井沢という土地に合わせた工夫もある。別荘地という特性を踏まえ、調味料や日用品なども取り揃えている。目的がなくても立ち寄れる余白を残すことで、幅広い層に開かれた店を目指している。
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小さなスーパーマーケットとして調味料や日用品など、日々の暮らしに寄り添うアイテムが丁寧に揃えられている。
オープンから約2年。軽井沢は人口およそ2万人の町であり、特に冬は閑散期となる。それでも実際に店を始めてみると、想像していた以上に人の流れは長かったという。
春休みには若い世代が訪れ、年末まで観光客は続く。そして最も静かな1月と2月を、地元の人たちが支えている。
「思っていたよりも、たくさんの方に来ていただけて、支えていただいている感覚はあります」
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店のロゴマークが配された可愛らしいデザインのスウェットやT シャツ、キャップなどオリジナルグッズにもファンが多い。
発地エリアについても、店が点在するのではなく、ある程度まとまって存在していること。その距離感が、この場所ならではの面白さを生んでいると感じているという。
「こうやってぎゅっと集まっている環境って、なかなかないと思うので。最近新しいお店も増えてきてうれしいです」
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テラス席ではレマン湖を眺めながら、ゆっくりと食事を楽しめる。ペット同伴も可能で、静かな景色に包まれる贅沢なひととき。
今後について高橋さんは、「やれていないことしかない」と笑う。ただ、それを急いで形にしようとはしていない。やりたいことはある。たとえば、みんなで何かを仕込んでみる時間や、食材を囲んで過ごす場。ワークショップのように教える・教わる関係ではなく、もっとフラットに集まれる場をつくりたいと考えている。夫の主馬さんはアウトドア好きで、外での活動にも関心があるという。ただ、それもあくまで自然な流れの中で生まれればいい。
「自分たちが楽しくやっていて、やりたい人がいたら一緒にやる、くらいの感じが好きなんです」
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地元では「ホーサン」の愛称で親しまれる[Horse and the sun]。高橋さんは「とにかく緩くやっていきたいと思っています(笑)」と話すが、軽井沢の住民にとって日常に欠かせないお店となっている。
[Horse and the sun]が目指しているのは、ふらっと立ち寄り、少し過ごして、また日常に戻っていく。そんな緩やかな場所だ。軽井沢の余白の中で、この店もまた、静かに輪郭をつくり続けている。
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Horse and the sun
長野県北佐久郡軽井沢町発地348-55
9:00〜17:00(16:00 LO)
火水定休
IG @horse.and.thesun
【高橋さんに聞いた 軽井沢のおすすめの店】
食事と喫茶 一息
[一息]さんは、ご家族で営まれているお店で、雰囲気がとても素敵なんです。お客さんにおすすめを聞かれたときは、必ずご紹介しています。
料理はトラディショナルな洋食が楽しめます。何を食べても美味しいので、行くたびに違うものを頼むんですが、ご飯だけでなくケーキなどスイーツまでぜひ食べてほしいです。営業日数も多くて比較的行きやすいですし、コージーで、軽井沢らしい空気感があるので、どなたにも安心しておすすめできる一軒です。
IG@hitoiki_karuizawa
Photo by Shouta Kikuchi (写真 菊地晶太)IG @shouta.kikuchi
Text by Shingo Akuzawa(文 阿久沢慎吾)