ふらっと寄りたい小さな店が、また一軒。

蔵前の路地裏に生まれた、青い外観の[ours]


RiCE.pressRiCE.press  / May 7, 2026

蔵前にまたひとつ、この店を目当てにふらっと足を運ぶ、小さく光る星のような場所が生まれた。

取材前にわかっていたのは、「多国籍料理」と「店内も外観も青い」ということだけ。ぼんやりした情報ほど、想像は勝手に膨らんでいく。ちょっと入りにくいかもしれない。ところが、扉を開ければ至ってカジュアル&フレンドリー。隠れ家のようなこじんまりとした店内は、落ち着いて気の抜けたいい空気。蔵前にまたひとつ、馴染みになりたい一軒ができた。

「想像以上に青くなった」という鮮やかなブルーの外観が目印。実はここ曳舟に移転した[Comptoir Coin]の跡地。

蔵前駅から徒歩3分ほど。路地裏の一角に[ours(ウルス)]はある。カウンターを中心に8席ほど。目の届く距離感が心地いい、ワンオペの小さな店だ。料理を振るうのは熊取谷(ひしや)准さん。

こちらはワインの取引先からもらったという小さな木彫りの熊。[ours(ウルス)]は、フランス語で「熊」の意味。自身の苗字に「熊」の字があること、熊が好きなこと、そして容姿が“熊っぽい”と言われることを、ひとつの屋号に束ねた。名前のつけ方からも、どこかチャーミングな人柄が伺える。

熊取谷さんは約10年、フランス料理の現場で腕を磨いてきた。日本で基礎を積み、パリへ渡り現地で修業。[Dersou]での経験が、ジャンルにとらわれない発想の原点になっている。帰国後は、目黒[kabi]の姉妹店としても知られる日本橋[caveman]の立ち上げから携わり、約5年店の始まりから、2025年2月のクローズまでを支えてきた。

コース主体だった[caveman]とはがらりと変わり、[ours]はコンセプトもイージーな方向へと舵を切る。ランチは、パリ修業時代に街の定番食として親しんだこだわりのケバブを。夜はアラカルトメニューが8種類ほど。品数は絞りつつ、気分に合わせて、前菜からメインまで気ままに、軽くでもフルコースのようにお腹を満たすこともできる。

イメージは、「ホームパーティーの延長」というのだから、各式張らずカジュアルに楽しんでいい。

「一人でやっているからこそ、決まりを作りすぎない方が自由でいいんです。ジャンルも縛りません」

“多国籍料理”とひとことで言ってしまうのは簡単だが、その中身はもう少し繊細だ。フランス料理の技法をベースに、北欧や和食、時には東南アジアのエッセンスまでをボーダレスに取り入れる。

たとえば、トムヤムクンのニュアンスを落とし込んだソース。あるいは、アジフライから着想を得た一皿。豚バラは蜂蜜で照りをまとわせ、チャーシューのような甘さと香ばしさを引き出し、ザワークラウトのような酸味のある添えものを合わせる。どの料理も味が一辺倒にならないのは、自由な発想に満ちた熊取谷シェフの腕の光どころ。食べ慣れた料理の先に、まだ知らない味がある。

小さな厨房から、熊取谷さんは次々と想像の外側にある個性溢れるメニューを繰り出す。見た目も、舌にも嬉しい。次はどんな一皿が出てくるのだろう。そんな期待ごとつい味わいたくなる。

漬物のような「すぐ出せるもの」は、あえて置いていない。ひと手間を省かず、できる限りその場で調理の工程を挟みたいのだそうだ。その分、ワンオペの厨房はときに慌ただしい。けれど、そのライブ感も含めてこの店の楽しさだ。

食材は、軽井沢で[stand fog]を営む森本浩基さんの奥様の農家から届くものを中心に。[caveman]でマネージャーを務めていた森本さんの縁でつながった顔の見える仲間からの縁を大切に。

届く食材に合わせて料理を組み立てるため、メニューは約1週間ごとに入れ替わる。その分季節の移ろいが、そのまま皿の上に彩る。

PICK UP MENU
エビの頭から取った出汁にトムヤムクン仕立てのソースで、イカをマリネ。菜の花とともに盛り付け、数種類のオイルとハーブを散らす。仕上げに柑橘を搾ることで、香りが一気に立ち上がる(1500円)。
骨を抜いたアジを筒状に成形し、外側にパン粉をまとわせて揚げるため、中はレアな仕上がり。新玉ねぎと白味噌のソース、花わさびを合わせた、軽やかなアジフライ(1500円)。
やわらかく煮込んだ豚バラを焼き、蜂蜜を塗ってさらに焼き重ねる。甘さと香ばしさを纏うチャーシューのような味わいに、マスタードと紫キャベツの酸味を添える(3000円)。
ドリンクは、神保町[soif]で取り寄せる自然派ワインが中心。グラス数種(1200円〜)とボトルを用意する。

ひとりで切り盛りしているからこそ、店はまだまだ自由で、進化過程。ランチのケバブをもう一種類増やしたり、水曜限定でラーメンを、なんて案もあるらしい。店のかたちは、これからも少しずつ変わっていく。楽しみは尽きない。

ours
東京都台東区蔵前4丁目8-9
ランチ  火〜金 12:00~13:30
ディナー 月〜土 19:00~25:00
電話番号: 070-9456-7810
IG:@ours__shun_hishiya 予約はInstagramのDMまたは電話にて

Photo by Mishio Wada(写真 和田美潮)IG @mso_340
Text by Sakurako Nozaki(文 野﨑櫻子)

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