おいしいコーヒーで、気づけば地球にいいことしてた

コーヒー体験の新たな震源地! [SAMAA_]が三軒茶屋にオープン


RiCE.pressRiCE.press  / Oct 10, 2025

三軒茶屋駅から駒沢大学駅方面へ歩くこと約10分。[ロス・タコス・アスーレス]や[サンバレーホテル]といった都内でも実力派が並ぶ上馬エリアに、2025年10月1日、新たなニュースポット[SAMAA_(サマア)]がオープンした。

入り口は、全面ガラス張り。足を踏み入れた瞬間、築70年以上の長屋を大胆にリノベーションした開放的な空間が広がる

注目すべきは、この店が「コーヒー体験」そのものを次のフェーズに引き上げようとしている点だ。

「今のコーヒー業界には、失敗が足りないんです」。そう語るのは、オーナーの村上雄一さん。 10年間にわたり[BLUE BOTTLE COFFEE]でバリスタや、ブランドキュレーターとして、内装やコンセプト設計を手がけてきた。

「近年は新しさが薄れ、大きなムーブメントも起きていない。良い機材を導入すれば、一定のクオリティは出せる時代です」と村上さん。サードウェーブ以降、停滞しているようにも見えるコーヒーの現在地を、もう一度体験からリフレームしようとするその挑戦が、ここ三軒茶屋から始まろうとしている。

コーヒーの“次の一杯”をつくる。

では、[SAMAA_]の“挑戦”とはなんだろう。その鍵を握るのが、元[BLUE BOTTLE COFFEE]のトレーナーであり、 現在は抽出家として活動する藤岡響さん。

藤岡さんは、コーヒーに長く携わるなかで、その本質をより深く理解するために、あえてその外側に目を向けた。日本酒やお茶を学び、蕎麦屋やおにぎり屋の現場に立ちながら、「抽出」という行為を食文化全体の中で見つめ直してきた人物だ。

今回、村上さんからの誘いを受け、ドリンク開発を進めるなかで、ヒントのひとつになったのは、蕎麦の世界だという。

 「粗いものと細かいものを合わせると、角のない丸い味になる」。その感覚をコーヒーでも再現できないかと、 石臼を使って豆を挽いてみたりする。さらに、挽いた豆を水と直火で沸かすトルコの伝統的な手法・イブリックを取り入れたり、[noma]のようなガストロノミーレストランが導入する超音波抽出まで試みる。

超音波抽出によって生まれた「スーパーミルクブリュー」¥1,320。超音波を使ったコーヒードリンクは、世界でもほとんど例がないという。超音波の力で素材を乳化させるため、シルキーで一体感のある味わいに驚く

雑味のないクリアな味を理想とする今のコーヒー業界とは対照的に、[SAMAA_]は「プリミティブと最先端」を自由に行き来しながら、まだ誰も味わったことのない一杯を生み出そうとしている。

けれど彼らが目指すのは、“まだみぬおいしいコーヒー”だけではない。[SAMAA_]が目指すのは、おいしさを突き詰めていった先に「サステナビリティがある」。その考えを体現する新しいコーヒーショップとしての姿。

おいしさとサステナビリティ。その両方を、同じ熱量で。

二階建ての建物は、屋根裏まで吹き抜けにし、あえて梁をむき出しのままに。2階の窓から差し込む自然光がフロア全体に広がり、思わず背筋を伸ばしたくなるような心地よさがある

そんな考えの背景には、村上さん自身の経験がある。きっかけは、10年来の友人であり、現在は共同オーナーでもあるインドネシア出身のエドガー・ホンゴーさんとの再会だった。バリを訪れた村上さんは、彼の案内でサステナビリティを徹底的に実践するホテル[POTATO HEAD]や、未来型レストラン[LOCAVORE NXT]を訪れる。

そこで目にしたのは、おいしさの価値を超えた、新しい世界のかたちだった。サステナブルで、気持ちがよくて、人が自然と笑顔になる空間に「強烈に心を揺さぶられた」と村上さんは振り返る。

おいしさとサステナビリティ。どちらかを選ぶのではなく、どちらもちゃんと叶えたい。その体験が、「これからの時代にふさわしいコーヒーショップをつくる」という決意につながっていった。

その想いは、店づくりの細部にも息づく。 築70年以上の長屋の古材が残る空間には、 アップサイクル素材の家具や、廃ガラスを再利用したグラス、鹿児島の土と職人の手仕事による「ONE KILN」の器が並ぶ。

さらに、コーヒー豆かすはストーブなどに使えるブリケット燃料として再生し、 生ごみはコンポスト化して地域の土へと還す。日々の営みのなかで自然と循環が生まれていく。そんな小さな仕組みの積み重ねが、この場所をより気持ちのいい空間にしている。

フードは[étéco bread]監修のベーグルを毎日焼き上げる。写真の「サーモンクリームチーズ」¥1,320 のほか「トリュフエッグ」¥935 や、「あん焦がしバター」¥770 が並ぶ。自然派ワインと一緒に

一杯のコーヒーを通して、彼らが挑んでいるのは、おいしさとサステナビリティを、同じ熱量で追いかけるという新しい実験だ。視線は、国内にとどまらず、すでにグローバルな展開を見据えている。その前向きなエネルギーは清々しくて、思わず応援したくなる。

店内はペットフレンドリー!散歩がてら、立ち寄れるのもうれしい

ここで過ごす時間は、コーヒーを飲むというより、少し先の未来を、ひと足先に味わうような体験かもしれない。

SAMAA_

東京都世田谷区上馬1-33-7 (Google Maps
10:00〜22:00 
IG  @samaa_coffee 

Photo by Shin Hamada, Daisuke Shima
Text by Sakurako Nozaki

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