10代向けクリエイティブスクール・GAKUの講義へ潜入
「いとをしさ」をテーマにした“東京の定食”とは?
渋谷PARCOの9階にて開催されている10代向けのクリエイティブスクール「GAKU」を知っているだろうか? まだ脳みそが柔らかくて反射神経がよいうちから、音楽・建築・料理・ファッション・デザイン・アート・映像など…様々なジャンルの第一線で活躍するクリエイターたちをゲスト講師として招いて連日講義が開催。志高きユースに向けた画期的な学びの場である。
わたしはアラサーであり残念ながら登校することはできないので、まずは自習室として開放されている日にお邪魔して”モグリ”をさせてもらった。
集まっている生徒たちはファッショナブルだったり、ちょっぴりナードだったりそれぞれながら素敵な個性を放っている。黙々と自分の作業に打ち込んでいる子もいれば、恋バナ(ちなみに10代の恋愛トークは『ラヴ上等』に負けじとパワフルです)に興じていたり、事務局と呼ばれるコーディネーター的なスタッフと対話をしていたり、とにかく自由な空気。
きっとみなそれぞれに大事にしているものがあるけれど、それがいわゆる普通の学校ではなかなかハマらなくて、でも「GAKU」ならば尊重される部分があるのだろう。そんなことを感じさせる実にオープンな放課後タイムだった。自分が10代ならば通い詰めたい。お隣は宇川直宏氏が主宰するDOMMUNEがあり、濃度高めなカルチャーの香りもぷんぷん漂ってくる。大人でさえ刺激十分なのだから、感度の良い若者たちならばきっと数え切れないものを受け取るだろう。
そんなGAKUでは食ジャンルの講義も開催されていて、今年は「インティマシー・レッスン」という大きなくくり(他にもファッションや都市文化を探求する講義が開催、どれも面白そう)のなかで、「関係美食論」が開講されていた。
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”東京という都市で育まれた地元の食材に触れ、その食材や生産者との出会いを通じて、自分の暮らす場所との関係性を見つめなおしながら、一皿の料理を生み出していきます”(『関係美食論』カリキュラムより)
全9回、およそ半年間にわたって月に1〜2回のペースで行われた本講義には、約10名の生徒が参加。講義の舞台となった東京は、地方に比べて圧倒的に「消費」の比重が大きく、食材がどこで誰によってつくられているのか?その背景や関係性を実感しにくい場所だと思う。そんな中で生徒たちは、実際に東京都内の生産者のもとを訪ね、料理人と対話を重ねながら、食材や流通における「関係性」をひとつずつ掘り起こしていった。そんな試みの集大成として、1月に最終講義が行われたのだ。
最終講義では、生徒たちが半年間で感じたことや学んだことをそれぞれ言葉にし、プロの料理人へと伝達。そのコンセプトを受け取った料理人たちが一品ずつ料理を立ち上げ、それらを組み合わせるかたちで「東京の定食」が構成された。日常的でありながら、複数の要素と関係性が一つの膳の上に並ぶ“定食”という形式は、本講義のテーマである「インティマシー(いとをしさ)」を、最も素直に体現するフォーマットと言えるだろう。
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以上前置きが長くなったが、実際どんなメニューで定食が構成されたのか? その思考法やアプローチはどんなものだったのか? 講義の会場ともなった日本橋馬喰町・DDD HOTELの1階にあるレストラン[nôl]での模様をレポートしていく。
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まずボウルのなかにある、なんとも凛々しく濃いグリーンの小松菜。こちらを主役に据えた1品が開発された。小松菜は講義のなかで訪れた江戸川区の「門倉農園」のものだが、実際に訪れた生徒たちはどんなことを感じ、メニューに落とし込んだのだろう?
「今まで小松菜に主役という印象はなかったのですが、生で食べてもとても美味しい。凛としてふっくらしていますし、太陽に透かした時の葉脈が綺麗でみずみずしい。その小松菜たちがこんなにぎっしり生えていると想像できませんでした。(生徒談)」
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小松菜発祥の地・東京都江戸川区で小松菜の栽培を行う門倉農園。東京湾に面し、海からの潮風によってもたらされたミネラルをこの土地は多く含有している。小松菜栽培に適しているそう。代々受け継がれている独自の農法と土づくりにも並々ないこだわりが。
「ビニールハウスにこれでもか!と詰め込まれた、みどりの強いビジュアルが衝撃的で。“都市で農業をやる”とはこういうことなのか、とインパクトを感じました。面積が限られていても、利益を出すためのスタイルを徹底されている。代表の門倉さんは生産者ですが「経営者でありたい」とおっしゃっていたのも印象的でした。ネクタイを締めて成城石井や高島屋など、直接売り場を確保してもらうようにお願いしに行くこともあるそう。6代続いていらっしゃる農家さんで、お父さんの背中を見て自分も小松菜を作りたいというところからはじめられたそうなのですが、いいところは引き継ぎながら、革新的で新しいことにチャレンジされている。農業に対して自分が抱いていたイメージとは異なり新鮮でした(生徒談)」
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そんな生徒たちのインスピレーションに応答したのは、全9回の授業を率いたメイン講師である[nôl]丹野貴士シェフ。今回ナイフとフォークではなく、”直接手で食べる”という仕立ての料理を考案。
「限られた場所のなかで大切に育てられた小松菜である、そんな感覚を生徒たちからたくさん受け取りました。だから道具を使うのではなく、自らの手で直接味わっていただきたいなと思いました」
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盛り付けをする[nôl]丹野シェフ。「東京で働いているけれど、正直今までは自分が働いている街に愛おしさを感じることはあまりなかった。でも今回のプログラムで東京の生産者をめぐらせてもらって、自分自身愛着も湧いたし、何より普段レストランに来てくれる人にも、東京の良さを伝えていきたい。そんな気持ちが強まりました」
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小松菜は直接手で掴み、ディップソースにつけていただく。鹿肉のしぐれ煮に、豆腐のムース、黒いオリーブのソース。これらは土のように見立てていることもあり、実際に収穫するようなイメージの食体験がユニークである。門倉さん自身の「従来の農業のありかたをアップデートしていこう」というスタンスとも綺麗に重なる。
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なんと今回の定食にはアイスまでつく(嬉しい!)。瞬時には美味しそうなバニラアイス?かと見紛うものの、これがまた実に意外な食材で驚いた。実は椎茸をメインに据えているアイスなのだ。
椎茸は「KINOKO TOKYO」という、2025年に新規就農したばかりのきのこ生産者のもの。大田区の昭和島を拠点とし、工場や倉庫街エリアのビルの6階とまさに都市農業の最新形だが、訪れた生徒たちはどんな印象を抱いたのだろう?
「ビルのなかできのこ栽培が行われているとは知らなくて、自分の思っていた農業のイメージとは違いました。でも同時に自分は「農業という仕事」と「それ以外」を分けて考えていたんだなと気付かされました。「KINOKO TOKYO」さんは福祉事業として展開されている側面もあるのですが、お話を聞いているなかで印象的だったのが職場環境です。こと仕事をしている時にお互いが楽しめる環境づくりを意識されていること。自分が食べる食材にも、やはり人との関係性があって、そこにあたたかさや、今回のテーマでもある親密さ(インティマシー)を感じました(生徒談)」
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羽田空港や海が見えるビルの6階にある「KINOKO TOKYO」。椎茸は通常ビニールハウスで栽培されるものの、地価の高い都心ではなかなか難しい。KINOKO TOKYOでは部屋まるごとにビニールハウスの機能をつけた「菌床室」を作ることで、一年を通して都心での栽培を実現。菌床室は温度や湿度等を一定に保てるような設備が整っており、時間になると自動で散水を行う。とはいえ椎茸は生きものであり、機械では不足する部分もある。スタッフたちが目で見て一つ一つ丁寧に水やり、収穫もひとつずつハサミで刈り取られる。
この一皿のコンセプトを検討した生徒には「椎茸が苦手」という子もいたのだが、そんな彼女の発言も印象的だった。「今までは正直、椎茸の味わいが苦手でした。嫌いだから全く椎茸について知ろうとしてなかった。でも実際に生産されている現場を見たら、椎茸すごいかわいい。食べてみたい!と興味が湧いたんですね。自分と食材の距離が確かに変わっていく感触がありました。実際に餃子の中に入れて食べたら、いつもの餃子より美味しく感じたんです」
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生徒たちのインスピレーションを踏まえて、実際にアイスへと落とし込んだのは、 八重洲[8go] にてディレクターを務める野田達也シェフ。(写真中)
「生徒に好きな食べ物を聞いていく中で“アイス”というのがキーワードとして出てきたので、椎茸とお米由来のミルクでアイスを作ることにしました。椎茸が好きな子からも、苦手な子からも共通したのは“椎茸の魅力を感じてほしい”ということ。ですから目指したのは、椎茸を好きで食べている人には新しくて、苦手な人には美味しいな、というバランス感のアイスです(野田シェフ)」
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アイスクリームに添えられた白ごま油がリッチな風味をプラスしつつ、フライした椎茸もアクセント。「和食の定食を食べても違和感がないようなイメージで仕上げています」という野田シェフの言葉どおり、軽やかで新しい椎茸の食べ方の提案だった。
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定食を構成するもう一品として用意されたのが、こちらの料理。[ホテル椿山荘東京]の堀中翔太シェフ(写真右)が手がけた見た目にも美しい一皿は、低音調理した鰤を、さっとゆがいた蕪で巻いている。「全体的にインティマシーを感じるお料理にしたかったので、和のお出汁で優しく炊き上げてみました」。生徒からの「アスパラの肉巻きから連想巻いたら美味しいんじゃないか?」という言葉をヒントに着想した模様。野菜は国立市にある西野農園のもの。お米を中心に内藤カボチャや、あやめ雪かぶ、万願寺とうがらしなどの江戸東京野菜を育てている、13代続いている歴史ある農園だ。
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以上を構成要素として“東京の定食”が完成! 味噌汁にはシェフチームのネットワークより、青梅市の[豆腐工房ゆう]のお豆腐がたっぷりと入っている。貴重な国産大豆、近隣の農家さんとタッグを組んで豆腐用に開発したというクラフトマンシップあふれる豆腐は、味噌汁のなかにあっても甘味の強い大豆の味が際立っていた。
こうして完成した「東京の定食」は、生徒たちが半年間かけて向き合ってきた関係性の集積と言えるだろう。最後に、ここまでのプロセスを身近で伴走してきた野田シェフの言葉を借りたい。
「今回生徒の皆さんが訪ねた生産者の方々は、いわゆるマーケットや経済合理性を最優先する食のあり方とは、少し距離のある人たちが多かったと思います。土と向き合い、食と真摯に向き合いながら、ものづくりをしている人たち。そうした“価値のあるもの”が、特別な誰かのためだけではなく、誰にとっても優しく、きちんと成立する世界であってほしい。だからこそ、食べ物を選ぶときに、自分たちの目で見て、感じて、ちゃんと選ぶ。そういう判断基準や感覚を、若い人たちに伝えられたら嬉しいです。高度成長期のなかで、経済合理性のもとに優先されてきた価値観が生んだ歪み、“皺”のようなものが今の社会にはあると思う。その“皺”は、僕たち世代がすべて伸ばすことはできないかもしれない。でもこれ以上寄せることを一度止めて、次の世代にバトンを渡すことはできるはずだと思うんです」
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生徒たちがこの半年で得たのは、いわゆる料理専門学校で教えられる「料理のレシピ」や「食材の知識」ではない。東京という巨大な消費都市のなかにも、顔の見える生産があり、人の手の温度があり、そこに関係性を結び直す余地があるという実感だったと思う。
「小松菜は主役になれる」「椎茸はかわいい」「東京で育ったものを、東京で食べる」
そんな一つひとつの気づきは小さくとも、確実に自分との距離を変えていくはずだ。やがてそれは、彼ら彼女らが選ぶ食べ物や関わる仕事、都市との付き合い方に影響し、世界を少しずつ変えていくのだと思う。野田シェフが言うところの、「皺をより広げる」ことに寄与しながら。
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https://gaku.school
Photo by Ayumi Mineoka(写真 峰岡歩未)IG @ayumimineoka
Text by Shunpei Narita(文 成田峻平)

- Associate Editor of RiCE
成田 峻平 / Shunpei Narita
『RiCE』副編集長。1997年宮城県仙台市生まれ。Media Surf Communicationsを経て、ライスプレス入社。