GWに行きたい軽井沢ガイド #3

フィンランドの空気を軽井沢で。[一年]が移転オープン


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 29, 2026

軽井沢・発地(ほっち)エリア。軽井沢といえば、駅周辺や旧軽井沢の華やかな通りを思い浮かべる人が多いが、ここはそこから少し離れた場所。観光客で賑わう軽井沢のイメージとは異なる静かな空気が流れるこのエリアには、自然豊かな[軽井沢レイクガーデン]があり、その敷地内にここ数年で新しい店が少しずつ増えはじめている。

425日にオープンした[一年]は、もともと同じ[軽井沢レイクガーデン]の敷地内の長屋で、“1年間限定という形で営業していた。店名の通り、一年の区切りを迎えたが、移転するかたちで新たにスタートを切った。

神奈川県出身の吉崎亜紗子さん。2024年に[一年]をオープン。店の空気感そのままに、やわらかな佇まいが印象的だ。菓子作家としても活躍している。

店主は吉崎亜紗子さん。東京で複数の飲食店に勤務した後、縁あって群馬・前橋へ移り、フリーランスとしてレシピ開発やお菓子教室、イベント出店などを行ってきた。料理を軸に柔軟な活動を続けてきた吉崎さんは、イベントを通じて知り合った軽井沢の店の立ち上げに関ることになり、この地に移住。新たな展開が生まれていく。

そのきっかけのひとつが、フィンランドへの旅だった。家具デザイナーである夫・祐さんは、かつてフィンランドのアールト大学に留学していた経験がある。日々の会話の中で自然と話題に上がっていたその国へ、仲間たちとともに訪れることになった。

同時期に、知人から「海外に行くので長屋をしばらく使ってみないか」という話が持ちかけられる。海外から戻るまでの期間限定という条件だったこともあり、まずは気軽に間借りという形で店を始めることにした。レシピ開発を中心に活動してきた吉崎さんにとって、自分の店を持つのは初めてのことだったが、「まずはやってみよう」と、小さな一歩を踏み出した。

「せっかくフィンランドに行くなら、その料理をやろうと思ったんです」

旅と店の準備が並行して進み、現地で食べ歩いた味をもとに、フィンランド料理を軸とした店づくりがスタートした。

看板メニューのひとつが、フィンランドスタイルのシナモンロール。日本で一般的なアイシングのかかったものとは異なり、生地には粗挽きのカルダモンを練り込み、上にはパールシュガーをのせるのが特徴だ。現地では街のあらゆる場所で目にするほど日常に根付いた存在であり、その味を再現するために現地で何度も食べ歩いたという。

フィンランドスタイルのシナモンロール。日本でよく見るアイシングがかかった渦巻き型とは異なり、横に倒して潰したような独特のかたちが特徴。シナモンロールに合わせてブレンドしたオリジナルコーヒーは、中軽井沢のロースター[Narrative Approach Coffee]に依頼し、シティローストの中深煎りで仕上げている。飲みやすく、バランスの良い味わいが好評だ。

もうひとつが、サーモンスープだ。フィンランドでは味噌汁のような存在で、家庭でも外食でも広く親しまれている。クリームベースながら軽やかな口当たりで、サーモンとじゃがいもがごろりと入る。大きな器で一杯でも満足できるボリュームで提供している。

移転によって、店のあり方も少しずつ広がっている。これまでは朝から昼にかけての営業だったが、新店舗では営業時間を16時まで延ばし、カフェとしての利用も意識。スイーツメニューのさらなる充実も見据えている。

朝は8:30から営業しており、スープやパンのセットなど朝食メニューも充実。近隣では朝から食事ができる店が限られているだけに、早い時間から開いているのも嬉しい。

ドリンクにも、この店らしさが表れている。コーヒーはシナモンロールに合うよう、中軽井沢のロースターとともにオリジナルブレンドを開発。さらに、カルダモンを使った自家製シロップを用いたソーダなども提供している。新店舗ではテラスも設け、夏にはビアガーデンのような空間づくりも考えている。

店のすぐそばに広がるレマン湖。静かな水面と周囲の風景が、どこかフィンランドを思わせる。

「私たち夫婦は二人とも飲むのが好きなので、この景色の中で夕方にちょっと飲める場所にできたらいいなと思っています」

店内の家具は、祐さんが手がけたもの。フィンランドでの経験をもとに、自然と調和しながらも洗練されたデザインを取り入れている。ゆったりとした空気感の中に、どこかキリッとした美しさがある。そのバランスこそが、この店の目指す方向性でもある。

フィンランドの空気感を写し取った店内。湖のある自然に寄り添いながら、どこか洗練されたデザインが共存する。ゆったりとしていながら、ほっこりしすぎないバランスも心地いい。こだわりの照明にはフィンランドのメーカー[Artek]のものを採用している。

さらに新店舗では、本の販売も行う。フィンランドへの旅にも同行したブック・コーディネーター内沼晋太郎さんが選書を担当し、旅や暮らしにまつわる本が並ぶ。2階には[friscum(フリスカム)]というアート&クラフトギャラリーを併設し、作家ものの工芸品や生活道具、天然繊維の衣服などを紹介。飲食だけで完結しない、文化的な体験の場として広がりを持たせている。

友人でもある内沼家の協力もあり、店内に新たに設けられた本のコーナー。書店の少ない軽井沢において、新しい本と出合える貴重な場所になりそうだ。

2階は渡辺敦子さんが主宰する[friscum]。約1ヶ月ごとに展示が替わり、5月は栃木県益子町の[pejite]の器や、タイで手仕事を生かしてものづくりをしている[planeta organica]の展示会などを予定してる。

店名の[一年]は、もともと期間限定の営業から生まれたものだが、同時に季節の巡りを意味する言葉でもある。四季の食材と向き合ってきた吉崎さんにとっても、自然な名前だった。移転に際し「2年にするの?」とよく聞かれたというが、その名前を変えることは考えなかった。

「オープンして間もないですが、内装と眺めを褒めてくださる方が多くて。フィンランドに住んでいた夫が設計してくれたので、雰囲気ごと楽しんでもらえているのが嬉しいです」

オープン日は開店を祝い多くの人が訪れ、店内は和やかな空気に包まれた。吉崎さんは現在妊娠9ヶ月。無事にオープンを迎え、まもなく産休に入る予定だ。

目指しているのは、単に食事をする場所ではない。朝にシナモンロールとコーヒーを楽しみ、本と出合い、2階で作家の手仕事に触れる。そんな時間の積み重ねが、日常を少し豊かにしていく。

「とにかく、ゆっくり過ごしてほしいですね」

軽井沢の風景の中で、食と文化が静かに重なり合う場所として、[一年]は軽井沢の暮らしの中にこれから根づいていく、その歩みがいま始まったのだ。

新たに加わったスタッフと吉崎さんご夫婦。GW期間中は休まず営業する予定。

 

一年
長野県北佐久郡軽井沢町発地414-90
8:3016:00
火水定休                               
IG @ichinen_karuizawa

【吉崎さんに聞いた 軽井沢のおすすめの店】
aVin(アヴァン)
aVin]は、もともと[コモングラウンズ]に入っていたワインショップで、最近は[T-SITE]にも2店舗目ができたんです。フランスのワインだけでなく、信州のナチュラルなつくり手のものもたくさん揃っていて、本当に美味しいワインに出会えるお店です。
うちでもよくワインを買いに行きますし、何か集まりがあるときは、自然と[aVin]に足が向きます。遠方から友人が来たときにも、地元・長野のワインを紹介できるのでおすすめしています。

Photo by Shouta Kikuchi (写真 菊地晶太)IG @shouta.kikuchi
Text by Shingo Akuzawa(文 阿久沢慎吾)

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