ショコラブランド[ヴァローナ]と東京藝術大学のコラボイベント

藝大生8名がアートで捉える“チョコとわたしの関係性”


RiCE.pressRiCE.press  / Feb 9, 2024

[ピエール・エルメ・パリ]や[ジャン=ポール・エヴァン]など、世界のパティシエたちに支持される[ヴァローナ](▶︎HP)。創業100年の老舗ショコラブランドだ。

そんな[ヴァローナ]は、現在「まだ見ぬ特別なチョコレート体験(物語)」と題した東京藝術大学とのコラボイベントを実施中。2月17日(土)までの期間限定で、デザイン科修士の学生メンバーたちによるヴァローナチョコレート・インスパイアの作品を鑑賞できる、またとない機会だ。

三越前駅から徒歩5分程度のオープンスペース[+NARU NIHONBASHI](▶︎HP)が会場となった。入場料は無料

トップシェフやパティシエなど作り手の間で愛されてきた歴史が長い[ヴァローナ]。「このタイミングで、なぜアート作品を?」と思う人もいるかもしれない。

その理由は、ヴァローナチョコレートの秘められたポテンシャルと、今後のビジョンにある。味・サステナビリティ・シェフ目線での品質やサポートという3本柱を叶えるチョコレートは、香りや口溶けにすぐれているのみならず、カカオ生産などの来歴が強く意識されているものばかり。

アートによって、そんなヴァローナチョコレートの文脈を掬い上げることで、チョコレートの創造性を高めると共に、100年先を見据えたチョコレートのあり方を考えるという試みなのだ。

プロジェクト概要はこちら

学生メンバーは、カカオ原産地やチョコレートの味わいなどにまつわる対話、パティシエが行う作業工程の体験を通し、数ヶ月間に渡ってチョコレートへの学びを深めた

会場では、学生がそれぞれセレクトした  “自分の作品に最も合う” ヴァローナチョコレートを味わいながら作品を鑑賞する時間を過ごすことができる。

参加メンバーと出展作品はこちら↓

1.  五十嵐 央「TRADE – カカオはチョコレートに チョコレートは夕陽の写真に – 」/行為の記録、アートブック
2.  小澤良奈「34.5度 」/フォトグラフィー+詩
3. 張瀅鑫「密かに踊る、静かに歌う」/水彩画
4. 何川「BELOVED CHOCOLATE」/インスタレーション
5. 松下穂香「Floating image of cacao」/フォトグラフィー
6. 政井歌「terroir」/グラフィック
7. 小此木 みなみ「とけないままごと」/シルクスクリーン
8. 源川 眞子「チョコと世界が広がる体験」/アニメーション

選んだチョコレートがさまざまであれば、学生メンバーのチョコレート観や表現も十人十色。8つの展示作品から、“まだ見ぬチョコレート体験”を見つけにいこう!

1. TRADE – カカオはチョコレートにチョコレートは夕陽の写真に – (行為の記録、アートブック)

手元にある1枚のチョコレート。
これを、ある人は飴と交換してくれた。
ある人は煙草と交換してくれた。
ある人は夕陽の写真と交換してくれた。
このチョコレートは私に届く以前にも、
何度もの交換(TRADE)を繰り返してここにある。
この交換の続きを、私が新しく作ってみる。

五十嵐

チョコレートを他人と物々交換し、その交換物を線画としてチョコレート包装紙の裏側に印刷。生産、加工され、消費者であるわたしたちの手に渡るまで数多くのトレード繰り返してきたチョコレートを“消費”するのではなく、誰かに手渡すことで、原産地から地続きの存在としてチョコレートを捉え直した。

夕日の写真、握手、ネジ —— 各人がチョコレートと交換したものは様相も形式もさまざま。フェアトレードという社会的なテーマを個人的な営みに引き寄せることで、社会と自分との間にあるつながりについて考えるきっかけを与えてくれる。

作者・五十嵐央さん(写真右)

「例えば、コンビニで買ったチョコレートが何処からきたのか。その背景は、なかなか想像がつきません。これは、消費者である僕たちとカカオ農家の方たちとの乖離であるとも思っています。今回行ったのは、手元のチョコレートを食べるのではなく周りの人に渡し物々交換をすることで、チョコレートのトレードの輪に入ること。自分の手の届く場所から、改めて生産地のことを考えたいと思いました」

そんな五十嵐さんが選んだチョコレートは、「グアナラ GUANAJA 70% グラン・クリュ(ブレンド)」。エレガントな苦味と持続性のある香りが特徴のハイカカオチョコレートからは、力強いカカオを感じられる。香りの余韻と共に、カカオ生産地や、農家に想いを馳せる時間を過ごして。

2. 34.5度(フォトグラフィー+詩)

指先で触れて数秒後、体温を伴うかのように、
チョコレートの甘い香りは記憶を助長する。
記憶は温度を含んでいるようで、
眠たげで鮮明に、あの頃を連れてくる。

小澤良奈

バターやラードなど他の油脂と比較しても融解の温度幅が狭いカカオバター。34.5度を境に、素早く溶けることで滑らかな口溶けが実現される。そんなチョコレートの特性にフォーカスしたのが「34.5度」。34.5度から始まり、35.2度、35.8度、36.0度、37.5度と上がっていく5段階の温度に、自らの体温を重ねあわせた詩とフォトグラフィーによる作品だ。

どこか切ない恋愛の空気感をまとう作品は、チョコレートの温度だけではなく、甘くビターな味わいも内包。逡巡や鼓動、自己と他者との間に意識される距離感、折り重なる時間軸……香りのように霧散してしまいそうな儚さを閉じ込めた詩に写真の抽象的なイメージが加わることで、鑑賞者の記憶もやさしく呼び起こされる。

作者・小澤良奈さん(写真右)

「“カカオバターは34.5度から溶け出す”という話が印象的だったので、その温度幅の中で、自分の温度(記憶)にまつわる詩を書きました。『前髪のびたね』という言葉をもらったときの微熱の余韻、普段つけない香水の甘い香りが体温で少しずつ変化すること、まばたきのときに睫毛がまとう仄かな温度——身近な温度が、言葉を通して伝われば

そんな小澤さんが選んだのは、「グアナラ GUANAJA 70% グラン・クリュ(ブレンド)」。「ビターチョコだけどしっかりと甘味が感じられるところが、愛しいという感情とリンクするように感じました。チョコレートの濃い色味が、写真のベースのトーンとも近い気がしています」

3. 密かに踊る、静かに歌う(水彩画)

宝石の堅固な輝き、
柔らかな川の流れ。
口の中でゆっくりと融ける瞬間、
私が不得意な甘さと深く愛する香りが広がってくる。
硬さと柔らかさ、甘さと香り、
それはすべて小さな結晶たちが密かに踊り、静かに歌っているのだ。

張瀅鑫(チョウ エイシン)

温度を調節しココアバターを安定した結晶にする作業・テンパリングを経て、口どけや艶が実現されるチョコレート。ヴァローナのショコラ専門技術校「エコール・ヴァローナ 東京」での実際のテンパリング体験からインスピレーションを得て、チョコレートの結晶が妖精として描かれた。

3枚の絵画は左から順に、「チョコレートを口に含んだとき」「溶けていくとき」「香りの余韻がのこっているとき」を表現。絵画の前でチョコレートを食べると、香り、口溶けなどの奥に躍る妖精と出会う体験ができる。一口への想像力が味わいを輝かせることを教えてくれる、魔法の絵画だ。

作者・張瀅鑫さん(写真左)

「今回のテンパリング体験を通して、初めて結晶の存在を知りました。私にとって妖精とは、いろんな世界を純粋でロマンチックに解釈したもの。正体を知らないから魅力的に見える、そのあり方がまさにチョコレートの結晶と重なりました。食べているときの感覚を妖精のように感じることで、チョコレートの香りや味わいを楽しんでほしいです

「オパリス OPALYS 34%」

そんな張さんが選んだのは、「オパリス OPALYS 34%」(上写真)。甘さ控えめでカカオマスが含まれていないホワイトチョコレートは、よりカカオバターの食感を感じられる。「作品で描いた結晶はカカオバターの成分なので、結晶の妖精たちはカカオバターに住んでいます。オパリスを食べるとき、そのなめらかな口溶けを味わいながら、結晶たちが踊っている姿もいろいろご自由に想像してほしいです」

4. BELOVED CHOCOLATE (インスタレーション)

遠ざけようとしているはずなのに、なぜかいつもチョコがわたしのそばに現れる。その包装に宿りし悦びと困惑。予想とは裏腹に、制御不能な距離が新たな物語を紡いでゆく。個人的にはチョコは苦手だ。が、それは世間に溢れ愛され貰われ、どういうわけか時折買ってしまうことさえある。

チョコは剥き出しではなく多くは箱入りだ。それを封じ込めるプレゼントの箱は人が人との距離を縮ませたい時に手渡されていくメッセンジャー。

包まれ封じ込められた空間内でしか見ることのできない絵は、場合によっては圧迫や没入へと人を誘う。そこでチョコと共存し巻き込まれていく。ただしその程度は、その人その人で異なる。本作はこの、微妙でなんとも言えないその距離感で悦びと困惑をテーマとする。

川(ホ チュエン)

チョコレートが苦手だという何さん。コの字型に展示された絵画空間の奥へと進むと、赤いリボンのかかったチョコレートにつきあたる。

本来喜ばしい存在であるはずのチョコレートの、異質さや圧迫感。至る所に存在するチョコレートから “逃げられない” と感じる何さんの視点から、チョコレートのドキリとする側面を垣間見ることができるインスタレーションだ。チョコレート好きにこそ、ぜひ体感してほしい。

作者・何川さん

「実は私はチョコが苦手なのですが、世の中にはチョコが溢れています。気がつくと、いつも近くにあるんです。そんなチョコと自分との微妙な距離を感じてほしいです

そんな何さんが選んだチョコレートは、「インスピレーション・フレーズ」。ストロベリーの味わいと、鮮やかなピンク色が特徴のチョコレートだ。「1番好きな果物が苺なので、自分の苦手なもの(チョコ)と好きなもの(苺)を同時に味わうことの曖昧さが味わえます。この力強い香りが、プレゼントをもらった時の高揚感とも似ています」

5. Floating image of cacao (フォトグラフィー)

私はカカオという実を実際に見たことがない。

カカオについてのイメージを調べるうちに、自分の中での「カカオ」のイメージの定義がまったく定まらないことに気づいた。

緑色でやや長く、或いはオレンジ色で丸く、或いは茶色で小さく…。

AIが膨大なインターネットの海からカカオのイメージを拾い上げるような行為と同じ要領で、自分も同じように遠い国のカカオとはどのようなイメージなのかを学習し、その境界を厳しく定めることなく広義に捉え、我々の日常にチョコレートが存在するようにカカオのイメージも身近に存在することを定義する。

その行為は遠くの国で育ったカカオと自分との遠い距離を繋げるだろう。

松下穂香

カカオに対して抱くイメージを“定まらない”と定義し、カカオかもしれないと思ったものを収めた写真たち。色や形も多様な“カカオらしい”写真を通し、松下さんが日常にカカオを探し続けた軌跡をたどることができる。

実際にカカオを見たこともなければ、原産地を訪れたこともない。だからこそ、飽くなき探求で考えることができる。カカオを、世界を、わたしたちがどのようにまなざすのか問いかけてくれる作品だ。

作者・松下穂香さん(写真右)

「カカオって一体なんなのかを考えていくと、自分にとってのカカオは、“定まらない”ものではないかと思えてきました。『これってもしかしたらカカオかもしれない』と感じるイメージを写真に収めることで、カカオの定まらなさを定めた作品です

そんな松下さんが選んだのは、「バイべ・ラクテ BAHIBE LACTÉE 46%
グラン・クリュ(シングルオリジン) ドミニカ共和国産カカオ 」。苦味や植物らしい香りが、自分の想像するカカオと近い気がしました。このチョコレートを食べ、原産国のことを想像しながら味わってみてください」

6. terroir(グラフィック)

テロワール。フランス語で地球、大地の意味の言葉。

チョコレートの味はこのテロワールによって変わる。赤道付近の遠い国々でカカオは作られ、長い時間をかけて私たちの手元に届く。チョコレート一粒にはそんな長い時間と場所が内在しているのだ。

チョコレート一粒を味わう体験は、自身のテロワールを探すきっかけとなった。

自分にとっての私を形成する価値観や記憶のテロワールを実感するとき、それは日記に記されていた他者との会話で出た言葉のかけらだった。日記にある言葉と、日常の記憶の映像から文字を集め日記の言葉を再構成した。

私を構成するテロワール。

政井歌

土壌、気候など土地特有の性格・テロワールがカカオの味を作る。では、自分の構成要素はなんだろうか? こうした問いから始まった政井さんのテロワール探し。他者からもらった言葉を、普段見ている風景の写真から抽出した文字で文章化し、日記に綴った。

人類は、長きにわたってものの形をかたどった文字体系を使い続けてきた。自分だけに向けた象形文字で、壮大な世界の歴史に思いを馳せるように、自分や日常を捉えることを試みた作品だ。

作者・政井歌さん

「チョコレートの味は、地球の味を内包しています。そして、チョコレートにテロワールがあるように、自分にもテロワールがあるはず。日記をつけることで、チョコレートと自分を重ね合わせた作品を作りました」

そんな政井さんが選んだのは、「マンジャリ MANJARI 64% グラン・クリュ(シングルオリジン) マダガスカル産カカオ」。華やかな酸味と赤いベリーの風味が特徴。作品テーマと同じく、カカオのテロワールを感じられるチョコレートだ。

7. とけないままごと(シルクスクリーン)

溶かして、混ぜて、固めて、取り出して。
5歳の私にとって、バレンタインのチョコ作りは、何もかもめちゃくちゃで、おままごとのようだった。
絵の具にチョコを溶かす、目分量で色々混ぜてみる。
あれ、なんだかあんまり上手く刷れないや。
どこか拙い、私の20年越しのおままごと。

小此木 みなみ

チョコレートに絵の具を混ぜて、シルクスクリーンでランダムに色付けした直方体。ひとつとして同じものがないそれらの色むらやかすれ、ほのかに香るバニラエッセンス……随所に大人になった小此木さんの “おままごと” の痕跡をみる。

作品ができるまでの過程に思いを巡らせることで、遊び心に溢れていた子供時代を追体験しよう。

作者・小此木 みなみさん

「昔、市販のチョコを溶かして歯が折れてしまいそうなチョコを作った経験があります。その頃は、チョコレート作りの体験そのものを楽しんでいたんだと思います。今回は、そんな拙いチョコ作りをシルクスクリーンで今の自分に落とし込みました」

そんな小此木さんが選んだのは「オパリス OPALYS 34%」。絵の具に色々な香料を混ぜたことで、制作室が甘い香りでいっぱいになった思い出がよぎりました」

8. チョコと世界が広がる体験(アニメーション)

幼い頃から抱いてた、変わらない気持ちと変わった私。
気が付けばみんな知っていて。
感じてたもの、甘くて少し苦い。
でもきっとそれだけじゃない。
世界のすべてがちょこっと広がった。

源川 眞子

3つのシーンで構成されるアニメーション作品。高校生、大学生、社会人へと成長するにつれて、変化していく味覚が描かれている。チョコレートドリンクから、チョコレートケーキとの出会い、ブラックコーヒーと共に味わうチョコレートまで——ライフステージに合わせて姿形を変えながら寄り添い続けてくれている存在としてのチョコレートを再認識できる。

作者・源川眞子さん

「昔はチョコドリンクとチョコパフェを一緒に楽しめていたのですが、大人になるにつれ、それが難しくなってきて。今回、ヴァローナと出会ったことで新しいチョコレートの味わいの扉が開けました。世界は思ったよりも複雑だけど、気づかないと広がらない。そんな学びをアニメーションを通し表現しました」

そんな源川さんが選んだのは、「キダヴォア KIDAVOA 50% ドゥーブル・フェルマンタシオン(二重発酵) 」。フルーティなバナナのアロマに続く、スパイシーな味わいとモルトの香りによるリッチなカカオの苦みが特徴だ。「純粋に、今の私が1番美味しいと感じたチョコレートです」

「フェアトレード」「テロワール」「味覚の成長」「体温によるチョコレートの口溶け」。自己の内面やチョコレートの味わいを表すキーワードと、サステナブルのキーワードが縦横無尽に飛び交う会場で、改めてそれらが地続きであると知る。

チョコレートとの距離感も表現手段も異なる学生メンバーたち。それぞれが導き出した作品からみえてくるものは、チョコレートや社会のことを、自分ごととして考えようとするスタンスではないだろうか。

チョコレートの記憶を大切に保持しながらも、遥か遠くのカカオ原産国を思う。そんな心躍る試みから、この先100年のヴァローナの歴史が新たな幕を切った。

まだ見ぬ特別なチョコレート体験(物語)

開催会場:+NARU NIHONBASHI(プラスナル ニホンバシ)
東京都中央区日本橋本町1丁目4-12 カネダ日本橋センタービルディング1階
会期:2024年2月6日(火) ~2月17日(土)
入場料:無料
平日 9:00~19:00
土曜 9:00~17:00
※2月11日(日)と12日 (月・祝)は休館日
WEB https://100ans.valrhona.co.jp/speicalchocolateexperience/

ヴァローナ

1922年にフランス・ローヌ地方で創業以来、カカオの味わいにこだわり続け、世界中の生産者と二人三脚でカカオ栽培を行うと共に、独創的なアイデアと技術により、最高のショコラ素材へと昇華させてきたショコラブランド。美食の世界をけん引する世界中のトップ シェフなど、プロフェッショナルたちから認められている。さらに、ショコラ専門技術校「エコール・ヴァローナ」にて多彩な研修プログラムを提供すると同時に、洋菓子の世界大会“クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー”を創設し、実行委員を務めるなど、ショコラの芸術性・文化性を高める活動に取り組んでいる。ヴァローナは、環境や社会に配慮した事業活動を行い、説明責任や透明性など厳しい基準を満たしたサステナブル(持続可能)な企業のみに与えられるB Corporation®を取得。
IG @valrhona_japon
WEB https://100ans.valrhona.co.jp
Photo by Eri Masuda(写真 益田絵里)IG @massu_90
Text by Rin Inoue(文 井上凜)
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BALMUDA The Kitchen
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