レポート:伝説のビオディナミ醸造家エルヴェ・ジュスタン氏来日

魅惑の特別シャンパーニュ・ディナー


RiCE.pressRiCE.press  / Jul 5, 2018

シャンパーニュも料理も大地のパワーに満ちて

ビオディナミの醸造家、エルヴェ・ジュスタン氏が来日。6月21日、日本橋のラ・ボンヌ・ターブル (以下LBT) にて彼のシャンパーニュ「ルクレール・ブリアン」に合わせた特別ディナーが開催された。

ネゴシアンの家に生まれたジュスタン氏はバイオエナジェティクス理論を取り入れたワイン醸造の第一人者。自然派シャンパーニュの元祖ルクレール・ブリアンは1980年代から有機栽培を取り入れてきたが後継者不足で売却された。それを2010年にジュスタン氏が買い、有機栽培のぶどうでシャンパーニュ造りを続けている。今回のディナーでは、ジュスタン氏が手がけたシャンパーニュ5種と、前のオーナーが仕込んだ当たり年のミレジメ1種が供された。

まずブリュット・レゼルヴでジュスタン氏と乾杯。すぐにポム・フリットが出される。LBTのスペシャリテで下茹でして揚げたあと一度冷凍させて組織を破壊し再度揚げたほくほくのフリットをスモークガンで煙とともにアルミパウチ、開くとスモークの香りとともに煙が広がる楽しいアミューズだ。シャンパーニュは糖度を低めに果実そのものの味わいを尊重して造られていて、料理によく合う。原料のぶどうはピノ・ムニエ40%、ピノ・ノワール40%、シャルドネ20%。同じシャンパーニュをやはりLBTのスペシャリテの “焼きとうもろこしとアールグレイのポークパイ” と合わせる。

パイはファストフードのような紙箱に入れられてくるが、ここでちょっとしたトリックがあり、見事に引っかかってしまった。洗練されたカジュアルな楽しさがある。アールグレイで煮込んだ豚は、家庭料理の定番、紅茶豚を彷彿させる温かみのある味わい。だが、ベルガモットで若返った感がある。焼きとうもろこしの香りが香ばしい。

ブリュット・ロゼが抜かれて、料理は “椎茸、オニオンコンフィ、胡椒、柚餅子” 。

グリルされた椎茸の中にオニオンコンフィが詰められ、柚餅子が乗っている。甘く香り高い柚餅子と、柚餅子と同じくらいの大きさのくるみのアクセントが効いている。柚餅子とくるみを同時に食べたかったので一口で。椎茸と玉ねぎの旨味が爆発する。ジュスタン氏は、ブリュット・ロゼは特にアジアの料理に合うという。原料はシャルドネ95%、ピノ・ノワール5%だ。

ここでパンが出て来た。大阪、北新地のシュクレ・クールから、新幹線で運ばれてきたカンパーニュ。まだ電子メールがなかったころ、私が働いていた週刊誌の編集部には大阪で取材したフィルムが新幹線で送られて来ていた。いま鮮度が落ちないよう超特急で運ばれるべきものはパンなのだ。

次はエクストラ・ブリュット・プルミエ・クリュ。ピノ・ノワール70%、ピノ・ムニエ15%、シャルドネ15%で、酸味がしっかりあるぶどうを使い醸造も熟成も樽で行われた、フレッシュ感、緊張感があるシャンパーニュ。料理は “桃、ガスパチョ、ブッラータ、赤チコリ、レモン” 。

ガスパチョはトマト、パプリカ、スイカ、玉ねぎにかすかなタバスコ。桃の甘みとブッラータがシャンパーニュのカーンとくる酸味を和らげる。

そしてミレジメ。緑のボトルに入ったこれだけがジュスタン氏が手がけなかったもの。ジュスタン氏は必ずより遮光率が高い茶色のボトルを使うことにしているそうだ。このミレジメは当たり年の2010年のもので、熟成感、酸味とミネラル感が特徴的だ。ぶどうはピノ・ノワール40%、シャルドネ40%、ピノ・ムニエ20%。合わせる料理は “平目、蛤のピュレとソース、トレビス、クレソン、クミン” 。

蛤のむき身を太白ごま油で火を入れ、エシャロットとバターで風味をつけ裏ごししてあるピュレを平目のムニエルといただく。蛤のブイヨンの優しい味わいのソースがシャンパーニュの酸味で引き締められる。

次のシャンパーニュがすごかった。いまだにまったく農薬を使ったことがないずっと有機栽培のみの畑で育てられたシャルドネを100%使い、樽発酵及び熟成9ヶ月のラ・クロワゼット。これまでのシャンパーニュは全部美味しかったのだが、これだけ “気” というかパワーが違う印象を受けた。年間3000本しか造らず、そのうちの120本が日本に入って来たそうだ。「惑星のパワーを感じてください」とジュスタン氏。料理はいよいよ肉に。

“ホロホロ鳥のロースト、焼き茄子、酢橘、胡瓜、枝豆、茗荷、紫蘇” 。ホロホロ鳥は岩手産。通常ホロホロ鳥は西日本など暖かい地域で育てられているが、地熱を利用して育てている生産者なのだという。ソースはホロホロ鳥の鳥と新生姜。添えられた夏野菜が爽やかだ。塩と太白ごま油だけで味付けしたという焼き茄子のピュレは香ばしく絶妙な塩加減で茄子本来の甘さが引き立てられ、パンとバターとペーストを重ねて食べているといつまでも食事が終わらない……。

さらに最後のシャンパーニュ、ブラン・ド・ムニエが供される。通常は3種のぶどうを混ぜて造られるシャンパーニュだが、100%ピノ・ムニエだけしか使われていない希少なもの。ジュスタン氏によれば、温度が上がるといろいろな表情が出てくる、どんどん開いてくるシャンパーニュで、2時間3時間経つとまったく違う味わいになるそうだ。しかしデザート前。3時間待つわけにも行かず……。もう完売で次回入港待ちだが購入される方に是非試してみていただきたい。

デザートは “枇杷のブランマンジェ、パイナップルとパパイヤのシャーベット、甘酒の泡、花” 甘酒の泡に覆われたエディブルフラワーのスープのようなデザート。

アーモンドによく似た枇杷の種で香りをつけ、枇杷の果肉も使われたデザート。旬が終わるということもあって枇杷を使ったという中村和成シェフ。デザートは見た目が重いとそれだけで残す人もいたりするので見た目にも気を遣っているそうだ。ところで枇杷は中国南部原産でフランスにはない。ジュスタン氏のテーブルを見ればこれはなんだろうかと真剣な表情で召し上がっておられた。あとで聞いてみると「どれもフランスでは食べたことがない料理で、しかもシャンパーニュに合い印象的だった」とのこと。飽くなき食への好奇心がうかがわれた。

中村シェフは「シャンパーニュ・ディナーのメニューを組み立てるのは初めて。喜んでいただけて良かったです」企画に関わったソムリエの戸澤祐耶氏は「シェフに無茶振りしてしまいましたが、成功して満足しています」と肩を叩き合っていた。

ラ・ボンヌ・ターブル
住所:東京都中央区日本橋室町2-3-1 コレド室町2 1F
電話:03-3277-6055
時間:ランチ 11:30〜15:00 (L.O 13:30)、ディナー 18:00〜23:00 (L.O 21:30)
定休:不定休
http://www.labonnetable.jp/

CREDIT
文: 遠藤京子

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