連載対談:茶でも一杯

猪子寿之×丸若裕俊
「チームラボとのコラボで広がる茶の可能性」


Hirotoshi MaruwakaHirotoshi Maruwaka  / Jun 21, 2018

GEN GEN ANの丸若裕俊が毎回ゲストに合わせた茶を淹れて飲みながら対談するコーナー「茶でも一杯」。第二回のゲストは、チームラボの猪子寿之。6月21日 (木) に、東京・お台場に森ビルとチームラボによる新たなミュージアム「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」が誕生する。その中で、丸若が主宰する「EN TEA」とコラボレーションした「EN TEA HOUSE-幻花亭」もオープンする。10年来の付き合いというふたりだが意外にも対談は今回が初めて。出会いのきっかけから今回のコラボレーションの経緯、そしてデジタルテクノロジーと茶の関係まで、ミュージアム会場を舞台に交わされた対談の模様をお届けする。

ぼくの立場とかプライドと全く関係なくコメントしてくれるから、何か大切なことを考えるときは猪子さんに会いに行くようにしています。(丸若)

———意外ですけど対談は初めてなんですね。最初の出会いから聞かせてください。

猪子:10年くらい前かな。

丸若:iPhoneが出た年だったんだよね。なぜ覚えているかというと、その年にぼくが印傳 (※日本に400年以上も伝わる革工芸) でiPhoneカバーを作ったんです。当時未来を感じるモノに伝統技術をぶつけてみたくてなんだろうって考えていたときで。それでiPhoneでカバーを作ったんですね。その発表会の時のディスプレイに未来が映ってほしいとどうしても思って。未来ってなんだろうって色々探しているうちに、チームラボの「花と屍」の動画を見つけたんです。それにすごい衝撃を受けて、すぐに連絡を取って会いに行きました。

▲ 円相 – Cold Light / Enso – Cold Light

———猪子さんははじめて会ったときのことを覚えてますか?

猪子:出会いの記憶とかそういうのはあまり覚えてないんだけど (笑) 。

丸若:ぼくはすごくインパクトがあったんだよ。普通は会社のことを、誰が社長だとか調べてから行くじゃないですか。でもあまりにも興奮しすぎていたから会うことがミッションで、何も調べずに行ったんです。チームラボって言うくらいだからチームなんだろう。チームだから5人くらいでやってるのかなと思って行ったら、今ほどではないけれどすごくいっぱい人がいて。儲かってる会社じゃんって (笑)。それで、到着してずっと待ってたんですけど、待っても待っても来ないし。みんな忙しそうだし。それで待ちながら様子を見てたら、いろんなMTGに顔はだすけど、うろうろしてる暇そうな人がいるなと思ってたら、こっちに近づいてきて。そのとき、ぼくはドクロの作品があるんですけど見せようと思って持って行ってたんですね。そしたら「これなんですか?」って、その暇そうなひとに声をかけられたんです。

猪子:いや暇じゃなくて、ちゃんとMTGに参加してたんだよ (笑)。

丸若:すごい失礼な人間がいるもんだなと思ったんだけど。「中を見たいって」言われたので見せたんだよね。そしたらスゲーって興奮して色々と聞かれて話が盛り上がったんですけど、「あ、自己紹介をしてなかったですね」って名刺交換したらそれが猪子さんだったんです。それが最初の出会いで。そのときに教訓として得たのはひとは見かけで判断しちゃいけないってことです (笑)。また、後で聞いた話なんだけれど、猪子さんは物質に対してほとんど興味を持たない人間だから、その反応は相当レアだったそうです。茶葉とは出会っていない10年以上前の話しですけど。それからはチームラボの展示があったら行ける範囲で世界中に足を運んだりするようになって、今では公私ともにの付き合いな感じです。

猪子:チームラボで来客用に出している器やお皿って丸若さんに選んで揃えてもらってるんです。海外からの来客も多いので、日本の歴史といまを感じてもらえるものを選んでほしいってお願いして。だってイギリスから来たひとにイギリスの器を出してもつまらないでしょ。それは海外のひとだけじゃなく、日本のひとにとっても、ただの伝統じゃなくてちゃんと現代に再構築されているもので、なにかヒントだったり、知的なお土産になったらいいなって思って。それを丸若さんにお願いしたんです。

———すごく意図はわかるんですけど、けっこう難しいお題ですよね。センスとかすべて信頼しないと託せない。

猪子:確かにね (笑)、だから託した!

丸若:器のスタイリングを頼まれて行うことはあるけれど、見据えている目的が全く違いますからね。でもそれが猪子さんらしいんですけど。でもぼくも何か大切なことを考えるときは猪子さんに会いに行くようにしています。何でかというと、ぼくの立場とかプライドと全く関係なくコメントしてくれるから。それってすごく重要じゃないですか。だけどそれは究極自分のことを思ってくれていてのこととも思えるし。茶葉を始めるときも「茶葉を作ろうと思う」って話したんですけど、「茶をなめちゃいけないと思う。俺は茶がすごい好きだ」って、「俺にはすごい好きな日本茶がある。丸若さん全然リサーチとかしないでしょって」。そこはまったく信頼されてないんですけど (笑)。それで、猪子さんに茶を出したんですよ。そしたら「あれ、似てるな」って。そしたらチームラボで展示してる佐賀にある御船山という大庭園があるんですが、その中に竹林亭という素敵なお宿があってそこで出してる茶に味が似ているって、そこの茶がすごい好きだっていうんです。その宿に収められている茶葉は、自分が茶にコミットしようと決心した現EN TEAのCTOであり、茶師である松尾俊一という人間がいるんです。彼のことは、まぁ別の機会にきっちり話しをしたいのですが、猪子さんが「ほとんど自分と同じ人種」とコメントする素敵な (笑) パートナーが、実は以前から納めていている茶葉だったんです。

猪子:同じ茶だったんだよね。

丸若:だからリサーチも何もドンピシャなものを評価してたんです。それがすごく面白いねってなって。

食や料理の文化的背景が紐解かれて拡張しているような空間で食べたり飲んだりする体験ができたらいいなと思ってたんだよね 。(猪子)

———それは不思議ですね。猪子さんは茶は本当に好きだったんですか?

猪子:茶は好きなんだよね。単純にコーヒーか茶がないと生きていけない生活をしてるから。あとは、今回も見てもらえばわかるように “体験” をつくることに興味がある。食や料理ってなんらかの文化的背景があってその料理が受け継がれていたりすると思うんだけど、そういう文化的背景が紐解かれて拡張しているような空間で食べたり飲んだりする体験ができたらいいなと思ってたんだよね。それで2011年にメイド喫茶を作ったんです。(※1)

メイド喫茶って漫画とかアニメとかゲームとか文化的な背景があってできた食の空間じゃないですか。その後にも、有田焼を使ったものやパリで開催されたインテリアの見本市「メゾン・エ・オブジェ」でも食の新しい有り様を展示しようと思って、食の文化的背景を紐解いてそれがアートとして広がってそれに包まれてご飯を食べるみたいなことをやったんです。(※2)

それがめちゃくちゃ話題になったんだよね。それを、茶で考えたときに、茶室って情報として全部排除しているわけでしょ。全部排除して一杯の茶に集中させる。集中させることでそこに無限の世界が広がっているような体験をつくることができたわけです。なにかそういうことに興味がある中でたまたま森美術館館長の南條史生さんが総合ディレクションする「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」というのがあって、そこで茨城県天心記念五浦美術館での個展を開催しました。(※3)

南條さんからは、その時岡倉天心にまつわる作品を依頼されたんです。でも天心は絵も描いてないしいろいろ考えたんですけど、彼は著書「茶の本」によって、茶を例にしながら日本文化を海外に伝えていたんですね。だから、ぼくたちも茶の作品を作ったんです。抹茶をたてるとそこに無限の花が咲いていくみたいな。

丸若さんもその頃茶をやり始めるタイミングだったので、じゃあもう少しちゃんとやっていきたいなと思って自分たちのやりたいインスタレーションに合う茶を丸若さんに作ってもらうようになったんです。それで今回の展示もすごく広いので、ちょっと茶くらい飲める場所があってもいいんじゃないかっていうことで、一緒に茶室みたいなものを作ろうってなってそれが「EN TEA HOUSE – 幻花亭」。

———今回の展示の話を聞いたときはどうでしたか? すごく発想がぶっ飛んでると思うんですけど。

丸若:今回に至る前段階で2017年にパリで一緒に茶を出したんですが、会場となった「メゾン・エ・オブジェ」では5日間で1万5000杯くらい作ったわけですよ。(※4)

それ自体がめちゃくちゃなことで、品質が高いものをただ出すわけじゃなくて作品がそこに咲くわけじゃないですか。作品の一部になって、茶がメディアになるわけだから。っていうのをやって、本当に毎日死にかけてたんです。気が気じゃなかったけどなんとかでもなんとか超えられて。それで今回すごいいい話があるよって声をかけてもらって、確かにいい話なんですけど今度はパーマネントの場所でさらに苦行が続くわけでしょ (笑)。でも結果的に面白くてこの体験で得られた知識が他の茶のプロダクトにもすごい活かされるんですよ。再現性とか泡がどれくらいもつのかとか考えて茶を作ってるやつはどこにもいないと思うんです。ぼくは千利休はすごいと思うし、比べるなんておこがましいと思っているんですけど。利休もこういう辛い気持ちになったことはあったのかなって、その時思いました。無茶振りという部分で (笑)。

信長が茶を利用して新しい価値観を作った。だからあの時代にアートが花開いたし、茶も花開いたんだと思う。(猪子)

———猪子さんは秀吉ですか (笑)?

丸若:秀吉というよりは信長じゃないですかね (笑)。未来を見据えて本当に革新的なことをやりきってるから。だけど過去のものに対しての思いもすごく感じるんです。

猪子:信長が最初に利用したんだよね。茶を利用して新しい価値観を作った。キリスト教がアートを利用したのと同じように、日本では当時茶がコンテンポラリーなアートだったから信長が利用したんじゃないのかな。だからあの時代にアートが花開いたし、茶も花開いたんだと思う。

丸若:茶って利用されてなんぼだと思うんですよ。潤滑剤みたいに何かと何かを結びつけたり、うまく帳尻を合わせたりするものだから。それを昔から因果っていうんですけど、茶をやりだしてそれがすごくわかったんです。例えば「お茶しない?」ってなにか誘うときに茶って使われるんですけど、すごく抽象的じゃないですか。「お酒飲みにいこうよ?」よりももっと気軽だし、お酒飲めないひとって多いけど茶を飲めないひとってそんなにいないと思うんです。だから万民が共有できるものでもあるし、茶の持ってるポテンシャルってすごくあると思っていて。それは環境にも作用されると思うんですけど、今回の「EN TEA HOUSE-幻花亭」はすごく恵まれた環境ですよね。チームラボの世界の中にあるってことは大庭園の中にある茶屋みたいなもの。すごくみんな感度が高くなった状態でやってくるから、ぼくも感じるものがあるし。こんな環境って世の中にはここ以外にはないですから。これができたことで、茶の未来にすでに踏み出せたと思っているし、この先にまたチームラボも考えてることがあるだろうし、どんどん前に行く感じがめちゃくちゃ面白いです。それでこれを生み出している猪子さんもまた毎日茶を飲んでるっていうのも面白いなと思って。

▲ 小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々 / Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup

———たしかに体験した人としてない人で価値観が全く変わるような、それくらいのインパクトがありますよね。

丸若:あとこれは余談ですけど、猪子さんで実験してるんです。打ち合わせだったり遊びにだったり行くじゃないですか。そうするとすごい白熱してるわけですよ。猪子さんも真剣にMTGしてて、そのなかで茶を入れるんですけど、例えば興奮してる時とか悩んでる時とかあるじゃないですか。その時にあった茶を出すっていうのを実験的にやってるんですね。そうするとたまに白熱してても「うまいね」みたいな (笑)。そうなると一回切れるじゃないですか。猪子さんはクリエイティブに対してすごく真摯だから自分でスイッチを切れないんです。だから茶が我に一瞬帰らせる。猪子さんには被験者になってもらって、人間に対してのペアリングを実験させてもらってます (笑)。でも、もしそれでクリエイティブが1ミリでもいいものになったら価値あることですもんね。

猪子:すごいの持ってるんですよ。もう限界で気を失うんじゃないかっていう時に、一杯でレッドブル10杯分くらいの効き目があるやつ (笑)。

▲ 人々のための岩に憑依する滝 / Universe of Water Particles on a Rock where People Gather

丸若:目が半開きで気絶する寸前で考えてる状態の時があって、そういう時って誰が話しかけても無理なんですよ。そういう時にその茶をすっと出すとこっちに戻ってくるんです (笑)。相当高額になっちゃうんですけど。手間暇かけて、それこそ365日ずっと細かく茶葉の生育や月の満ち欠け、気温などとスペシャリスト達が対話した結果できるものってあるんですよ。364日間成功しても摘む前の日に嵐が来たら終わりですから。農業をやってみてこんなにロシアンルーレトみたいなことがあるのかよって思いますけど。でも変な話、仮にお金は持ってるけれど充実した日々を過ごせず何となく暮らしてるような人はその茶を飲んでも気づかなかったりするんです。シンクロしないというか。高価なもので美味しいわね。で終わっちゃうんですけど。やっぱり同じくらいのステージで生きてる人間だと反応しちゃうと思うんです。だって酩酊してる人間が茶を飲んだ瞬間にこっちに帰ってくるって嘘みたいな話なんですけど本当なんです。そうなると茶ってジビエというか超自然だと思うんです。生命を食らうみたいな。それを体内に取り入れるから、ぐわってくる。うまいまずいを通り越したものでもあるし、そもそも野生じゃないといけないものなんだと思います。だからそれをどう伝えるか。本当は猪子さんが酩酊状態から戻ってくるところを見せたいんですけど。それは難しいから (笑)。

チームラボの世界の中にあるってことは大庭園の中にある茶屋みたいなもの。茶のポテンシャルを感じられるこれ以上の環境は他にはない。(丸若)

———そういう場がここにできたんじゃないですか。でもこうやってテクノロジーが結集して茶の野性味を蘇らせているっていうのも面白いですよね。

▲ 呼応するランプの森 – ワンストローク / Forest of Resonating Lamps – One Stroke

丸若:今回こうやって茶の新しい挑戦の場を一緒にやらせてもらえて、わかったのは茶って挑戦する場をずっと求めてきたんだなっていうこと。今まではある時から挑戦する場を与えられることがめっきり減ってきてしまったんじゃないかって思うんです。だからこそこれだけ素晴らしい空間の中で、絶対にまずい茶は飲ませられないしクオリティを下げないようにしっかりやらなくちゃいけないと思ってますね。

猪子:お台場にできて、去年と同じように御船山でも夏にもう一度展覧会をするんです。(※5) 毎年やっていこうと思っていて。そして敷地内にある御船山観光ホテルをリニューアルして「御船山楽園ホテル」に生まれ変わるんですが、その中でチームラボとEN TEAで半端ない茶屋がオープンするんです。

丸若:そっちはバーカウンターみたいなところに、茶屋を作るんですけど、そこはまた違う意味でヤバい感じになってるんで楽しみにしていてください (笑)。

▲ 「EN TEA HOUSE – 幻花亭」は、一服の茶を点てると、茶に花が生まれ咲いていく。花々は茶がある限り無限に咲く。器の中の茶は、花々が咲き続ける無限の世界となる。その無限に広がる世界をそのまま飲むティーハウス。茶師である松尾俊一と、日本の伝統文化を探り多くの職人を束ねる丸若屋主宰の丸若裕俊の出会いにより生まれた「EN TEA」とコラボレーションしている。

※1
Digitized cafe Digitized bar MAIDREAMIN, Tokyo
https://www.teamlab.art/jp/e/maidreaminshibuya/
作品: 電脳喫茶
https://www.teamlab.art/jp/w/maid/
期間: 2011年10月6日 常設オープン
場所: 東京・渋谷

※2
MAISON&OBJET PARIS 20th Anniversary
https://www.teamlab.art/jp/e/maisonandobjet
作品: 世界は解き放たれ、そして連なっていく
https://www.teamlab.art/jp/w/worlds-unleashed/
期間: 2015年1月23日~1月27日
場所: フランス・パリ Parc des Expositions de Paris Nord Villepinte

※3
KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭
https://www.teamlab.art/jp/e/kenpokuart2016/

※4
Espace EN TEA x teamLab x M&O
https://www.teamlab.art/jp/e/maisonparis17sep/

※5
チームラボ かみさまがすまう森
https://www.teamlab.art/jp/e/mifuneyamarakuen2018/

森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス
MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless

所在地: 東京都江東区青海1-3-8 (お台場パレットタウン)
延床面積: 約10,000㎡
オープン日: 2018年6月21日 (木)
時間: 11:00~19:00 (月~木)、11:00~21:00 (金・祝前日)、10:00~21;00 (土)、10:00~19:00 (日・祝日)
※最終入場は閉館の1時間前。営業時間はシーズンによって異なる
料金: 一般/高・大学生 3,200円、子ども (4歳~中学生) 1,000円

EN TEA HOUSE – 幻花亭
期間: 2018年6月21日(金)常設オープン
場所: 東京都江東区青海1-3-8 エプソン チームラボ ボーダレス内 運動の森付近
※EN TEA HOUSEへお越しの方は、エプソン チームラボ ボーダレスへの入場が必要になります。
https://en-tea-house.teamlab.art/odaiba/jp/

猪子寿之
世界を股にかけ活躍するアートコレクティブ、チームラボ代表。6月21日に東京・台場のパレットタウンにデジタルアートミュージアム「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」をオープンする。また、7月19日(金)には、九州・武雄にリニューアルオープンする御船山観光ホテル内( https://www.mifuneyama.co.jp/)にも、連続する光に囲まれた「EN TEA HOUSE – 応灯楼」をオープン予定。https://www.teamlab.art/jp/

CREDIT
司会: 稲田浩 / 写真: 森本洋輔

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