世界一の生ハム産地スペインへ

ハモン・イベリコに恋した、生ハムの伝道師


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 12, 2024

皿に美しく盛られた薄い生ハム。ワインと食べれば手が止まらない永久機関となる最高の組み合わせだ。バゲットで挟んでサンドイッチにしてもおいしいし、サラダやピザでも生ハムが入っているとテンションが上がってしまう。生ハムは、ちょっと特別な存在だ。

生ハムの伝道師の山田悠平さん

今回RiCE.press編集部は、生ハムの産地スペインを訪問することになった。

案内してくれるのは、スペインで10年以上ハモンイベリコ造りに携わる、生ハム伝道師の山田悠平さんだ。生ハムを愛し、生ハムを知り尽くした山田さんに、生ハムのおもしろさを教えてもらい、そして特別な生産者を紹介してもらった。 

世界一の生ハム大国! スペインへ

日本語のハムは、スペイン語の「ハモン」に由来。ハモンは豚の後ろ足を指す。前足はハムではないのだ…!

そもそもスペインが生ハム大国であることをご存知だろうか?

年間4,000万本以上の生ハムを生産しているスペイン。人口が4,742万人(2021年)なので、おおよそ1人あたり1本の計算になるのだ。輸出も盛んで、欧米諸国のほか、近年はアジアへの輸出も増加中。日本では、イタリアのアフリカ豚熱流行以降、2022年以降イタリアからの肉製品の輸入を禁止していることもあり、フランスとスペインの輸入に頼っている状況だ。

スペインの生ハムというと、イメージするのが世界三大ハムに名を連ねている「ハモン・セラーノ」だろう。スペインの生産量の9割を占めるのが、このハモン・セラーノで、山岳地帯で盛んに作られている。ハモンは豚の「後ろ足」で、セラーノは「山」という意味だ。ちなみに、日本の「ハム」はこのハモンから来ている。

イベリコ豚。放牧地の広さ、どんぐりの木1本あたりの頭数などが細かく定められている

もうひとつ「ハモン・イベリコ」という名前を耳にしたことはないだろうか? 

スペインやポルトガルのあるイベリコ半島原産の黒豚を使い、生産から出荷まで一頭一頭トレーサビリティ管理されて作られるハモン・イベリコは、かつて王宮への献上品としても重宝された一級品だ。

「イベリコ豚というと、日本ではどんぐりを食べて育った豚というイメージですが、ほとんどのイベリコ豚はどんぐり(コルクの実)は食べていません。また、イベリコ豚といわれている豚も90%近くはほかの品種の豚との掛け合わせです。

 ハモン・イベリコ(イベリコ豚の生ハム)は純血統度(100%75%50%)と、飼育環境(ベジョータ、セボデカンポ、セボ)の組み合わせで格付けされます。スペインではハモン・イベリコと販売するには、イベリコ豚の血統が50%以上と定められています。最上級とされる100%血統のイベリコ豚(純血統)は全体の約2%しかないんです。

 さらに、どんぐりを食べて育ったイベリコ豚(ベジョータランク)は全体の20%程度。要するに純血統で、かつ、どんぐりで育ったイベリコ豚というのは0.4%ほどになってしまうのです」と山田さん。

100%の純血統でどんぐりを食べて飼育されたこと(ベジョータ)を証明する黒タグ

日本ではスペインの規定には合わない製品も「ハモン・イベリコ」として販売されているという由々しき実態もあるのだが、本物の「ハモン・イベリコ」は超レア。日本ではなかなかお目にかかれない逸品なのだ。

生ハムの何たるかを熱く伝授してくれる山田さんだが、生ハムの世界に足を踏み入れたのも、スペインで食べた生ハムとの出会いがきっかけなのだそう。

「スペイン旅行中に食べた生ハムがあまりに美味しくて『今まで食べた生ハムは生ハムじゃなかったのか』と驚愕しました。食は人を幸せにするということをリアルに体感した瞬間でした。

 感動して、そのまま2ヶ月ほどかけてスペインを一周巡り、各地の生ハム生産者を訪問したり、生ハムを食べたりしました。生ハム大国スペインで一番美味しい生ハムはどんな味なのだろうと知りたくなったんです」

日本の家族や友人にもその美味しさを味わってもらおうと思うものの検疫の関係で持ち帰ることは不可能。それでも深まる生ハムへの思いは止まらず、日本でもあの味をもう一度と探しても再びあの感動には出会えなかったという。

山田さんとパートナーシップを組むエクスポートマネージャールイス・ミゲル氏

「日本にないなら自分が輸入すればいい」

そう一念発起し、スペインから帰国してすぐに再びスペインに戻り、輸入のために動き出した山田さん。そのとき、日本に輸入したいと強く思ったのが、スペインの生ハム名産地ギフエロのハモン・イベリコだったのだ。

カスティーリャ・イ・レオン州の古都サラマンカから南に1時間ほど下ったところにある小さな村ギフエロは、ワインでいうフランスのシャンパーニュ地方のように、生ハムにおける特別な産地。スペインに4つ存在するイベリコ豚の生ハムの保護原産地呼称D.O.のうち最古の歴史を誇る産地で、世界のグランメゾンがこの地のハモン・イベリコを求めているという。

「日本に輸入し、販売させてほしいと直談判しても、軽く対応されるだけで全然相手にされませんでした。生産者としての誇りを持つ彼らが、日本のマーケットに期待していなかったんでしょう。その後も、何度も訪問しました。

 時には日本の文化を紹介して、コミュニケーションを重ねて、日本人が繊細な味を楽しめる人たちなんだということを理解してもらいました」

今でも年に数回、生産者を訪問し、コミュニケーションを重ねているという

その後、熱い思いが生産者に伝わり、現地スタッフと協業し取引をスタート。日本に“本物の生ハムを届ける一役を担うまでに。さらには2022年にギフエロのパートナー生産者が、ハモン・イベリコで世界初のオーガニック認証取得したその背景にも、山田さんの奮闘があったのだとか。

一人の青年を突き動かした生ハム…!
どんな味なの!? 早く食べたい…!

次話では山田さんとパートナシップを組む養豚場、放牧場、工場を訪れ、絶品生ハム製造の裏側に迫ります。そして、食べます!

山田悠平|Yuhei Yamada
PRADO代表。純血統ハモンイベリコを専門に、スペインのD.Oギフエロで約10年生ハム造りに従事。現在では餌作りから自社一貫でイベリコ豚を育て上げ、世界初EU有機認証を取得したハモンイベリコを製造。熟成庫から空輸で販売する「Black Tag」を手掛ける。
Note https://note.com/yuhei_ji
生ハムビストロ イべリヤ新宿御苑

Photo by Kenta Yoshizawa(@yoshiken531
Text by AI Hanazawa
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