リッチー・ホウティン インタビュー

僕たちはまさにいま、日本酒の進化のエキサイティングな瞬間に立ち会っている


RiCE.pressRiCE.press  / Feb 9, 2018

世界的なDJであり、酒サムライとして日本酒啓蒙活動に積極的に取り組んでいるリッチー・ホウティン。なぜ彼はここまで日本酒に魅了されたのか————。日本酒との出会い、そして日本酒とミニマルテクノとの関係まで、RiCE第5号の日本酒特集で掲載しきれなかったインタビューを公開。

日本酒は僕が大好きな音楽、ミニマルテクノと結びついていた

————初めて日本酒を飲まれたのが、1990年頃の日本ツアーだったそうですね。日本酒の第一印象を教えていただけますか? なぜ日本酒にハマったのでしょう?

初めて日本に行ったのは1994年だった。国と文化に触れて、すぐに深い感銘を受けたよ。日本に行くずっと前からどんなところかと考えていて、未来的なところかと思っていた。ところが行ってみたらハイテクと深い文化的伝統がバランスよく美しく対比された国だった。どこに旅するときも、プロモーターたちに地元の人が行くような、彼らがよく行っているお勧めの店に連れて行って欲しいと頼むんだけど、そうやって日本でも席に着いた途端に、日本酒と和食の新しい世界に突入したというわけなんだ。もちろんカナダの僕の地元でも寿司や燗酒を試してみたことはあったけど、日本で味わったものとは比べものにならなかったんだよ。信じられないくらい珍しくて美味しい食事と、日本酒が美しいラベルのついた大きな一升瓶でずらっと並んでいるところなんて見たことがなかった。それに味! フルーティーで美味しくて、無色透明のミニマリスティックな液体にあんな味がするなんて思いもしなかった。特に感動したのは、素晴らしいお酒を飲むときに、みんなが小さくて綺麗な陶磁器のおちょこでお酌しあって、心を込めて「乾杯!」って言う、それがほかの酒とは全然違うと感じたんだ。居酒屋からそのままのフィーリングでクラブに行って、日本でのDJセットは素晴らしく催眠的なバイブスになったんだよ! 初めから、日本酒は僕が大好きな音楽、ミニマルテクノと結びついていた — 人間と機械(テクノロジー)が作り出した音楽で、現代の日本酒と似ているんだ。完璧に揃った違うバイブスがバランスを取り合っている。

▲ 自身で日本酒ブランド「ENTER.Sake」を手がける

これまでなかった場所に日本酒を届けることが自分の使命だと感じたんだ

————私も日本酒好きなのですが、あなたの日本酒への打ち込み方には感銘を受けました。昔ながらの酒蔵で杜氏として働きながら酒造りを学ぶのは大変なことだったと思います。その原動力はなんだと思われますか?

僕はいつも、やりたいと興味を惹かれたことに集中してしまうんだ。自分が生き生きしていると感じられるようなことや、いつも何か課題があってわくわくするようなことにね。一番熱中するのが音楽で、特にテクノはいつもアイディアを与えてくれるし、イノベーションに駆り立てられる。このイノベーションと未来的な感じの中にこそ、僕が魅了されてもう28年以上も音楽をやってきた理由があるんだ。創造的感性と、テクノロジーを新しいアイディアやテイストを作り出すために使う、人間と機械のバランスにも魅了されるし、日本酒の世界、それにもちろん世代から世代へと蓄積されてきた信じられないほど豊かな伝統と知識にも、僕はわくわくしているんだ。電子音楽のコミュニティと日本酒のコミュニティはすごくよく似てるんだよ。特別な独自のテイストやスタイルを作り出そうと人生をかけてきた自分の道を信じて進んできた人々に造られているんだ。技術革新があっていつも未来志向でありながら、過去にも敬意を払うという伝統は音楽にもある。僕は日本酒コミュニティの人々が大好きだし、日本酒の味も、伝統も好きで、いつも日本酒が人々を気持ちよく結びつけるのに驚いているんだ。こういったことすべてが僕のモチベーションになっていて、世界中の日本酒コミュニティや杜氏たちや酒蔵の中で自分の道を進むのを助けてくれた。それで、より多くの人がちゃんとした美味しい日本酒を体験できるようになってきたんだ。

それと、2009年にジョン・ゴントナーの唎酒師のプロフェッショナルクラスを受講したときのこともモチベーションになっている。70年代以降多くの酒蔵が廃業してしまっていて、日本の若者たちが(あと世界の若者たちも)もう日本酒をクールだと思ってないし、飲むのもクールじゃないと思うようになってしまっているんだって聞いて、僕は何か特別な役割を果たせると思ったんだ。僕は28年間も世界中のクラブやフェスでクールな音楽を演るために飛び回ってきて、そういった場所っていうのは音楽を聴くだけじゃなくアルコールを楽しむ場所でもあるし、自分の日本での経験から日本酒とエレクトロニックミュージックはパーフェクトな組み合わせだってわかっていたから、その日から、日本酒文化を世界に広めること、若い人に日本酒を紹介すること、これまでなかった場所に日本酒を届けることが自分の使命だと感じたんだ。

また、今年(2017年)何軒もの酒蔵で働けたことは僕自身にとってもラッキーだったし名誉なことだった。酒造りのプロセスを経験したことで理解が深まったし、酒造りの難しさもよくわかったということも言っておきたい。『蒼空』を造っている京都の藤岡酒蔵で、見て、味わって、香りを嗅いだり、杜氏や蔵元の藤岡さんたちと働いたことで、新しい酒蔵が開きこそすれ、もう何世代もわたる伝統や技術が失われることはないのだと確信できた。日本酒にかけてきてよかったと思える、人生が変わるような経験だった。

▲ 世界中で日本酒を広めるイベントを行っている

————日本酒の醸造と作曲に共通点はありますか?

日本酒の醸造と作曲は、非常にセンシティブで創造的な努力を要するもので、感覚的にまったく新しい経験を作り出すために、時間や作業に没頭することや人間的な創意工夫と技術開発のバランスをとる才能が要求される。音楽では耳を使って、日本酒では舌と鼻を使うというわけさ。50年前だったら、いま僕らが話し合っているような、繊細なバランスで素晴らしく抽出された日本酒は造れなかった。長年にわたる伝統に加え、冷蔵技術が開発され、酒米の精白度も上がって、絞り方も進歩した。これと同じことが電子音楽にも言える —— 50年前は僕が作曲に使っている機器は存在さえしていないんだ! そういう意味で、日本酒の醸造と電子音楽の作曲はどちらも、過去に積み上げてきたものを再現して、なおかつより良いものも創ろうとしながら、さらに明るくてポジティブな未来を見ようとする人類の願いを示すものだ。

————ジャパンタイムズの記事で『醸し人九平次』と『十四代』について話していらっしゃいましたが、最近ではその『九平次』に影響を受けたと自認する新政の佐藤さんなど、さらに新しい世代が生まれ、成功を収めています。こうした中、日本酒の未来はどうなると考えていらっしゃいますか?

君の想像通り、僕も日本酒の未来は明るいと思っている。『九平次』のような蔵元や(十四代の)高木さんのような杜氏からインスピレーションを得て新しい日本酒を創り出す若い蔵元や杜氏が現れている世代交代のただ中に僕たちはいるんだ。新世代の人たちは世界を(これまでの世代とは)違う見方で見ているし、旅行したり実験したりして、新しい経験からも触発されている。そうやって新しいコンセプトの酒を造って売り出しているんだ。新政の佐藤さんの試行錯誤、松本さんの守破離での酒米への卓越した繊細なアプローチ、『風の森』の山本さんのデリケートなスタイルの技術開発、平和酒造のすごく若くて元気な蔵人たちとカリスマ的リーダーの山本さんの開放的で包括的なアプローチや、『手取川』の現代的な山廃、ヤススペシャルエディションの開発、それに宮坂勝彦さんの(自社の蔵付き酵母から生まれた)協会7号酵母に改めて向き直ったMIYASAKAシリーズなどがそれだ。新世代の人たちは伝統を理解して尊重しているけれど、自分たちで実験や開発をしてみるのも厭わない。将来が楽しみなところがいっぱいあるよね。
僕たちはまさにいま、日本酒の進化のエキサイティングな瞬間に立ち会っているんだよ!

▲「日本酒は旨味が強い料理との相性が抜群」と語る

日本酒はどんなタイプの料理にも合うし、すごく美味しいペアリングや信じられない味の爆発が起こる。

————ところで拠点にしていらっしゃるベルリンでは日本酒はどうやって入手するんですか? ENTER.Sakeのサイトを見たのですが、パリには6軒、ミラノには5軒の酒店があるのに、ベルリンにはあんまりないですよね?(インタビュー当時)ベルリンの人はどうやって日本酒を買っているんですか? やっぱりビールのほうが好きなんでしょうか。

ドイツでも日本酒は買えるよ! 実店舗でもネットでも。Japan-gourmet.comは素晴らしい品揃えでENTER.Sakeの日本酒も買えるし、酒器とか日本酒に関わるものも買える。(実店舗なら)ベルリンでは独自の品揃えのsake-kontor.deにいつでも行けるし、それにもうじきシークレットの酒屋兼バーがベルリンにできるんだ!!(予定だけど、いまそのためにみんな頑張っているところなんだ)※ インタビュー当時

————日本では日本酒と料理のペアリングがすごく流行っていて、寿司や和食だけじゃなく、フレンチやイタリアンのシェフにも日本酒が人気なんです。そんな感じで日本酒に合わせるとしたら、あなたのお勧めはどんな料理ですか?

日本酒にはなんでも合うよ! それが最も誤解されている最も重要な日本酒の特性なんだ——日本酒はどんなタイプの料理にも合うし、日本酒をいろんな国の料理と合わせると、すごく美味しいペアリングや信じられない味の爆発が起こるんだ。日本酒を味わうのに探検とか発見って言い方が好きなんだけど、遊びがある感じで冒険して、何か食べるときいつも日本酒を合わせてみるんだ—— 何が皿に乗っててもだよ。ENTER.Sakeの日本酒ペアリングディナーを過去数年で何十回も主催してきたんだけど、ベイルートではレバノン料理と合わせたり、バルセロナではスペイン料理と合わせたり、ベルリンではノーマのチームとマリネした北極のシーフードと合わせたりしたし、イタリアではミシュランの星付きのレストラン、エル・コックのイタリアンインスパイアの料理と合わせたりもしたんだよ! それに、日本酒は旨味が強い料理との相性が抜群だから、イタリア料理ともスペイン料理ともよく合うのはよくわかるだろう。どっちの国の料理も旨味が強いし、新鮮な魚や米を食べる文化があるんだから。

リッチー・ホウティン
1970年にイギリスで生まれ、幼少期にカナダ・オンタリオに移り住む。そこで黎明期のシカゴハウス/デトロイトテクノの洗礼を受け、17才 で本格的なDJキャリアをスタート。1993年にはPLASTIKMAN名義でリリースしたシングル「Spastik」が世界的ヒットを記録。以後、テクノシーンのトップ・アーティストとして評価を高めている。一方、自身で日本酒ブランド「ENTER.Sake」を手がけ日本酒を世界に発信している。昨年末には新政とコラボした「ENTER●SAKE ARAMASA」をリリース。

CREDIT
Text by Kyoko Endo

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