RiCE Lounge Vol.1 スペシャルトーク

田村浩二 (TIRPSE) × 千葉麻里絵 (GEM by moto)


RiCE.pressRiCE.press  / Jul 20, 2018

5/27 (日) に渋谷Ciftで開催された「RiCE Lounge Vol.1」。白金台の人気フレンチレストラン[TIRPSE]シェフの田村浩二氏と恵比寿[GEM by moto]店長・千葉麻里絵氏をゲストに迎えて行われたイベントの模様に続いて、RiCE編集長・稲田を交えた、スペシャルトークの模様をお届けする。

日本酒をフィーチャーしたペアリング

▲ 千葉さんが考えるフードペアリングの図

千葉:これは (写真上) 私の考えるフードペアリングを図にしたものです。料理を食べて日本酒を飲んだ時にどんな反応が起こっているのか。例えば左下の「邪魔しない 寄り添う」というのは、今まで和食屋さんでやっているペアリング。日本酒はワインと比べて酸も少ないしピュアな味なので何にでも合うんです。その代わりに、日本酒じゃなきゃいけないということもなかった。だからちゃんと日本酒をフィーチャーしてほしいと思いこの図を作りました。今日のサンドイッチのペアリングは「余白を埋める」になります。今回完成したサンドイッチにひのきの香りつけてもらったり、メイラード反応で少し甘みを出してもらって料理に余白を残してもらったんです。そこにお酒を合わせることで完成させるというイメージです。途中でお酒に胡椒を入れていただきましたが、胡椒を入れたことでひのきの香りがぐっと伸びたと思うんです。それが図で言う「新しい味の出現」や「余韻を長くする」になります。

▲ イベントで提供された田村シェフ考案の「アボカドとホタテとチーズのオープンサンド」に千葉さんがペアリングした日本酒 (花巴 「南遷」)。

田村:イベントで千葉さんがこの図を使って話しているのを見て、ぼくもこの通りだと思っています。彼女は料理とお酒をこの感覚で合わせる。ぼくは料理の一皿の中をこの感覚で合わせています。基本的なぼくの料理の考え方として食材ひとつひとつにしっかり味をつけてあげるということを大切にしています。食材の香の要素をうまくつなげて足すことで全体の香りのボリュームを増やしている。口に入れてから噛んでいろいろな香りの変化が起きて、飲み込んで、最後に香りが戻ってくるところまでが全部つながるようにデザインしてあげる。そうすると最初から最後まで美味しさの余韻が長くなる、そういう考えでこのサンドイッチも作りました。千葉さんから、メイラード反応の味が欲しいってリクエストがあったので。焼いた味ですね。キャラメルとかそういう味わいが欲しいと言われたので、もともと普通の生姜のピクルスを使っていたのですが、ハチミツを焦がしてキャラメルを作ってそれであらたにピクルスを作りました。

料理はサイエンスとセンス

千葉:メイラード反応って身近にあるもので例えると、生のタマネギって噛むと辛いと思うんです。色も白いですよね。それを炒めていくと色がどんどん茶色くなります。それで、甘さも出ますね。それが簡単にいうとメイラード反応なんです。日本酒でも例えば茶色いお酒。今回のお酒も少し色が付いていると思うんですけど、日本酒ってしぼりたての状態の時は透明なんですね。かつちょっと緑かかってるかなっていうくらい。それがしばらく置いておくと酸化反応でどんどん茶色くなっていくんです。これも同じメイラード反応。甘くなっていく。そのメイラード反応に必要なものっていうのが、糖分と旨味成分のアミノ酸です。この二種類があると放置しておくと酸化反応が起きてゆっくり茶色くなってるように見えるんですけど、タマネギを炒める時は同じ酸化なんですが、そこに火力が入ります。なのでスピードが速い。これがメイラード反応でそれをやってくださいってお願いしたんです。

田村:だいぶ化学の話になってきましたね。

———千葉さんはもともと化学専攻なのでメイラード反応とか専門的な言葉がでてきますよね。

千葉:そうですね。でも田村さんには通じるので (笑)。

田村:千葉さんとよく料理はサイエンスとセンスだよねっていう話をするんです。ぼくも理系出身なので、国語みたいに人によって感じ方が違うものよりも、数学とか答えが一つしかないものが好き。論理的なことが好きなんです。

———でも料理人は文系の方が多いですよね?

田村:だから感覚のひとが多いと思います。その日に届いた食材で、その時のフィーリングで作ってしまうひともいますけど、ぼくはどうしてこの食材を使って、こういう調理法にしたのか、その理由を自分の言葉で明確に説明できないと嫌なんです。自分が “美味しい料理” を作る工程を説明できるひとがぼくはちゃんとした料理人だと思うので。

料理と日本酒それぞれと香りの関係

———おふたりとも料理、日本酒それぞれで“香り”を大切にされていますが、そのきっかけはあったんですか?

田村:ぼくはワインでトレーニングをはじめてからです。嗅覚がよくなってから意識するようになりました。それと香水がすごい好きなんですけど、南フランスにグラースっていう香水の町があるんです。そこで調香をいろいろ見てきたんですね。レモングラスとコリアンダーを組み合わせた香りとか、自分では発想できない香りが調香の世界にはあるっていうことを知ったんです。例えば薔薇って薔薇という香りでできてるわけじゃないですよね。いろいろな香りが組み合わさって薔薇ってできている。その薔薇の中には、シトラールっていう柑橘っぽい香りや、オイゲノールっていうシナモンとかに含まれている香りがあるんです。ということは、料理で考えた時に薔薇って柑橘も合うし、シナモンなどのスパイスにも合うということが、香りの成分を知っていると分かるわけです。そうすると薔薇に対して、どういう食材を組み合わせようかっていうときに、柑橘とかスパイスっていう選択肢が出てくる。知識があることで組み合わせの幅が広がるっていうことを香りの勉強をする中で広がっていきました。だから他の料理人の方とはちがう香りの組み合わせのアプローチができるようになったのではないかと思っています。

千葉:日本酒もいくつかの香りが複雑に絡み合ってひとつの日本酒の香りになっているんですけど、わたしも勉強する前は、例えばふたつの同じくらいの強さの香りがあったとしたら、それを足したら香りはもっと強くなると思ってたんです。でも面白いことに、どちらかの香りがぐっと上がって、もう一方の香りがマスキングされる現象が起こるんです。チーズとかもそうだと思うんですけど、すごい発酵したチーズと、強い発酵系のお酒を合わせるとそれがすごく綺麗に消えたりとか。あとは普通に食べてたらおとなしい味の食材が、そこにお酒を合わせることでぐっと良い香りが引き立ったり。よく生牡蠣と赤ワインって最悪だって言われてると思うんですけど、それって赤ワインの中にある成分が牡蠣の亜鉛の物質を引き出してしまうからなんです。

田村:ぼくも料理で山菜とブルーチーズを合わせようと思って考えたことがあったんです。山菜ってブルーチーズとすごく合うんですけど、唯一ふきのとうとブルーチーズを合わせると香りが消えたんです。それはすごく不思議な体験だったんですけど、どちらもすごく個性的な香りなので、ぼくも最初は補い合ってくれるかなと思っていたんですけど、どっちも消えてしまったんです。何食べてるかわからない感じになるんですよね。

千葉:ありますよね。日本酒の熟成酒もある程度の熟成まで行くとたくあんの汁のような香りがしてくるんですけど、ある一定のところまでくるとそれがなくなってどんどん違う香りになっていく。それが面白いですね。

食べたときの形が見える “共感覚”

———それに、おふたりは味が形で見えるってよくおっしゃってますよね?

千葉:共感覚ですね。この図で「味を浮き立たせる」っていうのは、じゃがいものピュレとか料理自体が淡いやつがあって、そこにちょっと酸味のあるお酒を口に入れてあげると味が形で見える。食べたときの形が見えるんです。お酒をペンシルにしてひゅっと描いてあげると立体感が出るみたいな感じ。日本酒だと冷たくしたり、温めることでそのペンシルの太さを調整してるような感覚です。

田村:ぼくもわかります。甘い味は丸いイメージ。酸っぱい味は、鋭角なとんがっているイメージ。というとなんとなく伝わるかと思うんですけど。例えばピュレって、食感もないし最初から最後まで同じ味わい。そういう意味でふわふわしてるものだと思うんです。それをお酒の力で枠を作ってあげると、その枠の中でピュレの味もおさまるのでよりひきたって感じやすくなるイメージですね。そして、千葉さんと食べて飲んで話をしているときに、ヒノキを足してお酒を飲んだときに黄色いイメージだったんです。それは打ち合わせをしたわけじゃなく、ふたりともその色が浮かんできた。すごい感覚的な話なので、それをちゃんと説明できないのはぼくは嫌なんですけど (笑)。

———その共感覚っていうのは誰にでもあるわけじゃないですよね?

田村:食材とのイメージもあると思うんです。例えばレモンの酸味を感じたら黄色いイメージ、ハーブを食べたら緑色のイメージが出てくると思うんです。それがもっと複雑なものになっても全部イメージできるみたいなことでしょうか。

———料理人にもその感覚を持ってるひとはそんなにいない。

田村:でもそれは言葉で伝えられるかどうかだと思うんです。ワインの表現でもそうなんですけどなんとなくわかっていても言葉として出てこないのは、語彙がないとか経験値がないから。その差だけだと思います。もちろん人によって言葉は変えるので、メイラード反応って言ってわからない人には焼いた香りとかパイ生地の焼きあがった瞬間の香りとか、色がついた香ばしい香りみたいな表現にしたり、相手によってその人がイメージしやすい言葉に変えています。今回に関しては麻里絵さんなので、何も気にせずメイラード反応とか言ってますけど (笑)。

千葉;そのへんはわたしもちゃんと共通言語を使い分けてます。

田村:でもそれってある種自分に制限をかけてることでもあるので。自分が思ってることをパッというのではなく、相手の受け取りやすい言葉に変えている。それがないだけでも話が早いし、どんどん先のことを話せるんですよね。だからストレスなく新しい味の足し引きがコミュニケーション取れるんです。こう言ったらわかりにくいかもなって思った時点でもうブレーキがかかってるので。

———今日はノンブレーキでいけるめずらしい組み合わせなんですね (笑)。千葉さんも色々な方とコラボされていますが。

千葉:さすがにメイラード反応とかは使わないですけど、キーワードは相手にいっぱい投げます。1回投げて試作してもらい、そのキーワードに引っかかったポイントというのを抽出して、この人にはこういう言語を使ったらいけるんだなって使い分けをしています。

———今回こういう形でふたりがコラボをするのは始めてだったんですよね?

田村:そうですね。もともとこういう話はよくしてるんですけど、なかなかやる機会がなかったので楽しかったです。また、ふたりで一緒にコラボして色々やりたいという話はしているので。

千葉:田村さんとはこういう形で話すのは初めてでしたが、共通言語を崩さずに喋れたのでそれがすごく楽しかったです!ぜひまたやりたいですね!

田村浩二
[TIRPSE]シェフ。1985年、神奈川生まれ 。東京で10年、フランスで1年働いたのち帰国。シェフとして2017年にWorld 50best Discovery Series Asia選出。2018年版ゴ・エ・ミヨの期待の若手シェフ賞受賞。2017年に.science株式 会社を立ち上げ、FOOD VISIONNINGをテーマに活動中。

千葉麻里絵
酒ソムリエ。恵比寿 GEM by moto店主。化学的知見をもとに一人ひとりの “今” に合った日本酒を提供し日本のみならず海外のファンを楽しませている一方で、様々なジャンルの料理人とのコラボから日本酒体験に時間と空間と温度を取り入れた新しいスタイルを模索している。さらに、“口内調味” をキーワードに知恵の組み合わせによって日本酒体験の幅を広げつつ、表現としての日本酒の可能性にも挑戦している。また、日本酒の提供に論理的アプローチを取り入れるべくSAKEカルテを考案し、たくさんの人が楽しく日本酒に出会えることを目指している。

CREDIT
司会: 稲田浩 / 写真: 森本洋輔

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