
「アラサー、パリへ行く」20代最後のフランス滞在記
第3話 レフォールはたくさんつけて食べなさい
先日はアルザスという地域へ行きました。
細長いボトルのワインが有名なあそこです。
理由はワインの生産者を巡るため。
そして、なんだか最近アルザスのワインが飲みたくなったから。
フランスに来てから、自分とワインというもの?の距離感を考える。
日本にいたときはレストランやワインショップなどで働いていて、仕事をするほど、
「ワイン狂」みたいな同業者にも会うし、「ワインマニア」みたいなお客さんにも会う。
日本のそういったコミュニティからいったん離れて、何をやってもいいワーキングホリデーという条件で、でもワインが身近にあるフランスという土地に住んで。
自分は一生の中でどれだけワインと関わるのか?
自分はどのくらいワインが好きなのか?
そんなことをこちらにきてからよく考えていた。
「フランスいったら生産者にたくさん会えるね!」と日本にいた際はよく周囲から言われていた。でもはじめのころはフランス語も英語も全くわからないし、行っても何したらいいんだ状態で、あまりモチベーションはなかった。
でもとりあえずいろんな地方へ足を運ぶ中で、やっぱりワインていいなあって思う瞬間にたくさん立ち合い、フランスでの運転にも慣れてきたところで、勇気を出して生産者にアポ取ってみた。
Google翻訳と、「フランス版ビジネスメールの書き方」、みたいなサイトを駆使してメール。
そしたら思ったよりすぐ返信きた!!!!
嬉しい!!!!
ぼくは昔営業マンをやっていたので、アポどりはそれなりに得意。
それがここで活きるとは。
理由はわからないけど、アルザスのぶどう畑にはいたるところに桜が植えられていて綺麗だった
「レストランでジャケットを着て顔くらいあるおっきなグラスで飲むワイン」っていうのも素敵だけど、「日常で友人と気軽に乾杯できるような。もしくは自然と共存することを大切にして造られたようなワイン」が僕は好きです。
だからそんなワインを造っている人は、どちらかというとビジネスマンというよりも、畑で作業をしていそうな風貌の人が多い。
どの人も、素朴でありながら表情に心の豊かさを感じる素敵な人たちだった。
今回は3蔵の生産者にお会いできた。
中でも特に印象的だったのは、日本の酒蔵でも働いた経験のある、30歳くらいの若い生産者。
朝8:00の早朝から、1対1で2時間くらい。
カーヴと呼ばれるワインの貯蔵庫で、試飲しながらお話ししてくれた。
何よりも嬉しかったのは、ワインのお話ももちろんだけど、ひとりの人間としての話をたくさんしてくれたこと。自分がこれからどう生きていきたいか。誰を、何を、大切にしていくのか。
彼は来年にそのカーヴを別の場所に引っ越す予定で、今持っているぶどう畑も手放して、今年から別の場所のより小さな畑に移るのだそう。
生産量は少なくなるけれど、自分は家族との時間を確保することを優先したい、だから自分にはもっと小さなスペースで充分なんだ、と。
仲間にはワインの値段をあげたほうがいいと言われるけれど、日常で飲めるワインをつくりたい、おれはキャピタリズムからは距離をとって生きる、と言っていた。
ヴィンテージごと、品種ごとに樽に寝かせてあるワインを、ときにはそのまま、ときには混ぜながら、「次はどんなキュヴェにしようか」「おれは錬金術師だ!」とか言いながら無邪気にワインを注いでくれる姿が印象的だった。
帰り際に、カーヴに積まれた段ボールをゴソゴソして「これ持って帰りな!」と渡してくれた。アメリカに輸出予定のキュヴェだわ、って笑ってた
自分が仕事で注ぐ時も、友達と飲む時も、ワインはボトルに詰められた状態で現れる。
普段はエチケットに書いてあることから、見た目から、香りや味わいから、楽しむことが基本になる。
ワインじゃなくてもそうだけど、造っている人に会うと、そのものの印象は変わる。まさに今回はそんな体験を思いっきりできた時間。この人から譲り受けたワインは大切なときに飲もうと思う。
正直、ワインに関わるようになったきっかけはすごくゆるい。
レストランに行った時にワインをもうちょっと楽しみたくて、ソムリエ、って呼ばれてる人たちの言語をもう少し理解したくて、そしてそれが会社員辞めたタイミングで暇だったので、勉強してみよっかなと。
そこからなんだか流れるままにレストランで働くようになって、その流れでふわっとフランスにきちゃって、の今だ。
これから先、どれだけワインに関わる仕事をするかなんて、未来の自分にしかわからないけど、いまこうしてフランスにいること。そしてワインをきっかけに、今回のようなたくさんの素敵な出会いに恵まれていること。
ワインのおかげで自分の人生が思ってみなかった方向に曲がりくねっている。
それだけでワインに関わるようになってよかったなと思っています。
少しだけこの旅での小話を。
ぼくは旅先での外食先を探す時も「おいしいワインが飲めるお店」を軸で探すことが多い。今回は旅の締めにアルザスの伝統料理とワインが楽しめるお店に行った。
やっぱりアルザス料理といえばシュークルートでしょ!と思って頼んだら、食べきれないくらいの量が出てきた。まずキャベツの量がすごい。(火が入ってしなっとしてるからまじで1玉分くらいある)
そして小皿に山盛りのマスタードとレフォール(西洋わさび)も出てきた。
そしたら隣の席に座ってたおばちゃんが、
「レフォールはたくさんつけて食べなさい」と。
この一言がなかったら、ぼくはビビってチョンチョンとしかレフォールをつけずに食べていたかもしれない。きっとこの大量のキャベツとお肉も食べきれなかっただろう。
気軽に隣の人が声をかけていい世界線っていいですよね。
この国のこういうところが好きです。
締めの食事まで含めてアルザス大好きになりました。また次回。
1995年、山口県生まれ。
大学卒業後、一般企業にて営業職や古民家ホテルの支配人等を務める。
東京のレストラン・ワインショップに勤めたのち、現在はパリ郊外の農園を併設したレストラン[Le Doyenné]に勤務。愛称はパワー。
IG @chikara_yoshimo