シンプルラーメン 第2回

シンプルラーメンで満腹に


Takashi WatanabeTakashi Watanabe  / Jun 22, 2025

ラーメンという食べ物(種物たねもの)は、コース料理を一皿で提供しているようなものだ、と言われるように、ある意味贅沢で、ある意味強引な料理へと進んできた。もちろん、この表現は素晴らしい評価を得ているということだが、あえてネガティヴに捉えるなら、どんどん美味しくなっているのに麺とスープ、それ自体楽しむ比率は下がり、箸休めのない幕の内弁当になっている、と言えなくもない。

蕎麦やうどんは基本のメニューがかけスタイルだ。そこにバリエーションとして種物がある。シンプルに、だが、存分に麺と出汁を味わうことができる道が担保されている。葱などの薬味ひとつひとつがスープに与える影響を感じやすくなり、それらが高級食材に匹敵するような魅力や価値を生み出し、汁そばの美味しさを最大化させる。

ただ、かけスタイルが抱える問題。それはお腹いっぱいにならない、もしくは満たされないところにある。

そこでもう一度比較のため蕎麦屋に登場願おう。街の蕎麦屋には天ぷらそばなどの種物もあるが、「かけそばとミニカツ丼」「ざるそばと天丼」という組み合わせも溢れていることにも気付く。蕎麦は蕎麦のまま、量が物足りない人のためにそんな組み合わせが用意されているのだ。蕎麦自体を堪能したいという欲求と胃袋も満たされる。

また、この組み合わせは同時に「ラーメン1000円の壁」という議論を一歩前に進めるものではないか。原価の高騰が売価に跳ね返るのは当たり前だとして、職人はラーメンをますます美味しくするために仕入れ値に負けず、いい材料を多く使おうとしてしまう。

そのときに食べる側が何を思うのか。

店側の立場に立って、「(売価を)上げて当然!」と主張したって何も変わらない。食べる側は、自分のお財布とメニュー、値段を照らし合わせ、美味しいもので胃を満たしたい、それだけなのだ。そのときにかけラーメンとごはんもののセットがあったなら。それが自分のお財布で食べられる範囲内だったならどうだろうか。

個人的な話だが、たまに出会うラーメンのトッピング別皿というシステムが苦手だ。つけ麺もそう。乗せることが前提のものを、もっと言えば冷えたものを別で食べる意味を感じないからだ。麺とスープを邪魔したくないのなら、かけラーメンでいい、となる。

前回取り上げた休業中の[中村屋]の弟子にあたる[らーめんMAIKAGURA](千歳船橋)は、[中村屋]を踏襲するようにかけそばを用意している。そこにはネギが添えられ、後半に入れるようアドバイスされる。薬味による味わいの変化を知ってもらいたいからだろう。チャーシューなどトッピング類は別で購入すると添えられるが、すべて妥協せず、かなりのクオリティのものだ。お店の意図はわからないが、これをごはんに合わせて食べる。そうするとラーメンとトッピング双方が生きた食べ方になる。

それを完全に定食にしてしまったのが、[奥倫道](大門)である。3店舗(現在は2店舗)を展開するが、どの店舗もこの定食スタイルで勝負する。ラーメンはかけスタイル。鯖、鰯、鯵など魚介を凝縮したかなりインパクトの強いラーメンとごはんと薬味類がつくのが基本。チャーシューもつくが、どう食べるのかは食べ手に委ねられている。

手打ち 蓮](森下)は、最近かけら~麺をはじめた。手打ち麺が圧倒的な存在感をみせ、それに負けない力強いスープとの組み合わせはラーメン業界の最先端をいくが、チャーシューも抜群に美味しい。つまり全部強い組み合わせだ。より麺とスープだけで味わってみたいとなったときに、チャーシュー飯との組み合わせがしっくりとくる。かけら~麺770円(※2025年6月時点)とチャーシュー飯350円の組み合わせで1,120円。これで普通ならとても得られることのない価値のものが食べられる。

トッピング別皿だが、三種類好きに選べるのが[本枯中華そば 魚雷](春日)。おなじみのチャーシューやメンマも数種あり、好きに組み合わせられる。勿論同じもの×3でも頼める。ラーメンはサイフォンで採った本枯節ほんかれぶしのスープと動物系スープとを合わせ、他にない個性が売り。このスープをそのまま味わってほしい、があっての別皿だが、スープが素晴らしすぎるが故、どこに、いつ合わせていいかわからない。だが、別売りのごはんに乗せてしまうと、それが満腹を伴い解決するのだ。これほど良いことはないだろう。

最後に紹介するのは裏技。裏とはいっても誰もが頼めるメニューだ。それが

ラーメン二郎の野菜抜き

え!?と思う人も多いかもしれない。二郎といえば、野菜が盛りに盛られた山のようなビジュアルがまずありき。でも、そもそも二郎はラーメンなのだ。基本は麺とスープ。そこに魅力がなかったらここまで人気など出るはずもない。そこに立ち返ってみるのだ。注文は所謂無料トッピングを注文する「コール」のとき(店によっては食券提示時)。

「野菜抜いてください」

と伝えるだけで(たいてい)快く野菜抜きを提供してくれる。二郎をシンプルなラーメンにすると途端に身近になるのは著者だけだろうか? 二郎はラーメンにあらず二郎という食べ物、とよく言われるが、ラーメンの良さをいっぱい持っている。二郎シンプルラーメン計画。健康の観点から? それは普段の食生活で気をつけよう。ラーメンは最高の非日常で、そして、それで満腹になるのだとしたら、それ以上のことはない。

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