この酒いいよ、飲んでみて。
実はこんなに幅広い日本酒の味わい③
第1回「スッキリシャープ系」第2回「香り系」と来ましたので今回は「旨味コク系」のおすすめです。
だいぶ肌寒くなり鍋が恋しい季節となりましたね。
鍋をつつきながら呑みたいお酒…やっぱりお燗ですね。
旨味コク系のお酒は割合的にも冷酒よりも常温やお燗で呑むほうが本来の旨さを発揮するものが多いのです。 旨味コク系は冷酒だと味わいが硬かったり、イマイチわかりずらいものもあります。
もちろん中には冷酒で呑んでも充分に美味しいお酒も存在します。 しっかりとした蒸米の風味、穀物本来の香りとコク、奥行き、 乳酸やコハク酸などの酸の交わりによって生まれる一言では言い表せない複雑な味わい。
旨味コク系のお酒には自然界の乳酸菌だけを頼りに作られる「山廃」「生酛」と呼ばれるお酒が多いのも特徴です。 そんな自然界の乳酸菌たちが織り成す芸術。旨味コク系のお酒はそんな魅力が十分に詰まっております。
これからの時期、飲食店では様々な鍋料理が出てまいります。 ご家庭でもすき焼きなどの温かいお料理が登場する機会が増えますね。 今日はそんな鍋料理に合わせたい旨味コク系のお酒を紹介します。
「近江藤兵衛」純米吟醸無濾過生原酒 滋賀県産山田錦 (滋賀県東近江市・増本酒造場)
このお酒に初めて出会ったときは非常に驚きました。 この蔵の造りの事もあまり知らず、「生原酒だからとりあえず冷蔵庫」と思いキンキンに冷やして、ああいい旨味だなぁ~こんなお酒もあるんだな… くらいにしか思っておらずゆるゆると呑み進めました。段々とお酒の温度が常温に戻るとあれ?味わいが丸くなったような気がする… このクセになりそうな乳酸は?もしやこのお酒はお燗でもいけるのでは?と思い、早速お燗にしてみました。42℃、45℃、47℃…と60 ℃まで徐々に温度帯を変え色々と試してみて驚きました。全て違う顔を見せるのです。
これをきっかけに私は増本酒造場の大ファンになりました。こんなに旨い酒がまだあるのかと思い、この蔵が発売するお酒を買い漁りました。
旨味、コク、温度帯によって変わるフィニッシュ(余韻)の長さ、ややアーモンドやナッツのようなニュアンス、ビターな表情とキャラメリゼのような旨苦み。 これは絶対、火を通した料理に抜群に合うお酒だと感じました。 魚であれば刺身よりも焼き魚。それも醤油や味噌や酒粕を使った焼きもの(麹の甘味との相性)とはかなり相性がいいかと思います。 肉であれば炭火焼きで焼かれたものと合わせたらどんなに幸せなことかと思います。
そしてお鍋です。鍋といっても様々な具材や調味料を使った鍋料理が存在しますが、このお酒はどんな味わいにも寄り添ってくれる万能型です。 私のお店「鎮守の森」ではもちろん、自宅でも欠かさずここの蔵のお酒は常備しています。 是非皆様もこの近江藤兵衛を見かけたら呑んでみてください。 鍋をつつく箸やお燗酒の盃が止まらず、やみつきになることでしょう。
嗚呼、また今日も呑んでしまった…
- Animism Bar Owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に「酒徒庵」を開店。瞬く間に予約の取れない人気店となる。2015年に酒徒庵を閉店し、ひっそりと会員制の日本酒専門店「鎮守の森」をオープン。料理は旬の素材を使い、和食だけでなく中華やフレンチ、イタリアンなど、日本酒との相性を考えて柔軟なメニューを展開。お酒は4000にもなるストックの中から飲み頃のものを厳選し、飲み手の嗜好やその日の気候、合わせる一皿との相性を見極めて提案。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
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