
エディターズノート
「RiCE」第43号「魚」特集に寄せて
RiCE の第43号はひさしぶりに魚の特集です。創刊2号目、2017年冬にやった「おいしい魚」以来なので、ずいぶん間が空きました。7、8年経てば魚をとりまく時代も状況もいろいろ変わっています。過去を踏まえながらもゼロベースで魚に向き合ってみました。
日本人にとって魚食は、日本の食文化そのものといってもいいくらい大きな要素を占めています。海に囲まれた島国であり、古代より豊富な種類の魚を獲ることができた日本では縄文時代より漁業が行なわれていたとか。
列島沿いの近海には暖流の黒潮と対馬海流、寒流の親潮とリマン海流が押し寄せ、内陸部には河川や湖、沼や池なとどがたくさんある。海水魚に淡水魚、甲殻類や貝類など多種多様な魚介に恵まれてきました 。仏教伝来によって肉食が禁止される時代が長らく続いたことも大きいが、日本人にとって魚介は貴重なタンパク源であり、まさに「魚に生かされてきた」といっても過言ではない。
煮たり焼いたり蒸したり揚げたり。あるいは干したり発酵させたりすることで保存に努めたり。様々な工夫を重ねて美味しく魚をいただく術を日本人は編み出し続けてきました。
海外の日本食ブームを牽引する寿司ひとつとっても、塩や米飯で時間をかけて発酵させる「熟鮓」は生活の知恵から生まれた保存食でした。そこから酢飯に魚を一日押して漬ければ食べられる「押し寿司」が生まれ、やがて獲れたての魚を目の前で捌く「握り寿司」が江戸で生まれる。
洗練を極める高級鮨屋から庶民の味方、回転寿司までグラデーションがあるように、創意工夫を重ねて美味しく魚をいただけるお店は日本中にいくらでもあります。外食以外にももちろん食卓を飾る旬の魚がいただけるのは四季のある日本の特権、幸せ以外のなにものでもない。
その手前には美味しい食べ方を指南してくれる鮮魚店があります。その先には仲卸業者に卸売業者といった魚の価値を見極める目利きの方々がいる。さらにもちろん一番手前には漁業にたずさわる生産者の方々がいます。いわば口福のゴールを目指して受け渡されていくそのサプライチェーンにあって、それぞれのプロが目を光らせながら真剣に魚と向き合っている。
今回の特集ではそんな「魚と生きる」ひとびとにフォーカスし、それぞれの立場から見えている現状をジャーナルしました。もちろん温暖化など様々な要因で減り続ける漁獲量など一筋縄ではいかない問題が多く明るい話ばかりではありません。
とはいえ文化としての魚食は日本に限らず世界的なイシューであり、その持続可能性は喫緊の課題です。日本全国はいうにおよばず海外の状況もリポートすることで、より複眼的に魚介をとりまく食文化の現状と課題が浮き彫りになるよう努めました。
さて秋刀魚をはじめ、旬の魚が美味しい季節が今年もやってきました。改めて魚を見つめつつ、 感謝を込めつつ、その喜びを噛み締めましょう。
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。