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食事は選択の連続だ?! 後編


Yohei MatsuzakiYohei Matsuzaki  / Nov 15, 2018

”店選び”という大きな山場を越えてようやくご飯にありつけると思っているとさらなる試練が訪れる。

席に座りメニューを開けばそこには魅力的な料理たちの文字が踊る。「この中から選ぶのか…」食欲が湧くと同時に再度感じ始める選択のトラウマから生じるストレスとプレッシャー、ここでも選択を迫られる..

そもそも人間の認知能力というものは5つ以上の選択肢がある時、効率的に判断出来なくなるらしい。大抵の場合、最初に目に入った3、4つの中から選ぶことが多いという。それを踏まえて、7だ。

飲食店のメニューに限って言えば7がゴールデンナンバーらしい。メニューのカテゴリー内で7つ以上の選択肢があると、そこから選択することを難しくさせ、さらには意識を混乱へと導く、らしい。7つが選択の分水嶺ということか。個人的には7つでも多いような気がしないでもないけど。

▲ インドのオールドデリーにて。このくらいのメニュー数であればあまり迷わない、はずだ。

とりあえず、選択肢が多いことは混乱を引き起こす、これは間違いない、判断麻痺だ。同時に認知負荷をも引き起こすことでさらに負荷がかかる。ストレスやプレッシャーを感じるのはこういうことなのか。認知負荷にもタイプがあり、ここで感じている負荷は視覚負荷と呼ばれるものだろう。目の前にみえる情報に気を止めたり、気付くことの量が多くなると負荷がかかっていくみたいだ。

こう考えると自分は情報量に対しての負荷耐性が一般より低いということになるのか。個人的経験から選択肢が多いメニューを見た時に、なかなか料理の内容が頭に入ってこない時がある。いや、単純に読解力がないだけという話もあるが。

そして選択肢の関連だと、こういう理論もあるらしい。選択のパラドックス。一見選択肢が多いほど自由度が増すと思われがちだが、選択肢が多すぎることによって選ぶことが困難になり、それによって生まれる無力感、そしてその無力感を乗り越えて選択できたとしても得られる満足感は選択肢が少ない時に決断したことで得られる満足感より低くなる。

無力感、とはなかなかシリアスな言葉だと思うが、確かに選択肢が多い中から選んだ直後、満足感や達成感は感じるが、それと同等もしくはそれ以上に、今の選択はよかったのか?という不安がつきまとう。

不安は負荷だ。選んだ後はもちろん、選んでいる最中にもその不安はつきまとう。その不安はいわば強迫観念、この手の観念が頭を巡っている状態、さらには限られた時間の中で数ある選択肢をひとつひとつ客観的に比較するのは至難だ。

そしてさらにはこの不安の要因はまた別の理論でも説明できる。選択することに対しての不安は、ベストな選択をしたい気持ちというよりかは失敗した選択をしたくない気持ちの方が強いという心理(プロスペクト理論)からくる。
2つの選択肢の場合、正しい判断をする確率は50パーセントだが選択肢が増えるに従って正しいものを選ぶ確率は下がっていく。
確かに、ベストなチョイスをしようとする方が合理的な判断なはずだが、実際は失敗をしたくないという気持ちの方が強くなっている。

▲ インドのオールドデリーにて。メニュー自体なければ迷うことのストレスやプレッシャーから解放される、はずだ。

まだまだ選択の不安は深まる、例えばメニューを一通り見終わり自分の中でできる限りの合理的判断によって決断を下せるというところまでたどり着けたとしよう、その時ふと横に目をやると期間限定メニューと書かれた別紙を発見してしまった瞬間、自分の中の判断基準が崩壊する。それまで判断のベースになっていたものをまた1から組み立て直さないとならない、そしてまた時間だけが過ぎていく。

こんな実験があったという、海外のスーパーで24種類のジャムが陳列された売り場と6種類のジャムが陳列された売り場に分けて、選択肢が購買意欲に与える変化を観察した。結果は6種類のジャムの売り場にいた人の30%がジャムを購入したのに対して24種類の売り場では3%しか購入しなかった。ちょっと出来過ぎな結果のような気もするが、個人的には納得がいく。

やっぱり選択肢の数が少ない時の方が、決断過程で思考への負荷が少なく決断のモチベーションも上がるはずだ。ご飯を食べようと思ってから、何を食べるか決めるまでのプロセスを辿ってみるとここまで面倒くさいとは。もちろんほとんどの思考や負荷は無意識的なものだろうから、面倒くさいとも思わないのか。

あ、ちなみにうちの店のメニューはカレープレート一択で、5種類の付け合わせから選ぶのみという最低限の認知負荷に留めるようにしています。心理的負荷を抑えることで、より食事に集中してもらえたらとか言えばかっこよさそうだけど、まぁ、後付けです。

 

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