
連載「おい神保(おいじんぼ)」 ~サラリーマンランチ紀行~
第7回 『木枯し紋次郎』の食事。三羽鰯定食
神保町…曰く、古本の街。
曰く、カレー激戦区。
曰く、喫茶店の聖地。
曰く、中華街(チャイナタウン)。
そんな様々な異名を持つ食と活字のシャングリラ、神保町。
とりわけ昼飯については全国津々浦々比較しても頭一つ抜けた選択肢の多さにより、界隈のサラリーマン達の心と胃袋を満たしており、停滞を続ける日本のGDPに対して、神田一帯、午後のGDPは上昇の一途を辿っているとか、いないとか…。
数ある昼飯選択肢がある神保町。名店といわれるその多くは蜿蜿長蛇の行列を持っていたり、カレーやラーメンなどの高カロリーな食事であることが多かったりと、時間がない時やダイエット中は都合が悪いこともしばしば。そんな時、筆者が実践するのが「時間カロリー調整ランチ」である。
早い!低い!旨い!
この3拍子を揃えるメシ。それを叶えるのは、さすらいの侠客・木枯し紋次郎が、宿の飯場で食べていたような一膳飯屋のメザシ定食である。
時は令和、メザシ定食を昼時に出す店などどこにもない。しかしながら、限りなくそれに近いスタイルの定食を出すメシ屋が[しんぱち食堂]である。
最近、都内でも出店多数の気軽に魚定食が食べられる現代版、一膳メシ屋なのだ!特に筆者は、「三羽鰯定食」がお気に入りである。
メシに御御御付け(味噌汁)、それにおこうこ(漬物)、中央には焼いた鰯が3匹。
メザシではないが、限りなく木枯し紋次郎が食べていたそれに近い!インゲンやきんぴらなどのトッピングも可能だ!
この日は居候先の親分さんから助っ人用心棒としての働きぶりを評価されていつもより駄賃が多かった、懐の暖かい紋次郎という設定でトッピング追加!
さてコレをどう喰うか…。
貴方は紋次郎喰いという食べ方をご存知だろうか?
膳の上には熱々の雑穀粥とメザシに漬物、そしてよく練り上げられた山芋のとろろ。
紋次郎は先ず勢いよく、とろろをかき込むと、熱々の粥の中にメザシと漬物を放り込む。
ぐちゃぐちゃにかき混ぜた後に、湯気が立ち込める粥を口中に流し込むのだ。この間、40秒。
途中、隣席の人から仕事の依頼を持ちかけられたりするのだが、一切無視。食事が終わると最後に一言。
「あっしにはかかわりのねぇこって」と言い残し、口を拭い店を去る。その姿まさに木枯らし、根無草の処世術である。
一方、ワタクシ神保町に根を張り11年、すでに身動き取れない根付草、そんなお行儀の悪いことは出来ない。
小さい頃お母さんに習った三角食べを黙々とこなして、自動支払機にかざすバーコード付きの札を取り店を出る。
食べ始めてから15分、お支払いはPASMOで。
憧れの侠客「木枯し紋次郎」とは対極的な「陽だまり与平」悲しき奉公人(サラリーマン)である。
- Office worker
山口航平 / Kohei Yamaguchi
主に神保町で昼飯を気ままに楽しむ会社員。年間約200回の昼飯中に思ったことなどを自由に綴る。趣味はナポリタンを作ること。時々ナポリタン屋としてポップアップも。
IG @ykk05017