連載「コペンハーゲンの隣から」#3

小さな街に世界をみる


Nagi KitamuraNagi Kitamura  / Mar 1, 2026

3月に入り、“コペンハーゲンの隣” に位置するスウェーデン・マルメでは、日中に晴れる日も多くなってきました。人々が徐々に元気を取り戻し、より一層春への準備を進めている気配を感じます。春の訪れを感じながら街を歩くと、好奇心がだんだんと外側へ向いていくのを感じます。

私の好奇心は、物心ついた頃から常に「食」に向いていました。執着とも呼べるくらい、食べることが大好きでした。

特に、幼少期に異国の料理を食べた時間は、私にとって「食」に対する関心を深める大きなきっかけになったと感じています。

私の母は、私が小さい頃からさまざまな国の料理を家で作ってくれる人でした。初めてパッタイや、ラザニア、ボルシチを食卓で目にしたとき、飛びつくように食べていたことを思い出します。新しい食材やスパイスの味に出会うたびに、「なんだかわからないけれど、おいしい」という不思議な感覚を楽しんでいました。

当時を振り返ると、私にとっての異国の食は、世界を知るための特別なものだったように思います。

けれど、マルメでの暮らしを通して、異国の食と自分の距離感が変わってきているように思います。

ユニークな待ち合わせ場所 Möllevången

マルメの中心地から続く通りをしばらく歩くと、徐々に街の雰囲気が変わり、賑やかな通りに出てきます。

立ち並ぶレストランやローカルスーパーの看板には、スウェーデン語以外の言語がいくつもあります。なんて書いているんだろうと想像しながら歩くのも楽しいです。

そんなふうに歩いていると、耳から入ってくる人々の会話も聞き馴染みのない言語で話されていることに気がつきます。

スウェーデンにいながらも、ここは特に多くの文化が混ざり合っています。

ここが、Möllevången(メッレヴォーンゲン)。地元では “Möllan”(モッラン)の愛称でも親しまれています。

かつては、労働者階級の居住地域でしたが、今では学生や若者、家族連れが行き交う雑多で活き活きとした場所になっています。中心にある広場、Möllevångstorgetでは、毎日マーケットが開かれ、果物や野菜、花々が並びます。広場に立つ「労働の栄光」の像の下では、待ち合わせをする人たちがいます。

しばらく暮らしている中で、多文化都市としてのマルメを形作っているのは、ここMöllevångenだと感じています。

行列のできるストリートフード

マルメで特に人気なストリートフードが「ファラフェル」です。

ひよこ豆をすりつぶし、スパイスと混ぜて丸め、油で揚げた中東発祥の料理です。スウェーデンでは、そのファラフェルをたっぷりのレタスやトマト、きゅうりなどとサワークリーム、チリソースと一緒に薄いピタパンでくるっと巻いたファラフェルロールが人気です。

Möllevångenで「Farafel」の看板を掲げるお店の前で、地元の人々が出来立てのファラフェルを待つ様子は日常の光景です。

でも、Möllevångenを歩いていると、ファラフェルだけではないことに気がつきます。 

Bergsgatan(ベルグスガタン)やSödra Förstadsgatan(セードラ・フェルスタッズガタン)の通りは、今までも何気なく通っていた場所でしたが、軒を連ねる看板を意識して歩くと、ベトナム料理やインド料理に加えて、あまり馴染みのなかったペルシャ料理やエリトリア料理のレストランも並んでいます。

このエリアは、思う以上に多様な食が集まる場所だったということに気がつき、自然と子どもの頃と変わらぬ好奇心が芽生えるのを感じます。

日常から生まれる多文化のかたち   

Södra Förstadsgatanの通りを抜けて少し歩くと、[GYROS PITA](ギロピタ)と記された青色の看板が見えます。

窓からは店内で食事をする人たちが覗きます。こじんまりとした店内で親子や友人同士、一人で黙々と食べている人が見えて、好奇心の赴くまま入ってみました。

店内に入り、食欲そそる香ばしいにおいを感じながら、メニューを見てみると “Grekisk” の文字。ギリシャ料理だと気がつきました。

いつものように少し迷いながら、その下にあった “Medelhavs tallrik”(メデルハヴスターリック)とは何だろう、よくわからないままに頼んでみることにしました。

注文してすぐにリズムよくお皿に重ねられていく具材を眺め、気分が高まります。

間もなく“Varsågod” (どうぞ)ともりもりな一皿が差し出されました。

“Medelhavs” は、スウェーデン語で「地中海」。この大きなプレートを目の前にどこから食べようかと迷う時間も、初めての料理を食べる時の楽しみです。

こんがりとした黄色いピタパンに、トマトやきゅうり、香ばしく焼いた豚肉(ギロス)を乗せ、その上にたっぷりとTzatziki (ザジキ:にんにくやハーブを混ぜたギリシャの伝統的なヨーグルトソース)をかけて、溢れそうになるのをぎゅっと包んで口に運びます。

まろやかで酸味のあるソースと、たっぷりの具材にピタパン。それら全てが口の中で合わさる感覚が楽しく、夢中になって食べました。

ワンプレートの料理を前にすると、いつも少しわくわくします。目の前のこの一皿をどう食べ進めるかも、どの具材を先に選ぶかも、すべて自分の好きなように食べていいんだと思うと、自然と心が踊ります。

ギリシャという国、地中海へ想像を膨らませながら食べていると、ふと、その場にいたお客さんと店員さんが壁の上を指差してやりとりを始めました。見上げる方向には、1980代、かつてここで食事を楽しんでいた人たちの写真がありました。

スウェーデン語で交わされる会話を耳にしながら、この場所が四十年以上も地元の人々に愛されてきたのだと思うと、マルメの人々の日常の中に、入り込めたような感覚になりました。

子どもの頃の私は、異国の食を通して遠く離れた世界を夢見ていました。私にとってそれは、まだ見ぬ文化への憧れをを膨らませる特別なものだったように思います。

けれどマルメでは、そのような異国の食が必ずしも特別なものではありません。

例えば、ファラフェルは中東の移民によって持ち込まれた食文化ですが、現在のマルメでは、「移民料理」としてではなく、手軽に食べられる日常のファストフードの一つとして当たり前に存在しています。

その光景を目にして、たとえ遠い国で生まれた料理であっても、それを食べる人々の日常に溶け込めば、やがてその街の食文化になっていくのだと気がつきました。

そうして形作られてきた食を通し、マルメという街や、ここに暮らす人々のことをもっともっと知ってみたいと思いました。きっとそこにも、私がマルメを「ちょうどいい」と感じる理由があるのだと思います。

Gyrospita
Bergsgatan 41, 214 22 Malmö

 

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