連載「琥珀色の余韻を過ごす〜スコットランド滞在記〜」#6

「古い・長い」だけがウイスキーじゃない。今、スコットランドで生まれている新しい蒸留所


Yuki HiguchiYuki Higuchi  / Jul 18, 2026

こんにちは。スコットランドで感じた空気とともにお届けしてきた本連載。ここまで歴史や樽の違い、そして僕なりの楽しみ方についてお話ししてきましたが、今回は視線を「未来」へ向けてみたいと思います。

ウイスキーと聞くと「長い歴史がある蒸留所で作られるもの」というイメージが強いかもしれません。でも実は今、スコットランドでは面白いこだわりを持った新しいウイスキー蒸留所や待望の復活を遂げる蒸留所も続々と現れています。

連載6回目となる本記事では、そんな新しい蒸留所にフォーカスを当ててみたいと思います。

スコットランドで増える新興・復活蒸留所

ここ20年の間に、スコットランドでは数々の蒸留所が誕生したり、かつて閉鎖された蒸留所が復活を遂げたりしています。その数はおよそ40カ所弱。今やスコットランドの蒸留所総数は150カ所を超えていて、様々な個性を持ったウイスキーを楽しめて嬉しい限り。

背景には、世界的なウイスキー需要の高まりはもちろんですが、多様性を求める買い手の変化もあるように思います。これはあたかも、コーヒーの世界でスペシャリティコーヒーやシングルオリジンのジャンルが普及したことを彷彿とさせます。ウイスキーも個性の違いを楽しむシングルモルトウイスキーの市場が伸びていて、この流れを汲んで新しい蒸留所が増えています。

そんなウイスキーの未来をつくる新しい蒸留所の中でも、私が実際に現地に足を運んで「ここはおすすめしたい!」と感動した4つの蒸留所をご紹介します。

1. 昔ながらの職人技をあえて復活。「ダンフェイル蒸留所」

まずご紹介したいのが、2023年にできたばかりの本当に新しい「ダンフェイル(Danphail)蒸留所」です。ここは、ウイスキーづくりの長い歴史へのリスペクトを感じられる場所。モダンで効率的な設備を取り入れる蒸留所が多い中で、彼らは昔ながらの手法・手作業にこだわっています。

たとえば、原料の麦芽。多くの蒸留所では製麦会社から仕入れることがほとんどですが、彼らは独自で発芽させた麦芽を100%使っています。また、発酵に使うウォッシュバックも昔ながらの木製のもので、建物内に土着する野生の乳酸菌や酵母すら混じるような工夫をしています。工数を考えると途方もないですが、効率よりも味わいや香りを追求する姿勢が随所に垣間見えます。

まだオフィシャルボトルのリリースはしていませんが、すでにニューメイク(熟成前の原酒)がとても美味しくて驚き。これからどんな風に樽の中で育っていくんだろうととても楽しみな蒸留所です。

2. かつての農場を美しく再生。「バリンダロッホ蒸留所」

続いてはスペイサイド地方にある「バリンダロッホ(Ballindalloch)蒸留所」です。2014年にスタートした蒸留所ですが、佇まいは古き良きスコットランドの農場そのもの。それもそのはず、歴史あるお城の領地内にあった家畜小屋を、リノベーションしてつくっています。

ここの面白いこだわりは、自分たちの農場で育てた大麦を使ってウイスキーを仕込んでいること。そのため年間生産量は多くはありませんが、お酒作りの原点である「土」や「農業」の匂いが、そのまま形になっているような蒸留所です。

色々なボトルがリリースされていて、どれも個性ある美味しいウイスキー。どこかで見かけた時にはぜひ手に取ってみてください。

3. 最古の記録が残る土地でのモダンな挑戦。「リンドーズアビー蒸留所」

3つ目は、ローランド地方にある「リンドーズアビー(Lindores Abbey)蒸留所」です。ここはウイスキーファンにとってスコットランドの中でもことさら特別な場所。1494年の国王の命令書に、この地で「生命の水(ウイスキーの原型)を作らせた」という、スコッチウイスキーの歴史の中で最も古い公的記録が残っている土地なのです。

その修道院の跡地に、2017年新しい蒸留所として蘇ったのがこちら。歴史のロマンはもちろんですが、ウイスキーの熟成に比較的新しく登場したSTR樽を積極的に取り入れるなど、味わいへのモダンなアプローチを取り入れています。

古い歴史をただ守るだけでなく、新しいセンスで次の時代を作っていく。蒸留所にはちょっとしたミュージアム要素もあって、ツアーだけでなく空間も楽しめます。

4. 街の真ん中でウイスキーを実験する。「ホーリールード蒸留所」

最後はスコットランドの首都・エディンバラの街中にある「ホーリールード(Holyrood)蒸留所」です。ウイスキー蒸留所といえば大自然の中にあることが多いのですが、ここは都会のアクセス抜群な場所に2019年に建てられました。

ここの最大の特徴は、とにかく実験的であること。発酵に使う酵母をクラフトビールや日本酒に使われるものなど色んな酵母で試しています。また、香ばしくローストした大麦を使って、新しいフレーバーづくりに取り組むなど、ユニークな蒸留所。

首都エディンバラに位置しており、アクセスも良いので、スコットランドに行く際にはぜひお立ち寄りください。これまでのウイスキーの常識に縛られない自由な発想やエネルギーに満ちあふれた、新世代の蒸留所です。

今なお進化を続けているウイスキー

今回ご紹介した4つの蒸留所を見ていると、ウイスキーも常に時代とともに進化していっていることを実感します。今この瞬間も、新しくて魅力的な個性が次々と生まれているワクワクする世界が広がっています。

伝統と革新。それらを行き来しながら、これからも豊かな時間をともにしてくれるウイスキーが生まれてくることでしょう。

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