日本クラフトビールのクオリティを上げる原動力
[スペントグレイン]の二人が見据える、ビールの未来
RiCE本誌47号ビール特集にて、WBC/CBCからNY取材まで同行させてもらった鈴木諒さん。彼は[CRAFTROCK]の醸造長でありながら、自ら[SPENT GRAIN]を創業し、全国の醸造所設立を目指すスタートアップへの伴走フルサポート業を軌道に乗せている。パートナーの永石卓宏さんも同じく醸造経験が豊富で、いわば日本のクラフトビールの草の根、その品質を彼らが底上げしているとも言えるだろう。今回は、そんな鈴木さんと永井さんにインタビューを行った。
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永石卓宏(左)
大手メーカーのビバレッジ部門で清涼飲料水造りを学んだのち、都内のブルワリーでビール造りを始める。2016年から[Barbaric WORKS」の醸造責任者として勤務し、併設されたビアパブ「Gold’nBub」では、地元茅ヶ崎の水を使用したクラフトビールが人気を博す。モットーは「食事にも人にもそっと寄り添いつづけるビール造り」
鈴木諒(右)
2011年[DevilCraft]に入社、ビール業界でのキャリアをスタートし、2019年よりステディワークス、[CRAFTROCKBREWING]醸造長に就任。ビールの醸造だけではなく、醸造所設立の総合スタートアップ企業である[SPENT GRAIN]の創業者・代表も兼ねており、日本のビール業界の品質の底上げ、ブルワーの育成に尽力している。合言葉はクリアネス。
―[スペントグレイン]は、今の日本のクラフトビール界において独特の立ち位置にいると思います。醸造所の立ち上げから機材販売、メンテナンス、コンサルティングに至るまでオールインワンで対応できる会社って、それまでなかったんでしょうか。
永石 なかったですね。僕と(鈴木)諒は二人とも現役のブルワーなので、そこが大きな違いかなと。うちの他にも設備会社は日本で10社ぐらいあるんですけど、今の弊社がやっているようなことはどこもやっていなかった。いずれもビールはお好きなんでしょうけど、第一線の醸造家としての専門的な知識や視点を持ち合わせているところはほとんどない。うちが醸造設備の販売を始めたきっかけは、東京の[レッツブリュー]が最初なんですけど、「設備の輸入とか設計とかできないの?」って相談を受けて。
鈴木 まあ最初は手探りですね。勢いでやってみるかと思ってやってみたらなんとかなって、ちょっとずつ案件増やしてっていう。最初の2年ぐらいは年に数件あるかないかぐらいだったのが、徐々に増えていって、2022年のコロナ明けの時の補助金ラッシュで、めちゃくちゃ案件が入って。
永石 当初、僕らは営業もいなければ、全員が副業っていう形で[スペントグレイン]を始めたんです。で、口コミやSNSだけで認知されていくっていう不思議な現象が起きて。
ーそのきっかけとなるような案件とかブルワリーとかあったりしましたか。
鈴木 [パシフィックブルーイング]じゃない?
永石 ああ、それはでかいね。基本他の醸造設備会社って、パッケージ化されたものを売ってることが多いんです。例えば500リットルの仕込設備なら「はい、じゃあこれです」と。だけど、うちの設備だと全部オーダーメイドみたいな感じで作っているので
[パシフィック]の時も「特別な製法をできるようにしたいから、どういう配管を組むのがいいのか話し合ったり、建物の形に合わせた動線の良いレイアウトを一緒に考えたりとかもしました。で、(大庭)陸の[パシフィック]は発信力があるので、見に行ったひとたちが、「これいいね、どこから買ったの?」っていう感じで、どんどん広まっていったっていう。
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スペントグレインがこれまで立ち上げをサポートした国内のブルワリー
―[パシフィック]って今すごい人気じゃないですか。特別だった部分はありましたか?
鈴木 そもそも当時、永石が茅ヶ崎の醸造所[バーバリックワークス]で醸造長をしていたんですね。で、大庭君は僕が醸造長やってる[クラフトロック]で働いてたんですよ。それで茅ヶ崎に住んでて、地元のコミュニティに永石がいて、職場に僕がいるみたいな感じだったので。どういう仕様にするかとか細かい話は、もう常にどっちとでもできる状態だったので、かなり密にコミュニケーションをとって何をどういうふうにやろうかっていうのを細かく進められたっていうのがだいぶ大きかったのかなと思います。
―じゃあ、お互いにとって転機になった感じですかね。
鈴木 そうですね。あとはみんな仲いいんで、ブルワー同士で会って話すと自分とこの設備の不満だったりとか、いろんな話をするじゃないですか。意見交換していくと、だいぶ知識も深まるし、改善点みたいなのはどんどん出てくるので。そういうのも自然と自分たちの仕事の方にうまく反映できてるのかなと思いますね。
―アメリカでも感じましたけど、クラフトビールの関係者って、めちゃくちゃ仲良いですよね!
鈴木 アメリカのクラフトビールカルチャーって “カルチャー”じゃないですか。彼らはもう趣味から入ってる人たちが多いので。ほとんどサーフとかスケートとかと一緒なんですよ。なんか同じものが好きな同士みたいな。
―バンドもそうですよね。
鈴木 そうそう。基本みんなそのノリですよね。バンドマンとかでも、「どういう機材使ってんの」とか、弾き方についてとか、いろんな意見交換するじゃないですか。結構それと一緒かなと思いますかね。だからこそ、みんなよりいいものを作りたいっていうライバル心もあるし。でも、我々みたいに、自分たちが使いやすいものを作った方が絶対にいいよねっていうスタンスもあるので。我々はプレイヤーだけど、メーカーでもあるというか。
永石 うん、機材屋さん。楽器屋って大体店員がギター弾いたりバンドやってたりして。やっぱりどんな音鳴らすでも、機材のことわかってないとダメじゃないですか。自分もプレイしてて、その気持ちもわかるみたいな。
―ちなみに、醸造所立ち上げの相談から始まって、実際にビールができて売れるようになるまでって、時間軸ではどれぐらいかかるもんなんですか。
永石 なんだかんだ一件一年半、構想からだと二年くらいかかってますね。でも二年かけて話を進めて、やっぱり違うところで(醸造機器を)買っちゃったっていうのも全然あるので。
―ええっ、そんなことあるんですか?
永石 やっぱり急に親会社が予算回さなくなったので、ボツになりましたとか。こっちの方が安いからって他社になったりとか。その場合うちはお金取れず、そのまま他社に取られます。でも面白いのが、そうやってうちで進めてて、結局他社さんで購入されましたと。
でもその後、その他社さん、アフターフォローやってくれるって言ってたのに全然やってくれないから、「もう失礼を承知なんですけど、ちょっと相談に乗ってくれませんか?」とか全然ありますよ。だから最初から言ったじゃんって。逆にうちは醸造設備に関してほぼクレームがないんですよ。
鈴木 まあやっぱり我々は自分たちが体験したこととか、ブルワー目線であるべきものっていうのを提供できる唯一の立場だと思うので、それこそが一番の強みかなとは思います。
―なるほどね。[パシフィック]以降も、軌道に乗りつつ案件も増えていく中で、シーンの変化とか実感はありますか。
永石 味で言うと、鈴木もそうですけど、(WBCで)世界一獲ったり、日本のクラフトビールシーンのクオリティは確実にここ数年で上がりましたね。それはもう間違いない。あと設備で言ったら日々進化はしてますし。まあ僕らも導入したところに定期的にお伺いして、どういうのがあった方がいいっていうのはヒアリングして、それでまた新しいサービスを考えるようにはしています。
鈴木 そこは本当にバンドと一緒で、うまくなりたければ練習するしかないし、知識とか技術を身につけるしかないので。美味しいビールを造りたい情熱を持っている方だったら、協力を惜しまず一緒にいいものを造り上げていきたいなと思っています。
SPENT GRAIN
鈴木諒、永石卓宏の両氏がLAにブルワリーツアーに出て意気投合、2018年より二人を代表として創業。当初は「スペントグレイン(麦芽粕)」をアップサイクルした犬用クッキーの製造販売を行なっていたが、設備事業に舵を切ることに。事業再構築補助金の後押しを受け取引先が拡大。JAPAN BREWERS CUPの冠スポンサーを務めるなどクラフトビール業界全体の底上げに尽力している。飲酒は20歳から。飲酒は適量を。飲酒運転は法律で禁じられています。妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。
本記事はRiCE47号「特集 ビールは自由だ。」の掲載記事を再編集しています。
写真 平野太呂 (Photo by Taro Hirano) IG@tarohirano77
文 稲田浩 (Text by Hiroshi Inada)
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