
連載「2000年生まれ器好きが、器を巡って旅をする 響の日本うつわ見聞録」#3
清水大介さんおすすめのお店で呑みながら人生相談に乗ってもらう(3/3)
響の日本うつわ見聞録。それは、2000年生まれの私、井上響が、全国各地で生み出される器の魅力や素晴らしいものづくりについて探求すべく旅をし、そこで出会う職人や作家の方々の知られざる哲学の記録。そこから日本が誇るべき器の未来を考えたいと思います!(前回のコラムはこちら)今回は京都にある和食店「祇園ふじ寅」にて、清水さんと一緒にお酒を飲んだ時の会話の一部を記します。現代の日本文化について、これからの生き方について、清水さんの哲学について……悩み多き若輩者の20代にとってこれ以上ない贅沢な人生相談の記録です。“今必要とされているもの”をつくること
響 工芸品を売るにも、文化背景がわかってないと売るの難しいなと思って。例えば急須を売りたくても普段急須を使ってお茶を飲んでいないと使う人の気持ちがわからない、みたいな。だからお店で売るだけじゃなくて何か体験できるイベントをやったらいいのかなと思って不定期でお茶会みたいなことをしているんですけど、それでもものの販売って難しくて。用途がわかりやすければ皆ものを買うようになるんでしょうか?
清水 僕の場合はゴールから逆算してものづくりをしている。今の人たちが欲しいものから逆算するものづくり。例えば、電話ボックスをつくる技術があるけど皆電話ボックスを使わなくなってる。それに対して嘆いている人っていないじゃないですか、需要がなくなってきているから。電話ボックスは例だけど、いろんなものを職人がつくってはなくなっているのに、 “伝統工芸” だけ大事にされ過ぎている気がする。僕はもっとフラットに、必要とされるから残る、必要とされていないものは残らなくてもしょうがない、と思ってる。大事なことは、ものをつくることではなく、ものを作るための技術で今の人たちがほしいものをつくるってことができないのかと考えることだと思う。
響 その文脈で言えば、文化を “残す”っていう言い方、何か違和感ありませんか?
清水 文化を残すってどういうことか未だによくわからない。大学の同級生が『文化って無理矢理じゃなくて自然と残っていくものなんじゃないの』って言ってて。日常使いとしては工芸品は求められなくなっていると思う。コレクションとかハレの日は別だけど。食べ物でも、例えば炭火で焼鳥を食べるとかみたいに、家(日常)ではつくりづらいけどお店じゃないとつくれないものがある。
飲んでたくさん話を聞いてくださる清水さん
モチベーションと体力は続くのかー
響 清水さんのように陶芸を20年やり続けるって相当なことだと思うんですけど、飽きてしまったりやめようと思ったりしなかったんですか?
清水 それが不思議よね。めちゃくちゃ飽き性だし。でも陶芸に関しては飽きなかった、というよりは、陶芸に飽きかけてたフェーズがあったのかもしれないけど、経営やブランディングも考えるようになったこともあって、飽きなかったのかもしれない。はじめは飯食うために陶芸のことならなんでもして最低限食べられるようになって。その目的が達成したら、経営やブランディングのこととか、今いるスタッフへのお返しとか、そういうことを考えるようになった。
響 熱源やモチベーションはその時々によって変化するんですね。
清水 大きいところは変わってないけど、小さいところはたくさん変わってきたかも。年代によって考えは変わると思う。
響 学生時代はサッカー少年だったんですよね?
清水 そう、だからここまで走って来れたんだと思う。基礎体力があったから。体力大事。人生はマラソンっていうけど、急ダッシュしてあれこれやるよりもマイペースにコツコツやってる方が良いかもとも思う。でも40代になったら面白い話が次々舞い込んでくるようになったから、そのつもりはなかったんだけど定期的にダッシュせざるを得ない、悩ましいけど(笑)。
自分は清水六兵衛の末裔(分家)なんだけど、七代目清水六兵衛(九兵衛)さんの展覧会を見に行った時に、僕の年齢の時の年表を見たら、全体の中の半分にも達してなかった。40代になってちょっと頑張った気でいたけど、こんなんで頑張ったって言ってる場合じゃない!って思った(笑)。
響 体力があるうちに色んなことをやりたいと思っているんですけど、でもやりたいことがありすぎて選べなくなっちゃって現実的じゃない気がしてきていて……。
清水 20代の時はそんなこと考えなくて良いんじゃないかな。やりたいことは全部やった方が良い。その先に勝手に何かができてくる。大体想定通りにならない。1年以上先のことなんて考えてもしょうがない。
響 今、『器、茶、酒、旅』というテーマで活動しているんですけど、器もお茶もお酒もめちゃくちゃ好きだし勉強しているけど、じゃあ器の人か? と言われるとそうじゃない状態。でもこれらを掛け合わせていくことでそれぞれの魅力がもっと引き立つと思うんです。
清水 複合していった方が強いってことだよね。そしたら一つ一つを1000時間かけるんじゃなくて、その複合を3000時間かけて磨いていけば良いと思う。

食事後に清水さんとお店の方々と撮った集合写真
TOKINOHAの器に盛られるふじ寅のお食事
祇園ふじ寅
〒605-0801 京都府京都市東山区宮川筋1丁目231-1
祇園四条駅から徒歩1分
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/GLdcgR4BYZBRNARN8
IG:@gionfujitora
工芸・地域文化・観光の編集者。伝統工芸のコンサルティング会社にてストアマネージャー、インバウンド向けの旅行会社にて営業を経て独立。2000年生まれ。「器、茶、酒、旅。」がテーマの招待制イベント&フリーツアー『響縁』を不定期開催。日本の伝統文化をまなぶ、つながるコミュニティ『daruma.com』発起人。
IG @hibi.kino.ue|@daruma.com_japan