[Maruta]や[Don Bravo]など名店が参加

都市型フェス『sai sei sei』を食視点でレポート


RiCE.pressRiCE.press  / Nov 13, 2025

フェスと聞いて、どんな光景を思い浮かべるだろう。野外で鮮やかな色のタオルを持ち、大音量の音楽にのって盛り上がる。こんなイメージを持つ人が多いのではないだろうか。

 11/1、2の2日間行われた『Sai Sei Sei』は、こんなイメージを覆す、全く新しいフェスティバルだった。会場になったのは、多摩にある株式会社GREEN WISEの本社。会場の建物の中に足を踏み入れると、なんと床には大量の落ち葉が。ザクザクと落ち葉を踏む感触を楽しみながら奥へと進むと、メインステージがある温室へ到着。温室には観葉植物や南国の貴重な植物が鬱蒼と繁っており、来場者たちは大量の緑に囲まれながらリラックスした表情を浮かべ、アンビエントミュージックに耳を傾けていた。

さらに奥に進むと、フードとドリンクを楽しめるエリアが広がる。しっとりとした静かなムードの温室とは打って変わって、活気のある雰囲気が漂う。このエリアには[Maruta]をはじめとし、西東京を中心に地域や自然とのつながりを大切にする5店舗が出店した。

フードエリアには焚火が。火の周りには自然といつも人が集まっていた。

[Maruta][Don bravo]の2店舗はコラボメニューを提供。[Don bravo]が使いたい食材のイメージを伝え、[maruta]がそれに合うような東京近郊で採れる食材を提案していく形でメニューが開発されたのだという。

例えば、「TOKYO Xと桂の葉、どんぐりのラグーパスタ」では、甘い栗の代わりに近くで採れるどんぐり、バターの代わりに薪のオイルを使用した。他にも、三鷹産の小麦でできたパスタや、TOKYO Xという東京で飼育されているブランド豚を使用し、完全に東京の風土から生まれた一皿として仕上げられている。

 
(奥)TOKYO Xとルッコラのサラダ。(手前)TOKYO Xと桂の葉、どんぐりのラグーパスタ。上にトッピングされているのは、桂の落ち葉を砂糖でコーティングしたもの。桂の葉は紅茶やキャラメルのような香りをもち、このパスタ全体に繊細な風味を添えている。

 ズッキーニや枝豆、大根といった野菜から旨みを引き出したプラントベースのカレーは、植物性のものだけとは思えないほどコク深い味わい。スパイスはGREEN WISEの敷地内に生えているレモングラスや、調布で多く栽培されているハバネロ、日本の沿岸に広く自生している烏山椒を使用した。また、ご飯は爽やかな香り付き。お米を炊く際に、夏みかんやシークワーサーといったたくさんの種類の柑橘の葉っぱを入れ、一緒に炊き上げたそう。ココナツのような香りを持つ烏山椒の風味とご飯の爽やかさ、そしてコクのあるカレーは相性抜群だ。

中央線の高架下にあるビール醸造所26K(ニーロクケー)ブルワリーもこのイベント限定のビールを提供した。「Slow Leaf Weize」という名のこのビールは、小麦主体の白ビールに、[Maruta]のガーデンで育てられた枇杷の葉を漬け込んで香りがつけられている。一口飲むと、枇杷の葉の持つオレンジのようなフルーティーな香りがいっぱいに広がった。

他にも[LAMP COFFEE][carta]が出店し、来場者にこの日だけの特別なフードやドリンクを振る舞った。

どのお店にも共通して印象的だったのは、来場者と出店者の間に生まれる会話だ。どの店も東京近郊の食材を使ったメニューを提供しているため、来場者にメニューの説明をする際に自然と食材の話になり、来場者が身近な地域の食材や自然環境について知ることができるのである。こんなにも東京産の食材があるのかと驚き、何度も「へえ!」と声が漏れた。

さらに、「再生成」を感じるのは、食べている最中だけではない。実はこのフェスのすべての食器は、[WASARA]という植物繊維から作られたコンポスタブルな紙の器。食べ終わった後の食器は、ゴミ箱に入れるのではなく、自分の手でシャベルを使って土に埋める。カトラリーも竹でできており、分解されやすいようにフェス後に細かく砕き、食器をとともに埋めるそうだ。近年、土に還るような素材を使った商品は多いが、それを「実際に土に埋めてみる」のは、多くの人はやったことがないに違いない。そんな初めての体験に驚きつつも「ゴミの分別」の一歩先に進めたような嬉しい感覚があった。

「再生成可能な行動」とだけ聞くと、つい身構えてしまったり、我慢のようなものを連想したりするかもしれない。だけど、『Sai Sei Sei』が教えてくれたのは、食や音楽をリラックスして楽しみながら、身近な環境や自然について考える姿勢だった。最初はただフェスを楽しみに来たけれど、気がついたら自分も循環の一部になっていた。そして、帰る頃には東京の風土への愛着という新しい思いが芽生えていた。東京は、住む者にとっても都市のイメージが強い。そんな東京が、もうすでにもっていた豊かな自然の表情を引き出し、私たちに見せてくれたのが『Sai Sei Sei』だった。

決して派手なフェスティバルではない。だけど、自然と、それを大切にする人々の温もりが心地いい2日間。『Sai Sei Sei』は、これからのフェスのあたらしい形を見せていた。

Text&photo by Ofuchi Maho

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