塩塚モエカ(羊文学)× 按田優子(按田餃子)× 宮下拓己(LURRA°)

特別鼎談「サステナブルな食の未来」 with Johnnie Walker


PromotionPromotion  / Sep 15, 2022

サステナブルな食の未来を実現させるために、私たちは日々どのように食と向き合えば良いのだろう? 今回は、世代や立場も異なる料理人、アーティストとの鼎談を通して、そのヒントを探ってみたい。

話を聞いたのは、「毎日でも通える食堂」のような場所をつくりあげ、20-30代の女性を中心に圧倒的な支持を受ける[按田餃子]の按田優子。若き才能が集結し、今最も注目すべきレストランと言っても過言ではない、京都[LURRA°]オーナーの宮下拓己。ミュージシャンとして活躍しながら、食にも高い関心があるという塩塚モエカ(羊文学)の3名だ。


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月に開催したイベント<エシカルフードカタログ Supported by Johnnie Walker>にて行われたこちらのトークの模様を、RiCE.pressで特別に公開!

写真左から塩塚モエカ(羊文学)、宮下拓己(LURRA°)、按田優子(按田餃子)

まずは食材と人をつなぐ「道具」との関係性を
ゆるやかに見つめ直すところから

「サステナブル」や「エシカル」という言葉を聞くことが増えましたが、こと食においては、どんなことを感じていますか? 

宮下:ここ数年は食の分野でも随分と耳にするようになりました。その度に、有機栽培の野菜が良い、農薬をたくさん使ったものは悪いというように「選び取られる対象」である食材の良し悪しをジャッジすることが多いように思います。でもそもそも「食材そのものに善悪はない」し、あまりそこは重要な論点ではない気がしていて。

なるほど。

宮下:「エシカル」という言葉は直訳すると「倫理」という意味です。つまり「たくさん食材があるなかで、何をどう、どんなふうに選ぶのか」という主体側の意識の話ではないでしょうか? もっと自分自身の意識に目を向けた方が、建設的な議論ができる気がする。そのなかには、「食べ物を扱う際に、いかに無駄を出さないか?」という視点も含まれてくるはず。

塩塚:「無駄を出さない」ということでいうと、実はわたし、按田さんの本から影響を受けているんです

塩塚2年ほど前から一人暮らしを始めたんですが、それまであまり料理をしたことがなかったので、スーパーで買った食材を全て使いきれない、時にはカビが生えてしまうこともあって。そんな時に按田さんの本に出会ったんですけど、書いてある保存食のアプローチ、「お酢とお塩に玉ねぎを漬けておくと、長持ちするよ」とかを試したら少しずつ変わっていった。あぁ、些細なひと工夫で、こんなに美味しくて、無駄も減らせるんだと。

按田:自分が書いたことをモエカさんが実践してくれて、すごくうれしいです。「お塩と酢がすごい」と思ったのはきっかけがあって、お仕事でペルーに行った時のことです。冷蔵庫がほとんどない村で、食材は放っておくと急激に状態が変わってしまう。マンゴージュースなんて、数時間置いていたら凄まじい味になる。でも卓上にあるサルサだけは、不思議と時間が経っても腐らなかったんです。何日経っているのかわからないのに。その時に、「あぁこれは、塩と酢が入っているからか」と思い、「塩と酢は、むしろ電気より信頼できる!」と感じました(笑)。

宮下:日本の昔の食生活にも近いですよね。そもそも冷蔵庫なんかないじゃないですか。でも海に囲まれていたから、塩はいくらでも取れたはずで、そうした塩や発酵を巧みに利用した保存方法が、日本中どの地方にも根付いている。日本で受け継がれてきた叡智から学べることが、まだまだたくさんあるはずです。

宮下さんがオーナーを務める京都[LURRA°]では、ガスは使わずに、薪火でお料理をやられています。その理由も同じようなところにあるのでしょうか?

宮下:薪で焼くことで野菜やお肉に、香ばしい香りがうつる。これって言い換えれば美味しい香りの調味料です。ただ薪で焼くだけで、それがつくって、最強じゃないですか? これを約50万年前、人間は火を使い始めた時からやっていた。僕らはお店のことを「モダン・イノベイティブ」みたいに言っていますが、料理のアプローチは「薪」という、ある意味すごく原始的な方法を採用している。そんなギャップが面白いなって。

按田:薪料理のいいところって、後始末まで全部が循環していることだと思います。出た灰だって、アクを取る時に使えたりしますし。

エシカルフードへのアプローチ

宮下さんは今回のイベント*出店者として、ガスパチョを提供していただきましたが、一体どんなアプローチで作られたものなのですか?

(*同トークが実施されたイベント、「エシカルフードカタログ・カタログ Supported by Johnnie Walker」では、フードカルチャーの先端を走る気鋭の飲食店が多数出店しエシカルフードを販売した他、ジョニーウォーカーとサステナブルな食材を合わせたカクテルを特別に提供。)

宮下:暑いから冷たいスープをと思い、ガスパチョにしました。67種類ぐらいの野菜を使って作っています。へタとかは本来は全部外すんですが、今回は素材の全て、余すところなく全部使って作ってみました。

Photo by Naoki Usuda

按田:本当に身体に沁みわたるような感覚のお料理でした。

塩塚:透き通っていて、飲んでしまうのがもったいないくらい。きれいな味わいで、すごくおいしかった。

3人で仲良く乾杯! それぞれが手に持っているドリンクは、イベントで提供された、ジョニーウォーカー ブラック12年とサステナブルな素材をあわせた「サステナブルを目指したカクテル」だ。按田さんは、魚の骨のダシとベジブロスを存分に抽出した「ジョニー ブラッディーメアリー」を。塩塚さんはプラムの種ごと漬け込んだ「ジョニー プラムハイボール」。宮下さんは、豚の脂を抽出した玄人向けの一杯「ジョニーポークオイル ネグローニ」。これらの素材は、イベント出店者である[MINATOYA]シェフの鬼崎翔大さんが提供してくれたもの。通常営業時は廃棄となってしまうものだが、「カクテルならば活路が見出せるのではないか」と、可能性を感じたそう。ドリンクを監修したのは元[フロリレージュ]で、現在はフリーランスのバーテンダーとして活躍する大場文武さん。

按田:ジョニーウォーカーを使った、サステナブルを目指したカクテルは、三種類全ていただきました。どれも発想が軽やか。豚の脂を使ったカクテルなんかは「あっ、こういう表情があるのか」と発見でしたね。

宮下:ブラッディメアリーは魚の骨から取ったダシが入っていて、びっくりしました。こういう発想で何かを作るの、すごくいいと思います。僕もお店では、食材の使えない部分は麹と塩に漬け込むことで発酵調味料を作るようにしています。こういう食材を活用する手法が、エシカル云々ではなく、純粋にその店の魅力・強い個性として受け止められてきている気もしていて。昨年RiCEの餃子特集で披露していた按田さんの餃子にも、共通する部分を感じましたね。

按田:スイカの皮の餃子ですね。捨ててしまうスイカの皮を使うんです。牛肉を入れて、ミントでちょっと香り付けした。あれはなかなか、おすすめですよ。

塩塚:餃子って、どんな食材を組み合わせても美味しく食べられる。私たちの生活を助けてくれる料理ですよね。

「毎日続かないから、今後一生やりません」より365日のなかで、5回やれた」でいい。

「日常の食生活」で実践できる方法についても、話を深めていければと思います。塩塚さんの周りには、ヴィーガンの方などいらっしゃいますか?

塩塚:少しずつ増えている印象です。環境に対する意識からというのもあると思うのですが、「あくまで自分の体調を整えるため」と言う子や、「気持ち的に心地いいから選んでいる」という具合に、自分軸で変わっていく人が多い気がして。私もそういうスタンスがいいなと思います。

宮下:同じ意見です。僕はお肉も魚も食べますけれど、回数は昔より減りました。それは環境どうこうよりも、週7日のうち、3日ぐらい野菜だけの日があるぐらいがちょうどいい。それが義務になっちゃうとなんか厳しいですけど。マイボトルとかも、「今日は持ってこれた、ラッキー」くらいな感じでいいんじゃないかと。2ヶ月前にマイボトル買ったんですけど、まだ10回ぐらいしか使えていないし(笑)。でも、「毎日続かないから、今後一生やりません」より、「365日のなかで、5回やれたな」なら確実に意味があるから。そういう日々の選択が変わることの積み重ねだと思うんですよね。

宮下:今僕は[overview coffee]という、土壌の再生や気候変動にポジティブな影響のあるコーヒーロースターのプロジェクトに関わっています。コーヒーを一杯飲むって本当に小さなアクションだけれど、世界の成人人口のうち半数以上がコーヒーを飲むらしい。皆が朝飲むコーヒー一杯を変えることで、社会的なインパクトはめちゃくちゃ大きいなって。今回のイベントは、ジョニーウォーカーと一緒にやらせてもらったけれど、こういう世界的な企業がサステナブルな方向に舵を切って何かチャレンジしていくことも、すごい意味のあることだと思います。

按田:エシカルフードのイベントのサポーターがジョニーウォーカーであることは、すごいシンボリックだなと思いました。今、世界的に森林火災のニュースを聞くことって増えていますけれど。これって泥炭地が燃えているのが一因だったりするから、泥炭地の土壌を一気に改良してしまう流れも増えています。でも泥炭って、1000年単位で様々な要素が堆積した貴重なものだから、一度手を加えてしまうともう取り返しがつきません。ジョニーウォーカーのウイスキーづくりには泥炭が欠かせないからこそ、同時に泥炭地の保護にも積極的に取り組んでいると聞きました。これはすごく里山っぽい発想だなと思います。私たちが口に入れるものと、自然が互いに対話しながらその土地を守っていくこと。ウイスキー作り通して、昔からそれを実践し続けてきたのは純粋に素敵なことだなって。

イベントのサポーターである「ジョニーウォーカー」 のシグネチャーは「ブレンデッド・ウイスキー」。ブレンドという言葉どおり、さまざまな要素を混ぜ合わせるからこそ、大切なのはそのバランスだ。そしてそのバランスの良いブレンドを実現する上では、ウイスキーと、水、木々、モルト、グレーンといった自然の素材や力の絶妙な関係性が非常に重要。それゆえ環境資源のバランスを守り、修復させることを大事にしているのだ。泥炭地の修復に限らず、植林や、蒸留所の全工程で100%再生可能エネルギー使用を目指すなど、いくつものサステナビリティ計画に対してコミットしている。

按田:ウイスキーもそうですけど、人間が作るものには、環境や植物と対話することで出来上がるものもありますよね。神話だったり、音楽にもそんなところがあると思っていて。モエカさんの曲も、わりと植物っぽいものが多い印象があります。「ほら種がそこにポンってなったから」という歌詞とか

塩塚:ありがとうございます(笑)。エコロジストではないんですが、自分が育ったところが比較的自然に囲まれていたので。やっぱり風の匂いとか、自然の中にいる心地よさとかを思いながら書いているところはあります。

最終回のストーリーが
既に決まっていたとしても。

宮下:塩塚さんの歌詞について、僕も話したいことがあるので話させてください(笑)。羊文学の『光るとき』という曲の歌詞で、「最終回のストーリーは 初めから決まっていたとしても 今だけはここにあるよ 君のまま光ってゆけよ」という歌詞があると思うんですが、これめっちゃよくないですか。

塩塚:ありがとうございます!嬉しいです(笑)。

宮下:世界がどんな風に変わろうが、今に対して思いを持つことが大事。それってすごく励まされるし、強く共感します。僕は雑誌とかで書き物をするときに、“cultivate the futures“っていう言葉をよく使うんですね。「future」って通常は複数形の「s」つかないんですけど、敢えて「futures」と「s」をつけて書いている。もちろん未来って、何かしら決まっちゃっている部分はあると思います。でも、今からでも変えていける、自分たちの選択が自分の未来を創ると思うから。悲観的な未来を描く理由なんてなくて、少しでも良い未来を想定して、どうやって近づけるかを考えるほうが、生きている意味があると思いませんか? そういう未来に向かって耕し続ける作業を、僕はしていきたい。繰り返しになるけれど、「最終回のストーリーは 初めから決まっていたとしても 今だけはここにあるよ 君のまま光ってゆけよ」って本当に近い感覚だなと思う。僕は今31歳で、バブル崩壊後に生まれました。世の中は不景気やらなんやらで、ハッピーなニュースってあんまり見てない。でも、だからと言ってそこに気を落とすのではなくて、あくまでポジティブな未来を描いて、そこに向けて「今」を耕し続けていきたい。だからサステナブルな食の未来も、きっとそうして「今」や、日々の生活に、真剣だけど気負いすぎず、向き合った結果にたどり着けることかなって思っています。

同トークが収録されたのは、RiCE編集部が主催した「エシカルフード・カタログ Supported by Johnnie Walker」にて。フードカルチャーを牽引するトップシェフとバーテンダーが集結し、サステナブルな食の未来を体感する2日間だった。イベントの模様はこちらからどうぞ!

Photography by Kisshomaru Shimamura
Interviw by Hiroshi Inada
Text and Edit by Shunpei Narita

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