
連載「YADOKARI LIFE IN KUMAMOTO」#7
テラさんと[相撲寿司]へ
熊本地震2026から早2ヶ月。
被災してから今日までの日々や周りの様子など書き連ねたい事は多くありますが、せっかくRiCE.pressという信頼ある食のプラットフォームから想いを発信できる機会がある僕から伝えたい事は、時間やお金にゆとりが出来た時は熊本に直接足を運び気になる場所やお店に足を運びにきてほしい!ということ。
生活基盤を失った人が多数いる震源地の熊本南部の宇城や八代方面の悲惨な現状とは違い、僕が住む中心部や北部は日常をほぼ取り戻している。(震災後炊き出しで八代に行ったのですが、目の前でぺしゃんこに潰れた家屋の数々と隆起しヒビ割れて通れない道を見かけると、言葉を失うと共に、復興するのにどれくらいかかるのだろうか。と寂しい気持ちを抱いた。)
とはいっても皆んなにとって生活に必要不可欠とは言えない飲食店は、こんな時どうしても下向きになる。僕が勤めるコーヒーショップも震災からの1ヶ月間は来客も半分以下になっていた。こういった時の営業や発信には各々のお店のオーナーの色が反映されていて、振り返るととても勉強になった。
グラスやお皿、ワインなど割れ物を扱うお店にとって直接的な被害も大きい。懇意にして頂いてるレストランやビストロの悲惨な投稿や休業は心が痛んだ。
深く楽しい夜を行く度に過ごせる[tetra]。熊本市内中心地のアーケードを抜けた並木坂の3Fに佇むワインバー。ここも例外ではなかったはず。店主の寺本さん(愛称テラさん)のワイン&ミュージックの選球眼に惹かれ何度杯を重ねたことか。ここでの出会いも多い。来る人にとって宿木のような場所だと思う。テラさんは「僕は料理人でもない。ただワインを注いでいるだけだから。」と謙虚な言葉をよく口にする。けど削ぎ落としているからこそかえって輝くというか、そのワインやサービスに対して誠実かどうかの部分がより目立つから、自分も相手も誤魔化せないのではないかなと僕は感じている。温かく濃厚で穏やかな時間を過ごせるので、熊本の夜の締めに是非。

[tetra]でのテラさん。所作が美しい。困ったことにハートランドをここではドラフトで飲める。これがめちゃくちゃ美味い。僕は途中でカンパリビールを頼みがち。ワインについては間違いないので言及はしません笑。
真面目な感じで前置きが長くなりましたが、今回はそんなテラさんとひょんな事から(というよりもテラさんとじゃないと!って思い)、熊本の[相撲寿司]に行った時の話について書こうと思う。今連載のどのタイミングでピックするか悩んだほど大好きな酒場[相撲寿司]。熊本市民の酒場好きならほぼ皆一度は足を運んだであろう、言わずもがな的立ち位置。ジャンルは違えど東京は目黒[とんき]に匹敵するような劇場感を味わえるコの字カウンターのみの街寿司。仕事が早く終わる日に”相撲” に足を運ぶことが多いというテラさんを口説き(熊本民は”相撲”と呼ぶ)、この日は少し遅めの夜22:00頃に着席。店に行く前に近くの王将で餃子をテイクアウトしてスタッフの皆んなに差し入れを渡していたテラさん。なるほど、餃子は仕事終わりのビールの当てにもなるし、次の日のランチとしても活躍するのか。(焼きではなく生餃子だった。)
まず[相撲寿司]は雰囲気で酔える。どの席に着くのかで握ってくれる大将も変わり、見える景色も随分と変わる。家族での贅沢タイムがそこにあれば、女子会があちらでは開催されている。しっぽり1人で来る人もいれば、スーツ姿で会社の先輩後輩が談笑しているのも目にする。訪れる皆んながざっくばらんに気取らない姿で食事をしているのは見ていて気持ちがいい。活気がある。

大将の上村さん。角の特等席。閉店間際の奥に誰もいないタイミングで写真をこっそり撮りましたが普段は向こう側に沢山のお客さんが。
県外から来る友人との夜、チャンスがあれば[相撲寿司]と決まっているので、普段から頼みがちなマイルーティン的なるものがあるが、この日は百戦錬磨のテラさんに流れを委ねる。キリンラガーの中瓶と馬ヒモ焼き、刺身に蟹味噌を頼んで僕らの晩酌はスタート。いや完璧すぎでしょ。このスターターセット!(歓喜&拍手)

馬ひも!実は初めて。牛肉でいう中落ちカルビと同じでアバラの間の部位。特有の歯応えと炭焼きのおかげなのか旨味もしっかり。盲点でした。
元々大学院を出て、大阪でサラリーマンとしてエリート街道をすすんでいたテラさんがどんな流れでワインバーを開業したのか。そんな話を聞きながら飲み進めていたら、アテはあっという間になくなり日本酒と握りへ移行。

しっとりしてて格別に甘いフロム天草よりアオリイカ。刃を丁寧に細かく入れているからなのか口当たりが良い。いつから握りのイカをこんなに好きになったのだろう。必ず頼むようになったあの日から僕は大人になったような気がした。いつだっけ。

愛すべき「トロタク」!トロの脂や甘さをタクさん(沢庵)の歯応えと塩気が受け止めて、一段階上へと昇華してくれる神がかったコンボ。端を落とさずトロが出てしまってる部分の愛おしさよ。
握りの品書きに加えて、店内に2つあるホワイトボードも見落としてはいけない。その日入荷している魚の他に、本日の小鉢が書かれている。僕らが最初に頼んだ蟹味噌や、真鯛の白子と酒が進むアテも揃っていて、このあたりを日本酒と飲み進めると大体次の日の二日酔いが約束される。あまり僕自身日本酒に強くないのもある。

何故この写真しかないのか分からないがテラさんと上村さんのツーショット。多分僕は酔っ払っていたのだろう。
2〜3回目あたりで訪れた去年の夏頃の[相撲寿司]。僕は同業の先輩達とカウンターの奥で呑んでいた。宮城は仙台でコーヒーショップをオープンする予定の先輩が熊本に遊びに来てくれて、職場の代表と僕とで3人、この日もなんだか遅くまで熱い話をしていた。(後の[aioi coffee]オーナー宮澤さん!仙台に早くいかねば。)
空いた向こう側のカウンターの席に現れたのはテラさん。当時の僕は熊本に来てまだ数ヶ月。テラさんは、僕のことを近くのコーヒーショップで働く新しいヤツ、程度の認識だったと思う。一通り食事を終えて話をしていた僕らのカウンターに、頼んだ記憶のないかんぴょう巻が現れる。「まあこれでもつまみなっせ」とカウンターの逆サイドからテラさんが僕らにスルーパスを送ってくれた。ガヤガヤしている空間の中、少し真面目な話をしていた僕らが辛気臭く映っていたのだと思う。胡麻がかかったそのかんぴょう巻きは箸休めのようでいて、味わい深く、会話も耳半分にパクパク食べてしまった。とても美味しかった。それ以来僕は[相撲寿司]に来たら、締めにかんぴょう巻きを頼むようになった。

想い入れのあるかんぴょう巻き。華を感じないこのビジュアルを飛び越えていく圧倒的な滋味深さ。
のちに職場の歳下の同僚が彼女を連れて初めて”相撲”に来た日、カウンターの逆サイドでたまたま1人呑んでいた僕は、大将の上村さんに「奥の彼らにかんぴょう巻を。」とクールを装いテラさんを真似てみた。このかんぴょう巻きであの時の僕と同じ高揚感を味わってくれたら嬉しい、と純粋にそう思ったからだ。だが頼んだすぐそばで彼らはお会計をお願いしてしまい、すぐにでも外に出ようとしている。目の前の大将と「このかんぴょう巻どうする?」といった具合で目を合わせた。タイミングを大いに逃した。テラさんだったらもっとスマートにかんぴょう巻きを届けていただろう。
熊本での生活も実は後半戦に突入していて残すところあと数ヶ月。嬉しいことに関東からの友人が今月来月と立て続けに熊本に遊びに来てくれる予定で、今の時点で僕は”相撲”に4回は行く事が決まっている。また熊本に来たいと思ってもらえるよう(本当に勝手ながら)親善大使的な気持ちで皆と楽しい夜を過ごしたい。
tetra
熊本県熊本市中央区上通町11-6 エイブル並木ビル 3F相撲寿司
熊本県熊本市中央区新市街1−9
1996年、東京生まれ。都内のコーヒースタンド, カフェで勤務したのち現在は熊本に移住。モリッシー、モリモリ、インティライミと呼び名は様々。スケートボードが大好き。
IG @naoto_moroshima_
Naoto Morishima
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