連載「軽井沢の静かな食熱」#4
ますこさんとともさん[SAMMNICON]
御代田の深い緑のなかに、インテリアギャラリー[SAMMNICON]はある。 店主の宇南山加子さん(通称:ますこさん)と、パートナーの松岡智之さん(通称:ともさん)。
はじめて訪れたのは、移住してすぐ。そのあと母とふらっと挨拶に伺ったような気がする。
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気になる食器を端から見ていると、ますこさんから先に声をかけてくれて、静謐な店内の空気が緩んだ。
話しているうちに、ますこさんが[SyuRo]のオーナーでもあることを知った。
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蔵前に住んでいたころ、近くにあってよく行っていたし、いつかの誕生日に、そこでプレーンな黒の大皿を買ってもらった思い出の場所。
秘密の森で、すごいものを見つけてしまった喜びに踊りながら、その日は帰ったような記憶がある。
小学生の二分の一成人式だったか、小さいころ夢を聞かれたら、決まって「思慮深いおとなになる」と答えていたわたしにとって、ますこさんはきっとそんなふうに歳を重ねていくひと。
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取材と兼ねて遊びに行ったこの日は、おうちで料理をつくってくれる(一緒につくる)ことになった。日が落ちてきたころに、籠をもって庭に出ると、食べられるもので溢れていることに気づく。山椒、蓬、葉わさび、タラの芽、蕨。
ちなみに、東京とは季節がおおよそ1ヶ月くらいずれるので、旬の時期を2倍楽しめるというのが、私にとって2拠点生活最大のおいしいこと。
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家を巡る水で育つ池のクレソン。そこを愛犬の麦ちゃんが走り回り、しなっとなってしまうけど愛くるしい景色。
ますこさんは、ふたつのお店を営むほか、食器をセレクトしたり、自分でデザインしたり、或いはレストランやホテルのカトラリーなど、テーブルセットを監修したりという仕事もしている。
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今回の食卓でも、たくさんの食器に盛りつけた。キッチンの両サイドに大容量の収納があって、そこにぎっしり詰められたお皿たち。夢のような空間すぎる。お店で扱っているものも多い。
食器の美しさとは、使い込むほどに日常に馴染み、持ち主の生活を支えるためにあるものだ、とますこさんは言う。
それゆえに、集まったものは白磁器や籠だったり、柄は少なくスッキリとしている。
自然な色合いのなかでも、足が長いものや口が薄いもの、見るこちらが姿勢をスッとまっすぐにされるような、凛とした出立ち。ますこさんっぽくもある。
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ますこさんが食卓に関わる仕事を始めたのは、いろんな偶然が重なっている。社会人最初の仕事をやめたあと、あるお店の花の装飾の場面に出会った。
決して過度ではないそのひと挿しで、空間の輪郭を生む、その先生の腕にひとめぼれ。お金がないなか弟子入りして仕事を掛け持ちして、知り合いの家に居候という生活が始まった。
修行で余った花材を、家の隅々に生けて愛でていたら、うちのショップでもそんなことをするのはどう?と、アパレルオーナーである家主の、お店の空間設計を任されることに。
あるとき、お店のノベルティとして伊万里焼の食器のデザインを担当。食器をつくるおもしろさを知った。
そうして事務所構えて独立したのが24歳なのだから、流れを掴み形にするスピードが、ほんとうにすごい。

釜で炊いた白米にプリプリのそら豆、そこに山椒の芽を最後にたっぷりと。茶碗に盛るまえに、蓋をあける瞬間を味わおってテーブルまで持ってきてくれた。
思いを形にしていくますこさんの手は、きっとまじないがかかってるんだと思う。料理だって抜群にうまい。それを皆知っていて、都内にいたころは頼まれて100人分くらいのケータリングもやっていたとか。
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今日つくるのはね、と言いながら棚の間から取り出したのは、振る舞ったメニューを書き留めているノート。2015年ごろに[SyuRo]でやっていた不定期バル「UNABAL」の記録も。
キッチンから流れるように、できあがったものを食卓に並べる。私が座った椅子は、ともさんがちょうどいまデザインしている、サンプルの椅子だった。
ともさんは家具デザイナー。このおうちはふたりの結晶のような場所だ。キッチンも自分たちでデザインしてつくったそう。
「朝日の入るベッドルームやお風呂」に「夕方の光が入る店舗」。太陽の軌道を追いかけて、玄関からほとんど段差がないシームレスな空間。
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時計の針ではなく、光の角度で一日のリズムを決める。だから[SAMMNICON]も、冬期の営業時間は「日没まで」。
営業しているとき、友人を連れて行くたびにふたりは必ずお店を一周して、この場所の成り立ちから案内してくれる。
話が深くなると、お店に並んでいるコップとおなじものに、自家製のサングリアを入れてくれるんだけど、これがまたおいしい。
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この前はりんごとオレンジを漬け込んだもので、季節のたびにこころのなかで楽しみにしてたりする。シュワっとしてて冷たくて。初めて飲ませてもらったときに、目が開いた。
冷静に考えてみると、たまたま、まちで出会っただけの縁で、こんなに良くしてくれて、ほんとうに幸せなことだと思う。この日の夜はわたしのこれからの話も気持ちよくきいてもらって、とてもうれしくて、長かった。
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空間から道具、そして光の入り方までを自分たちの手で編集してきたふたりが、次に描いてるのが、ホテルをつくること。遠くない未来に、新しい食の風景が生まれそう。
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取材したこの日は、私が、自分のルーツを探して韓国旅へいく直前だった。「少し先になるけど、李朝の陶器をつくる作家さんの展示を[SAMMNICON]でする予定だから、何かできるといいわね」と。
キッチンにある様々なレシピ本から、新しいお店の情報も仕入れた。ますこさんが選ぶ陶器と韓国茶の光景はすごく似合う。
私が次に描いているのは、宮中料理や地方の豊かな食材を発酵させた、赤よりも白が印象的な韓国料理を知ること。
それで、食卓の景色を形にするために、以前から気になっていた韓国の料理家や編集者のもとにDMを送ってみたら、ふたつ返事でお会いできることに。私も、私なりの「食の風景」をつくりつづけるのだ。
SAMMNICON
営業日は不定期、IGにて確認できます
※営業時間は日没まで
IG @samnicon_miyota

- [ii eat]主宰
安重 百華 / Momoka Yasushige
2000年、山口県生まれ、東京在住。軽井沢との2拠点生活中。ライフスタイルメーカーで広報を務める。フードツアーの企画運営や、土地の食材を生かしたケータリングを行うユニット[ii eat]主宰。フリーペーパー「口果報」では[ii eatな風景]を連載中。ゲストを迎え「いい(良い・善い・好い)食ってなんだろう?」を考える。
IG @ichinohika