連載「食べるためのタイ案内」 #2

朝から麺、夜は鍋。スクンビット編


Sakurako NozakiSakurako Nozaki  / Jan 4, 2026
バンコクを拠点に、タイを「食べるため」に歩き続けてきた筆者が、観光ガイドではなく、腹と感覚を頼りにしたバンコクのフード案内。

眩しい光が輝く。猛もうしい夏の感じ。燦々と降る陽の光、湿度と埃が混じった風の肌触りに、活力が覗く。街全体に血が通っているような、はつらつとした空気が常にあるのがバンコクだ。そんな気候の国では、室内に篭らずに、喧騒とともに外で空気を丸ごと食べて、エナジーを吸収していただきたい。

この国にはドアや窓を設けず、外と内がほとんど区切られていない店が数多くある。通りからそのまま席に入り、食事をする。時に椅子だけで、テーブルがない店もある。外と内を分け隔てない空間で、食べること自体が風景の一部と化す。おもしろいのは、「エアコン付き or なし」で、はっきりと価値として分かれていることだ。

店によっては価格帯が変わり、バスに至っては「エアコン付き」は「エアコンなし」の倍以上することもある。つまり、快適さは追加料金なのだ。

冬が来る日本では、テラス席はあるも、そもそも「扉がない」という店に出会うこと自体が稀有だ。個人的に惹かれる店は、決まってこうした街と地続きのような店が多い。開けっ広げの店構えは、南国ならではの特権だ。

それ故、大門駅交差点、角地にある酒場[秋田屋]と出会ったときは、タイの光景が重なった。背後には東京タワーの姿がくっきりとあるにも関わらず、麓では人々が飲み食いし、ビールケースを机代わりに酒をあおっている。店内でも扉はない。景色はこれ以上なく東京なのに、どこかタイの屋台的でそのズレが妙に楽しい。

外と内の境界が曖昧な、シームレスなつくりの店は、私にとってタイの原風景でもある。本連載の最初の一歩として選びたいのは、あまり構えずに入れる店とエリアだ。

初手では、スクンビットエリアなんてどうだろう。商業施設が集まり、高級ショッピングセンターや高層マンションが並ぶ。日本の駐在員も多く、屋台には日本語表記のメニューが並ぶことも珍しくない。

肩肘張らず、まずは雰囲気ごと味わえるレストランを、ここから挙げていこうと思う。できるだけ一日の流れが見えるように、朝から夜まで時間帯で回れるように店を巡っていく。まずは、朝から麺をハシゴでスタート。

8:00〜[ルンルアン

日本語メニューもあるのでビギナーにも安心。

大箱の麺料理屋。同じ一帯に3店舗集結しているにも関わらず、どこも昼時は行列をなし、観光客も地元の人も肩を寄せ合い相席をする。わたしは両隣カップルに挟まれて、ひとりきまづい食事をしたこともある。タイの友人曰く、写真のスクンビット・ソイ26通りの角地にある店が一番おいしいのだそう。(本当かはさておき、喧嘩別れした家族が通りを挟んだ店をやっているという噂もあるが、それにしては目と鼻の先すぎる距離。信じるか信じないかは…関暁夫だけがきっと知る)

麺のサイズはS・ M・ Lと選べて、全体的に小ぶり。気になる味があれば、Sサイズを2種類頼むのも余裕だ。

まず、そもそもバミーヘーンという麺料理が好きだ。日本でいう汁なし麺。日本の麺はもちもち太麺が多いが、こちらは中華麺のちぢれ麺。細麺なのに、きゅるきゅるとしていて、歯が喜ぶぶちっとした歯切れが良い麺。にんにくの香味をまとった油、ナンプラー、砂糖、ライム。これらが手を組んでストライクゾーンに豪速球を投げ入れる瞬間がある。その時、脳が揺れて最高にキマる。(ただし日によって、味のバラつきが。タイではブレが通常運転なので悪しからず。)加えて、ここの豚ミンチがジューシーでとてもおいしい。私はいつも「バミーヘーンムーサップ サイズM」を。時に、気分でトムヤム味に。70バーツほど。

10:00〜[セーウ]スクンビット49

タイ人に聞くと、かなりの確率で名前が挙がる、有名な麺料理(クアイティアオ)の店。[ルンルアン]がプロンポン駅寄りにあるのに対し、こちらはプロンポンとトンローの間に位置する。

メニュー構成も[ルンルアン]とよく似ていて、汁あり・汁なしを選び、さらに麺の種類を指定するスタイルだ。汁あり麺が人気。11時を過ぎる頃には、店先はタイ人でにぎわい始め、早くも待ちが発生する。日本でいうUberのようなデリバリーサービスのバイタクのおじちゃんたちも店前に待機している。(この“デリバリー常駐”は、おいしい店である可能性が高い)実はさらにトンロー駅近くの[セーウ スクンビット55]という店もあるが、現地の人はこちらの方が好きという人が圧倒的に多い印象。

*アーリーにある[MADBACON]というイケてるストリート系の雑貨店がある。そこのオーナーもこのわんぱくハシゴをやると言っていた。不意のお墨付き!

12:00〜[タンメン

お腹に余裕があれば、[セーウ]のすぐ近くに、カオマンガイが食べられる老舗もある。大通り沿いにあるにも関わらず、[セーウ]ほど人で賑わっている光景は見たことがないが、ぽつんと控えめな佇まいが気になり、ある日ふらりと入った。味は“絶対的な特別感”というような派手さはなく、いい意味で日常的。語りかけてくるものはどちらかというと年季の入った静かな空間。時を刻んだ食堂に身をおけば、人生のペースが一段落ちて、束の間喧騒が遠のいていく。「近所の喫茶店でコーヒーでも」という心シルバーな感覚で、立ち寄るくらいがちょうど良さそう。値段も100バーツあればお釣りがくるローカルらしい良心価格。

14:00〜[ヒアハイ

こちらはエアコン完備のレストランタイプ。

ビブグルマンを連続で獲得し、窓には各年のミシュランシールがずらりと貼られた人気店。ただし、その勲章、額面通りに受け取ること勿れ。ミシュランが貼ってあろうが、バンコクでは迂闊に喜ぶことができない。今から少し失礼なことを言うが、正直微妙な店もある。(苦……)しかし、ここの名物である蟹チャーハンは別格だ。鍋肌で手早くジャジャっと炒められた香ばしさの後にやってくる蟹の旨み。海の幸に火が入った瞬間、旨みの輪郭が一気に強度のあるものへと変わる。尚且つ米がパラパラとエアリーで、鼻に抜ける香り夢中になっていると、あっという間に胃袋に収まっている。体感30秒。蟹の身がごろごろとのった卵焼きももちろんおいしい。ピークタイムは並んでいるようなので旅の時間管理には要注意。私は閉店前の17時過ぎを狙ったところ、並びゼロで入ることができた。

*[ヒアハイ]から5分ほど歩くと[Mikkeller Bangkok]もある。おしゃれなカフェ[PRIDI]もある。

16:00〜[ヘンヘンカオマンガイ

夕方になるとプロンポン駅そばに現れるカオマンガイ屋。筆者が留学していた10年前から続く店で、当時は友人とよく通った。以前は屋台だけの営業だったが、着々と客を増やし、気づけばレストランスペースも拡充されていた。シンプルなカオマンガイ屋。鶏の出汁を吸った茶めし色のジャスミンライスがおいしい。都会の空の下で食べられるのも魅力で、個人的には断然、屋台スペースをすすめたい。「カオマンガイトート(揚げ)」もあるが、私はいつも「カオマンガイ」。カオマンガイは、鶏肉ももちろん重要だが、「ナームチム」と呼ばれるタレが味の要。食べ比べするときはこのタレに注目すると、個性がみえやすくて面白い。

18:00〜[チャンノーイソムタム

タイでシェフをやっている友人がおすすめしてくれたアソーク駅近くのローカル店。もう10年以上通っているとか。ここはタイ東北・イサーン料理の専門店。ソムタムやラープはもちろんおいしいけど、ここではぜひとも「チムチュム」と呼ばれるイサーン地方の鍋を食べていただきたい。レモングラス、バイマックルーの爽やかな香りに、にんにくと出汁があわさったスープに野菜や肉を入れて、特製のタレと一緒にいただく。スープだけでも最高のビールの肴に。アヒルのくちばしを唐揚げにした「パークペットトート」も嗜好のつまみ。

20:00〜[ラープラップラッププリディ43

生レバーと一緒にコーンのソムタム、ラープペットを。個人的にコーンはもう少し小さくカットされていたほうが汁と馴染んで好きだった。

スクンビットといっても、少し奥まった場所にある本店。巨大な野外食堂のような佇まいで、大きなテントの下に複数の店が密集している。エアコンはなく、回るのはファンだけ。風と熱気がそのまま混ざり合う空間だ。店はその一角の奥にある。タイ駐在歴7年ほどの後輩と食事に行くことになり、「綺麗すぎない、ローカルな人が集まるイサーン料理屋に行きたい」という、面倒な注文を投げたところ、連れて行ってもらったのがここだった。しかも後になって、かつてタイの友人からも教えてもらっていたことが判明。信頼している情報筋が重なると、それだけで期待値が上がる。とはいえ、最近はあちこちで紹介されているのを目にするので、正直なところ「もっと面白い場所を見つけたい」という闘志に燃えるのも事実。ただ、「チムチュム」をはじめ料理の完成度は高く、タイの空気を味わうには申し分ない。いろんなところで紹介されるのも納得だ。シェフは日本料理の経験者らしく、生レバーが食べられるのも特徴のひとつ。胃腸が弱い筆者でもお腹を壊すことはなく、生臭さもない。ちゃんと、おいしくいただいた。

朝4:00まで[ノンカーイチムチュム

写真がなくて申し訳ないので、google mapのリンクに飛んで参考にしてほしい。個人的には遅くまでやっていて終着地という場所。すぐ脇には大通りがあり、車がビュンビュンと走り抜ける。その喧騒を背中に受けながら、ここでもチムチュムが食べられる。また、タイ人がとにかく大好きな「ムーガタ」という鍋も食べられる。焼肉と鍋という、本来ならそれぞれ主役を張る二大ジャンルを、ひとつの鍋で同時にやってしまう料理だ。発想としては、ゴジラvsキングコング。ローカルな人ばかりが集まり、深夜まで鍋をつつく。

過去に、腹痛になり、こちらのトイレをお借りしたが、心許ない鍵と造りで、たしか紙はなかったはず…。できればトイレは避けたい、という記憶のイメージが。(タイでは、ティッシュペーパーも持ち歩き必須の一つ)

スクンビット周辺だけでも、紹介したい店はまだ尽きない。次回も引き続き、このエリアを起点に「食べるためのタイ案内」を続けていく。

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