映画『世界が愛した料理人』9/22公開

エネコ・アチャ来日インタビュー


RiCE.pressRiCE.press  / Sep 20, 2018

トップレベルのシェフとの交歓

ファーストフード業界の暗黒面からガストロノミーの最先端までフードジャンルの映画は百花繚乱。いつからこれほどフード映画が多くなったのかは定かではないが、2007年にベルリン映画祭が世界に先駆けCulinary Cinema部門を設けた。そのベルリン映画祭で昨年公式上映されたのが、この『世界が愛した料理人』だ。ジョエル・ロブション、サンパウ、すきやばし次郎など名だたるシェフと名店の主人が登場するが、キーとなるのがそれら名店のシェフと交流するスペインのスーパーシェフ、エネコ・アチャだ。

▲ スペイン北部のバスク州、ビルバオ郊外にあるアスルメンディ

エネコ・アチャはスペイン国内最年少でミシュラン三つ星を獲得したスーパースターで、料理とともに環境保全への意識の高さでも知られる。彼のレストラン、アスルメンディも2014年に「世界のベストレストラン50」で最もサステイナブルなレストランに選ばれた。農園があり、最新の技術を駆使して環境に配慮して建設された建物というだけでなく、運営方法も独特で、従業員が家族と過ごせるよう金曜と土曜以外には夜の営業をしない。

そのエネコ・アチャがプロデュースしたレストラン、エネコ東京で『世界が愛した料理人』のプロモーションイベントが開催された。エネコ本人が来日、環境と料理への思いを語った。

▲ 『世界が愛した料理人』に出演した、若き天才エネコ・アチャ氏

美しいバスクの自然を体現するメニュー

—————アスルメンディはサステイナビリティでも知られていますね。

エネコ・アチャ (以下HA)  もともとバスク人は自然とともに生きていて環境を大事にするんだ。バスク地方には海も山もあって素材が豊富だから、バスク料理は味が強い。バスクの環境すべてをあらわす料理なんだ。だから与えられた自然に感謝して次代に遺す。土地は人間が支配しているものではないんだよ。次代に自然を遺していかなくてはならないんだ。

▲ ピクニック。ピクニックバスケットで供される3種のアペタイザー。
【写真上 : うなぎブリオッシュ】 アンチョビとうなぎのコンフィのタルタルがひと口大のブリオッシュにサンド 【写真左下 : カイピリーチャ】 バスクワインのチャコリをココアバターでボンボン状に。上の花は紫蘇 【写真右下 : レモングラ】 牛乳と生クリームでムース仕立てにしたフォアグラにレモングラスのソース

—————映画の中でお母様、おばあ様の料理の影響についても話されていました。

HA どこの国の料理も素晴らしいけれど、自分の中から出てくるのはやっぱり祖母や母から教わった料理なんだ。思い出に残るのは、豆の料理、コロッケ、内臓料理、アロスコンレチェなどだね。土曜日は豆のコロッケの日で、ベシャメルソースから作ったものだ。

▲ ピクニックに合わせるのはチャコリと呼ばれるバスク地方のワイン、ゴルカ・イサギーレ

世代や国境を越え感じるインスピレーション

—————映画に登場しているジョエル・ロブションさんは先ごろ亡くなられました。ロブションさんから学んだことを教えていただけますか。

HA レシピの素晴らしさだけではなく優しい人だった。知識も惜しげもなく共有させてくれた。世界に店を広げて世界の人が彼の料理を体験できるようにもしたんだ。ああいう人はもういない。

—————ほかに影響を受けた料理人はいますか。

HA 有名な料理人だけじゃなく新聞にも出ていないような無名な人からも影響を受けているし、プロの料理人じゃない人々…家族のために料理する友人からも影響を受けたよ。一緒に仕事している人からも影響を受けている。エネコ東京のスーシェフなど下の世代に兄のように慕われている。知識を伝える姿を見て感動しているんだ。

▲ トリュフ卵。卵黄の中身を少し抜き、そこにトリュフソースを注入した料理。卵は茨城県の“森のたまご”。ワインはやはりチャコリ、ゴルカイサギーレG22と合わせて
▲ トリュフ卵を調理する様子

—————エネコ東京の特徴とアスルメンディとの違いを教えてください。

HA バスクの魂をどうやって表すか意識して取り組んだ。日本の食彩と四季も表したかったし……。テーブルというのはモノじゃなくてシンボルなんだ。つまりお祝いっていうのは食卓についてみんなで食べるものだから。だからバスクのテーブルを東京に持ってきてお祝いしたかった。今後はバスクで提供しているジビエやキノコなどの料理も出す。バスクと東京都の距離を縮められるような料理を出したい。しかし日本ではもっとシンプルに見える料理…素材の元々の味や質が十分に生かされている料理を目指していきたい。料理の背景には調理法の技などが隠れていると思うのだけれど、技は素材の味や質感を引き立てるための手段にすぎないよね。

▲ はにかんだ顔も素敵なナイスガイ、エネコ・アチャ氏

『世界が愛した料理人』
ジョエル・ロブションやカルメ・ルスカイェーダなど世界に名だたるシェフのドキュメンタリー。優れた料理家は優れた哲学家でもある。料理やライフスタイルにどうしてもにじみ出てくるものがあるのだ。なかでもスペインが誇るエネコ・アチャの東京への旅は印象的だ。すきやばし次郎、龍吟、会員制の壬生のほか築地市場にも出向く。次郎の父子それぞれの発言など、もう名言しかない。料理家に憧れる人やグルメだけでなく、自分のために料理するおひとりさまにも見てもらいたい作品。
監督: アンヘル・バラ、ホセ・アントニオ・ブランコ
出演: エネコ・アチャ (アスルメンディ) 、カルメ・ルスカイェーダ (サンパウ) 、小野二郎、小野禎一 (すきやばし次郎) ほか
配給: アンプラグド
2016 / スペイン / 75分

9月22日 (土) よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
© Copyright Festimania Pictures Nasa Producciones, All Rights Reserved.
CREDIT
Text by Kyoko Endo

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