
朝食の時代
渋谷・桜丘町[Cherry Pick Hills]で朝を豊かにする和定食を
RiCE.press編集部が、楽しい朝の時間を特集するシリーズ「朝食の時代」。
朝から贅沢な和定食が味わえる店があると聞きつけ、向かったのは渋谷駅。日中の賑やかさとは無縁の朝8時、駅前の店はまだまだシャッターが閉まっている。玉川通り沿いを抜け桜丘方面へと歩いて8分ほど、坂道を下った角に見えてくる、ピンク色のロゴがトレードマークのこの店が今回の目的地[Cherry Pick Hills]だ。店内から聞こえてくる音楽やスタッフたちの笑い声に入店前からわくわくしてきた。
Breakfast 5|体と心が整う、栄養満点の和定食
さくらんぼのヘタをモチーフにしたロゴが店の目印
[Cherry Pick Hills]がある桜丘町には、渋谷駅前のガヤガヤ感はまるでなく、街全体が穏やかで平和な時間が流れている。そんな街の一角に今年4月にオープンしたこの店は、朝8時から23時までのオールデイ営業のカフェダイニング。お昼時にはランチを楽しむ女性たち、夕方にはオレンジジュースを飲みながらゲームをする小学生、夜はお酒や料理を楽しむサラリーマンの姿があり、世代や利用シーン問わず楽しめる場所として、オープン早々街の風景に馴染んでいる。
「桜丘の街に根差した店として、10年後20年後も続くような店を目指しています。今ここに家族でご飯を食べに来てくれる小学生の子が、高校生になって放課後デートで来てくれたり、大人になってお酒を覚えたり。そんな店でありたいです」
こう話してくれたのは、オーナーの砂田健太さん・康太さん兄弟。実はこの店、渋谷に集う感度が高い若者や焼酎好きを中心に連日賑わう大衆酒場[大人気]、立ち飲み酒場[嚔]に次ぐ3店舗目。人気店を経営する彼らのバックボーンには、尊敬する父の姿がある。
「父はずっと飲食店で料理人をやっていたんですけど、僕たちが大学を卒業して、これからやりたいことを好きにやれるって時に亡くなって。自分の店を持つことが叶わずに亡くなってしまったので、僕たちがその思いを背負ってやりたいと思って、ふたりで飲食店を始めました」
奇しくも叶わなかった父の夢を背負い始めた飲食店も、今や渋谷のフードカルチャーの一翼を担う存在。深夜営業の酒場スタイルを確立したなかで、新たに始めたこの店は、今までと真逆で朝から営業する。そして“カフェダイニング”という新業態に挑んでいる。
兄・健太さん(左)と弟・康太さん(右)。「これまでは店に立つ側の視点で店づくりをしてきましたが、今回はお客さんの目線で空間づくりをしました。ファミレスのように気軽にフラット、家族でも来てもらえたら」と語るのは空間づくりを担った健太さん
今回いただいたモーニングも新たな挑戦のひとつ。メニューは「THE NIPPON BREAKFAST」のみで、近隣に住む人をはじめ渋谷に訪れる海外の人向けにも考案した自信作だそう。そのメニュー名通り、まさに日本を味わえる朝食と言える。
朝8時〜10時半限定の「THE NIPPON BREAKFAST」¥1,980
お皿に盛られた小鉢の数々が朝のテンションを高めてくれる。自宅でこの品数を揃えようとするとかなりの時間と労力が必要だし、ホテルのバイキングは結構値段も張るし、朝からお腹いっぱいになりたいわけじゃない……。品数豊富な和朝食を求めると、何かと条件や場所が限られてきてなかなか良いお店に出会うのが難しい中、栄養満点で体と心を癒す和朝食を[Cherry Pick Hills]では堪能することができる。
大きな丸いお皿の上に、多彩なご飯のお供たちがバランス良く乗っている。焼き鮭、菜の花のお浸し、納豆、牛蒡と白菜の漬け物、卵焼き、ほうれん草の胡麻和え、里芋のそぼろ餡掛け、明太子。ほかほかのご飯がいくらでも進むラインナップだ。和食屋のおばんざいをイメージしてつくられた小鉢は、どれもが優しくほっとする味わい。朝の空っぽな胃袋に沁み入り、お腹と心を満たしてくれる。いちごの白和えは〆のデザート感覚で食べてほしいという思いから作られた甘く上品な一品。タンパク質やらビタミンやら、1日の活力になる栄養を贅沢に美味しく摂取するのを叶えてくれる、最高な朝食だ。
「朝食を出すと聞いた時、まさか和食だとは思いませんでした。てっきりサンドイッチとか洋食かなと思っていましたね」と振り返るのはメニュー考案を担当した小畑功輝さん。和食が意外だったと話す反面、自身の得意ジャンルだという。
小畑功輝さん。普段は陽気で優しい印象の小畑さんだが、メニュー開発の話を伺うと、真剣な表情で完成までの道筋とこだわりを教えてくれた。その表情から、朝食に込めた思いが伝わってくる
「メニュー開発にはそこまで時間はかからなかったのですが、ほっとするような味にするために、何度も試作を重ねました」
[大人気]や[嚔]ではお酒が進む塩っぱく濃い味付けが求められていたが、今回は正反対とも言える味わいを目指した。この優しい味わいの和定食には、砂田兄弟が掲げた朝食のテーマ“原点回帰”が根底にある。
「朝食を食べて豊かな気持ちになる。そういう思い出が誰にでもあると思うんです。以前、地元・倉敷の[松家製麺]で食べた朝うどんがすごく美味しくて。その時のような朝から豊かになる感覚をお店でも提供したい、そんな中でどんな朝食を提供しようかって考えた時、日本人らしく原点に戻って和食にしようと決めました。品数も多いから仕込みや管理が難しいけど、これぞ!というメニューができたと思っています」
このように語る彼らには、今でも記憶に残る朝の豊かな味と時間があった。良い1日の始まりには美味しい朝食を、という思いから生まれた「THE NIPPON BREAKFAST」は、まさに彼らの思い出と同じ、心と体を豊かにする時間が味わえるのだ。
味はもちろんのこと、明るくて楽しそうに働くスタッフがつくる店の雰囲気も訪れたくなる理由のひとつ。明るさは伝染するもの、だから朝から自然と元気がもらえる場所でもある。新店舗をオープンしたわけを、「スタッフのライフスタイルを見直す機会があったから」と弟の康太さんはいう。街に根付いた店づくりの以前に、仲間であるスタッフのことを思い創り上げた店でもあるようだ。
その思いは「桜丘町」と「最良の選択」という2つの意味が込められた店名からも伺える。店に訪れた人が良い時間を過ごせる店として、そして働くスタッフにとっての最良の店を目指すべく、砂田兄弟の3店舗目は始まったばかり。
“10年後も20年後も続く、街に根差した店でありたい”という彼らの言葉の裏には、店を訪れるお客さんが思い出を紡いでいける場所をつくりたい。そんな強い決意が込められていた。それはカフェダイニングという、あらゆる世代に訪れてもらえる業態だからこそ叶えられるイメージだろう。街の人々の何気ない時間にもすっと寄り添い、たとえ街の風景が変わっても店も変化し育っていく。そんなふうにして通い継がれる店にすべく、砂田兄弟はスタッフとともに歩んでいくのだろう。
お腹も気持ちもほっこりする朝の豊かな時間を求め、桜丘町に訪れてみてはいかがだろうか。きっと通いたくなる味が待っているはずだ。
Cherry Pick Hills
東京都渋谷区桜丘町30-8 Shibuyahills 1F(Google Maps)
8:00〜23:00
IG @cherrypick_hills
Photo by Shohei Hayashi(写真 林将平)IG @shohei_hayashi
Text by Megumi Bunya(文 文屋めぐみ)
Edit by Shunpei Narita (編集 成田峻平)
- TAGS