
甘いお出汁と温かい人柄に癒されて
京都取材の昼食は、創業107年の優しき蕎麦。
4月4日発売のRiCE No.40「京都の中味」では、京都現地取材を行なった。自身は四条大宮エリアを中心に、京都通たちの声を頼りに店々を巡ったのだった。
この特集以前にも、京都へは何度も行ったことがある。修学旅行が最初だったか、家族でタクシーを一日予約して観光したのが先だったか。高校生の頃、同級生が出場した甲子園観戦の帰り、汗だくで京都に移動し、銭湯に入り、幕末志士ゆかりの寺社を巡ったのもいい思い出だ。
大人になってからは久しく京都には行けていなかった。
だが今の仕事を始めて、京都を取材で訪れる機会を得ることができた。日本茶メディアの担当をさせてもらっていることもあり、京都方面の取材がちょくちょくあったのだ。高校生の頃にはできなかったような、京都の歩き方を少しずつ覚えようとしていた。そのメディアでもご一緒させていただいたことがある映像制作会社・NEWTOWNの片岡さんには、一昨年京都を訪れた際に、メディア非公開の日本酒店や祇園のスナックなど、ディープな京都を案内していただき、ますます病みつきになっていた。(NEWTOWNが入居する「共創自治区CONCON」は、本特集の重要地点となった)
かくして、京都特集号では「大宮に染まりたい」というページを任せてもらった。四条大宮は阪急と嵐山線の駅が向かい合ってありバスも多く停まるターミナル的な場所。四条烏丸から歩いて20分足らずという距離感だが、人波は落ち着き、また別のテンポ感がある。
「大宮の[ふる里]はいいお店」と最初に教えてくれたのも片岡さんで、一昨年の滞在最後の晩餐を[ふる里]でとらせてもらった。その少し前にも、大宮にある横丁(寛遊園)の一番手前にある[おでん盛司]にふらっとお邪魔したことがあったり、また別の時には小料理屋の[イノウエ]に行ったりと、何かと気になるエリアだったのは間違いない。今回改めて大宮の夜に潜り込ませていただき、結果、素晴らしい出会いの連続となったのだった。
ふる里
壺味
酒房 京子
okute
RUTUBO第二燻製工場
かふー
wuu/四月物語
この記事では思い出写真のみ、とさせていただき、気になった方はぜひ京都特集号を覗いてみていただけたら幸い。読みどころは盛りだくさんなので損はさせないはず。
代わりに、雑誌には掲載されていないお店をここで一軒ご紹介させていただこうと思う。
四条から少し下って高辻通にある、1917年創業の[高辻 藪そば]だ。滞在先のホテルから歩いて昼食をと思い調べてたどり着いた。藪蕎麦といえば、江戸時代から続く東京の有名蕎麦店。今のご主人の父が暖簾分けをしてこの場所で開店したのが始まりなのだそう。
さぞ混んでいるだろうと、そろ〜りと戸を開けると正面に調理場が覗く。ご主人が隙間から、いらっしゃい、すみません、ちょっと待ってくださいね、と招き入れてくれた。
お客が席を立つと、真にありがたそうにお会計をしお礼をし送り出す。海外からの観光客と思しきお客にも変わりはない。ほっとした気持ちになり、メニューを眺め、「鴨なんば」をお願いした。
写真で見返しても美しい。完璧とも言えるようなバランスの一杯。茶そばをすすると、甘いお出汁が口の中に広がり、なんだか東京を思い出す。
ご主人によれば、ヤマサの醤油(千葉ですね)を使っていて、その点たしかに関東風と言えなくもない。しかし、東京の蕎麦屋はもっと醤油感が強いのに対して、こちらはお出汁の香りが溶け合ったような感じで飲み干すにも易しい。山椒をかければ尚旨い。連夜のハシゴ酒を癒すにこの上ない一杯に思えた。
こちらがご主人。雑誌の取材で滞在していると話すと、ご主人も大学卒業後は都内の大手出版社でお仕事をしていたのだと語ってくれた。大学時代は写真部で、ヤマサの会長さんとは写真繋がりの長い友人とも話していた。東京にたくさん思い出があるようで、なんだか嬉しくなった。
あまりに心の平穏をくれるお店だったので、次の日にもお蕎麦をいただきに行ってしまった。雑誌は大変だからね、頑張ってね、と優しい言葉までいただいた。ごちそうさまでした。
雑誌が仕上がったら届けに行きたいと思っていたものの、まだ叶えられておらず申し訳ない気持ち。でも、またいつか。
高辻 藪そば
京都府京都市下京区高辻通猪熊東入高辻猪熊町341(Google Maps)
- Associate Editor of RiCE
舘﨑 芳貴 / Yoshiki Tatezaki
東京出身。大学卒業後、ロンドン留学を経て都内の制作会社勤務。2019年ライスプレス入社。