エディターズノート
「RiCE」第28号「東京」特集に寄せて
RiCE通算第二八号は東京の食についての特集です。創刊以来、毎号特定のフードやドリンクを特集してきましたが、初の場所切りとなります。そしてまずは自分たちの基盤となる東京を真正面から取り上げることにしました。
なんて、さらっと書き始めましたが実は前段というか伏線があってですね。二〇二〇年春、結果的にコロナに突入する直前まで東京を特集しようと試行錯誤していた時期があったのです。
もちろん当初予定されていた東京オリンピックを見越してのことではありましたが、結果的に一年延期となり三年後となった今から振り返れば大きな時代の変わり目でした。もちろん東京のフードシーンもそこから大きく塗り変わっていきます。
なので、断念に終わった東京の食特集を改めてやろう。今やることに意義がある。そう思ったわけですが、またもや壁にぶち当たります。そうでした。前回企画の段階で四苦八苦したのはコロナのせいではなく、自分たちの力不足のせいだった。なぜなら、向き合うべき対象、東京が巨大すぎる。果たしてどんな切り口があるのか。東京のおいしさって何だろう?
一極集中の弊害が叫ばれ続けるここ東京ですが、日本の人口の約一割を擁し、飲食店の数も未だトップを走る。自然に恵まれ、全国から海の幸、山の幸が集まるだけでなく、世界中から大量の食材が輸入され続ける食の玄関口とも言える場所。そこには当然、数多あるおいしい素材を選定し、仕分ける大量の作業が発生します。言わば「食の目利き」とも言えるプロフェッショルな職能が必要であり、そうした方々が東京および日本の食を支えている。
さらにその素晴らしい食材をおいしい料理へと昇華する「腕利き」の料理人も必要だし、飲食店の数だけ沢山います。結局東京のおいしさを支えているのは人=マンパワーなんだなと当たり前のことに気付きました。
もちろん舌の肥えた食べ手がいるから成立するわけで、東京にはおいしいものに目がない食通=フーディーがたくさんいます。作り手と食べ手との普段の緊張関係、良い意味での新陳代謝があってこそ、その質は保たれつつ高まり続ける。その結果が、ミシュランの星の数が世界一という稀に見る美食都市となった今の東京でしょう。
もちろんハイエンドなレストランに限らず、世界各国の料理が本国顔負けのレベルで食べられる。寿司や鰻、蕎麦に天ぷらなどの和食が断トツでおいしいのは言うまでもなく、町中華や洋食などの大衆食、和菓子や洋菓子に至るまで、おいしいものを挙げだしたらきりがない。こんな場所、世界中どこを探したって東京より他ないんです。これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ?
ようやくコロナの出口に立てたこの春、五月に開催される「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」をはじめ様々な食のイベントが目白押しです。「おいしい東京」を堪能しに国内外から人が押し寄せるでしょう。そして人の数だけ「東京」はありますし、間違いなく「人」がカルチャーを作ります。満開に咲く桜の花のように何度でも蘇る東京のフードカルチャーの今をどうぞ。
Illustration by Masakatsu Shimoda
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
- TAGS