静岡・天竜の幻のお茶が新シリーズとして販売開始

[冨茶園]には残したいお茶の風景が詰まっている


RiCE.pressRiCE.press  / Nov 14, 2023

その茶は、お茶の名産地・静岡県天竜地区の山の上、清流が流れ、鳥のさえずりのほかは雑音など届かないような場所で育つという——。

10月下旬に、一般に初お目見えとなった日本茶のブランド[冨茶園]のことだ。天竜地区は、浜松市から車で1時間ほど北上した、天竜川中域山間地。そこで、無農薬・一番茶・手摘みを守りながら丁寧にお茶をつくる内山さんがいる。

10月27・28日、東京・恵比寿のギャラリー[皓 SIROI]でのローンチイベントで出迎えてくれたのは、現在お茶づくりを行う内山冨人さんの娘・さちさん。今年72歳を迎えた冨人さんと一緒に、茶園を管理し、自宅に併設された茶工場で毎年お茶をつくっている。

「天竜の山の上、本当に山奥にある茶園です。なので、車の排気ガスも当たらないようなところです。いつからなのか、はっきりとは分からないのですが、代々お茶はつくっていて、今の製茶機械を揃えたのは祖父の代です。今は父がやっているのですが、山の上の作業は危険のこともあって、そろそろやめようかという話も出ていたんです。でも、どうしても続けたいという思いがありました。そうしたタイミングで、ブランディング・ディレクターの福田春美さんとご縁をいただき、今回こうして新しいシリーズを発表することができたんです」(内山さちさん)

ブランディングを手がけた福田春美さんは、今年の新茶に合わせて[冨茶園]を訪れ、美しい清流と澄んだ空気、その茶園を大切にしてきた家族に感銘を受けたという。

「そこがいかに大切に守られてきたのかが伝わりました。そのご家族とご先祖の方たちの想いも込めて、『囀』と『淸』というあえて古い漢字を使いながら、茶園の景色と空気を表現するようなネーミングを提案させていただきました。また、この清らかすぎるほどの場所を表現するには新保さんたち(新保慶太さん・美沙子さんによるデザインユニットのsmbetsmb)が絶対いいと思い依頼させていただきました」(福田春美さん)

リリースされたお茶は2種類。「囀ノ茶 ten no cha」は複数の品種を掛け合わせたブレンド(合組)のお茶。「淸ノ茶 sei no cha」は“おくみどり”という単一品種のみのお茶。いずれもリーフ(50g、¥1800+税)、ティーバッグ(3個入り、¥600+税)で販売。商品の後ろに生けてあるのは、[冨茶園]のお茶の木の枝。ちょうど花を咲かせていた

鳥の囀りが聞こえる山の茶畑

「囀ノ茶 ten no cha」は、山の中にある茶畑の音をその名前に込めた。車も入らないという山の上だから、聞こえてくるのは鳥の囀りくらいのもの。山の斜面に育つ茶の木たちを囲むのは木々のほかには空くらい。そんな景色の中で、鳥の声が聞こえるという、美しいお茶の風景が思い浮かんでくる。

その美しい風景と、そこに集ってお茶を摘む“摘み子”さんたちの存在が何より失いたくないのだと、さちさんは言う。

「お茶摘みといえば鳥の囀り、というのが私たちの中にはあって。そこには摘み子さんたちが毎年集まってくれて、いい空間になるんです。上手な人は摘むのが速くて正確。本当に手放したくないなって思います。技術を受け継ぐということもできたらいいですし、なくなってほしくない文化だと思います」

「囀ノ茶」は冨茶園ブレンドということで、“やぶきた”、“さやまかおり”、“かなやみどり”、“おくひかり”など時期によって6種類ほどの品種をブレンドしている。淹れたときのきれいな緑色も意識しながら、浅蒸しではあるけれどややしっかり目、という絶妙な蒸し加減にはこだわりがあるのだそう。

さちさんが淹れてくれた「囀ノ茶」は、やさしい甘みとフレッシュさのある味わい。温かい一杯は、こっくりとして落ち着かせてくれる。

美しい清流のそばで育つお茶

「淸ノ茶」は、山を流れる美しい清流をイメージしたお茶。“おくみどり”は、旨み・甘みがあり、香りのよい品種として知られるが、その味わいと[冨茶園]らしい清々しさを感じられるように、すすり茶のような淹れ方を教えてくれた。

注ぎ口が切られた小皿に茶葉をのせ、そこに直接冷ましたお湯をかける

60秒ほどおいたらグラスに注ぐ、というよりも一滴一滴垂らすような感じ。すでに旨みが凝縮されたような香りがする

ごく少量のお茶を口に含むだけで、十分に旨みと甘みが口から鼻まで抜ける。それでも口の端が染みるような刺激はなく、あくまでもクリアでやさしい茶葉の力を感じる。お湯を注ぎ足して、4煎、5煎と飲み重ねられるほど味が詰まっているのだそう。

もちろん、ふつうにお湯で淹れてもきれいな味わいを楽しめるし、水出しにすれば甘みが引き立つ冷茶として楽しめる。

無農薬だから安心して味わい尽くせる

この日は、もう一席お茶をいただくことができた。今回のアートディレクションを務めた「smbetsmb(エスエムビー・アンド・エスエムビー)」の新保美沙子さんが、抹茶を点ててくれた。

厳密にいうと抹茶は碾茶と呼ばれる、煎茶とは異なる栽培と製造工程で作られた茶葉を粉に挽くのだが、今回は「囀ノ茶」をポーレックス社の「お茶ミル」で手づから挽いたという特別版。

新保美沙子さんは、夫の慶太さんとともにデザインユニット「smbetsmb」として、プロダクト、書籍、ウェブサイト、VIなどさまざまなアートディレクションを手がける。茶道は宗和流にて学んでいる

粉状になった茶葉をそのまま飲む抹茶は、茶葉の質がよりダイレクトに人に届く。新保さんは「この茶葉は無農薬で作られているので、安心して最後まで飲んでいただけますよね」と話す。

「排気ガスもあたらない場所で育てられているというのも嬉しいですね。環境がよく、丁寧につくられたお茶を気軽に飲めるというのはいいですよね」

小さな箱のような形のデザインが斬新な印象の「囀ノ茶」と「淸ノ茶」。包装の仕方は意外なほどシンプルで、茶葉の保存袋を一枚の紙で包み、紐で結んであるだけ。紙の裏側にストーリーと淹れ方が書いてあるのも嬉しい。

「一枚の紙を、接着剤などを使わずにシンプルに包んでいます。紐をかけるのは手間がかかるのですが、[冨茶園]が“お茶を手づくりしている”ということにつながるように、あえて最後まで手をかけるような形にしました」

これまで広く販売するということはなかったお茶が、さまざまな縁と想いがつながり装い新たに生まれ変わった。しかし、中身は変わらず、これからも大切につくられていくだろう。

「パッケージにいたるまで、丁寧に手でつくったお茶。しっかりと飲んでくださる方に届けることができる時代になってよかったと思っています。このお茶は、残したいですね」(さちさん)

冨茶園(とみちゃえん)
静岡県浜松市天竜区、山々に囲まれた茶畑の一番茶を手摘みし、家族でお茶をつくってきた。これまで一般流通はしていなかったが、2023年10月、名前をそれまでの「とみ茶園」から「冨茶園」と改めブランドローンチ。今後も丁寧な手づくりを守りながら、健やかなお茶の時間を少しずつ広げていく。(販売情報は順次インスタグラム等で発信予定)
IG @tomichaen

Photo by Kumi Nishitani (IG @___umum)
Text by Yoshiki Tatezaki
Special thanks to Harumi Fukuda
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