連載「食べるためのタイ案内」 #3
とにかくお腹がよわい。スクンビット編②
バンコクを拠点に、タイを「食べるため」に歩き続けてきた筆者が、観光ガイドではなく、腹と感覚を頼りにしたバンコクのフード案内。
お腹がとにかく弱い。
タイではデスロードだ。私は留学していた一年間、毎日お腹のコンディションが不安定だった(小声)。タイ好きにしては致命的だ。トイレに駆け込む。それが日常だと、勝手に納得していた。帰国したら、ピタリと止まったのが証明だった。
真夏の燦々とした灼熱を肌で受け、火照った体を冷ますように、冷房の効いたデパートに入れば、胃腸の様子がおかしい。腸から途端にぐるぐると音が鳴り、「あぁ、禁じ手踏んでしまいましたか」とクーデターを宣言されるばかりに、即辛い目に合う。
私は腸が嫌うことをしがちだ。屋台では、できるだけ現地の味に従いたいため、辛さを自ら控えることはしない。「辛さは?」と聞かれればタイ語で、「ポッカッティ(通常運転で)」と涼しい顔で答える。ただ、数時間後は悪寒と冷や汗の戦いが常。私の胃腸は、寒暖差・辛いものは御法度。腸が主権を握る独裁人体。精神は自由を求め、声(イサーン料理を食す)を挙げれば、力でねじ伏せられる。それがタイでの暮らしだった。それでも毎日食べ歩いていたのだから、我ながら学習しない。仕方ないことである。
ただ、上記はある程度予想ができるものの、時にノーアラートでやってくるゲリラ的襲撃もあるから恐ろしい。
その点、スクンビットエリアは比較的安心だ。綺麗なデパートや高級ホテルが点在しているため、いざというときの逃げ場があり、ある種のセーフゾーン。
今回は、非常事態を想定した街歩きガイドというわけではないが、冷房とトイレがあり、きちんとおいしい店を紹介したい。エアコン完備の箱型レストランゆえ、スクンビット編①より価格は上がる。けれどその分、家族連れでも安心。そんなスクンビット編②である。
📍[ノンリムクローン]
「リムクローン」とは“川の側”という意味。かつてはクーロンセンセープという、濁った水で“ドブ川”と呼ばれることもある運河沿いに小さな屋台を構えていた店。そこからほど近い場所に、いまはエアコン付きのレストランを構えるようになる。タイのグルメな友人たちからの評価も高く、店内にはいくつかテーブル席があるので、ひとりでも、大人数でも、家族でも入りやすい。営業時間は朝8時から15時まで。朝ごはんにもランチにも向いている。なにを食べてもおいしいが、名物は蟹やエビを使った料理。 ![]()
ふわふわの卵にたっぷりと蟹が入ったオムレツは絶品だ。チャーハンは米がぱらぱらで、味付けは強すぎない。それでいてエビの旨みがしっかりと下支えしている。おいしいチャーハンを出す店は、信頼している。場所はBTS・エカマイ駅から北上する大通り、スクンビット63を車で約10分ほど。行くならGRABでタクシーか、バイクタクシーを捕まえるのがベター。
BTS・プルーンチット駅は、大使館や高級ホテルが立ち並ぶ、どこか品のあるエリアだ。スクンビットと、渋谷のような賑わいを見せるサイアムのちょうど間に位置する。駅からも徒歩10分以内。タイ在住20年以上のベテラン通の知人が、某旅雑誌編集部のアテンドで使った店だと教えてもらい、訪れたのがきっかけだった。以来、屋台の刺激的な味に疲れたとき、ここに戻ってくる。この店の料理は、殴るとか、切りつけるとか、そういう言葉が似合うタイ料理ではない。どちらかといえば、包む、素朴、食堂、母。メニュー数も多く、炒め物、サラダ、スープ、カレーと幅広い。大人数でも安心して使える懐の深さがある。[ノンリムクローン]のように、なにを頼んでも大きく外さないタイプの店だ。
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私がここにたどり着くのは、大抵、百戦錬磨の胃腸を労わるとき。そんな日は、タイ料理のなかでもどこか故郷を思わせるチャーハンを選んでいる。味にブレは時折あるが、調子のいい時は、とにかくおいしくて沁みる。一点だけ。友人がトイレに立った際、紙がなく中ピンチを迎えていた。タイ旅の基本装備、ポケットティッシュはレストラン内でも必要ということを思い知る。
BTS・トンロー駅から徒歩3分ほど。Netflix『Chef’s Table』にも出演したボーさんとディランさん夫妻が率いるレストラン。ミシュラン一つ星を獲得し、バンコクのタイ料理シーンを語るうえでも欠かせない存在だ。彼らが向き合うのは、タイ各地に眠る古典レシピ。地方ごとの食文化や失われかけた伝統的調理法を掬い取り、現代のファインダイニングとして再構築する。一度は夜のコースを体験したいと思いつつも、価格は約4,800バーツ(バーツは5倍で計算すると円換算できる)。円安も相まってなかなか勇気がいるので、金・土・日のみ提供されるランチへ。
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一品ずつ運ばれるコースではなく、前菜に数種のおかずとスープ、ライスが一度に並ぶタイらしいスタイルだ。タイ料理は酸味や甘みが立つ力強い味わいが多いが、ここのヤムは辛味、酸味、甘味が完璧な円を描くように調和し、角の取れた上品な余韻が残った。さすがである。
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さきほど紹介した[Bo.lan]の夫妻が手がける、よりカジュアルな一軒。BTS・トンロー駅から徒歩5分ほどと、アクセスもいい。アラカルトで気軽に注文でき、使用するのはオーガニック食材のみというスタイルはそのままだ。グリルした肉や魚など力強い料理も揃うが、個人的にはサラダ系を推したい。ヤムやラープは、[Bo.lan]譲りの緻密なバランス感覚が光る。
ちなみに、幡ヶ谷にある立ち飲みタイ料理[maama]に行くと、400バーツ分(2000円ほど!)のクーポンがもらえるので、タイ旅行を計画しているなら、頭の片隅に。
2026年版ミシュランガイドでビブグルマンを獲得した、南タイ料理の一軒家レストラン。場所はBTS・アソーク駅から徒歩15〜20分ほど。通年暑いのでバイタクを使うのが無難だ。
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タイ南部・ナコーンシータマラートとスコータイ地方の家庭料理をベースに、シェフが祖母から受け継いだレシピを提供する。メニューはコースのみ。2〜4人向け、または5〜8人向けのシェアスタイルから選べ、内容は2か月ごとに変わる。発酵エビの炒めもの、サトー豆とエビのガピ炒め、特製ナムプリックの盛り合わせ、ターメリックライスと揚げ魚など、日本では出会いにくい、南タイらしい力強い味わいと、家庭料理ならではの素朴さが共存する。
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アルコールはワインのみ提供。それ以外は持ち込み可。新鮮な食材を仕入れる都合上、事前予約が必須で、料理の説明は基本タイ語。少しハードルは高い…。けれど、その扉を開けば、目覚めるような新しい食体験にであえる。私はタイの友人を含む8人で訪問して量が多いコースをシェア。タイの友人も気に入り、後日「また行ってきた」と連絡があったお墨付きだ。
モダンにアップグレードされたイサーン料理を食べてみたいなら、ここへ。イサーン(タイ東北)地方出身の元ファッションデザイナーがオーナーを務める店で、本格的な郷土料理に加え、マンゴスチンのラープやスイカのスパイシー和えなど、ひねり効いたオリジナルメニューも多い。
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オープン当初からグルメ通の間で話題となり、いまも人気は衰えない。Foundisanというイサーン支援プロジェクトを手がけていた背景もあり、店内にはテキスタイルやヴィンテージ家具が配され、食事を通してイサーン文化を体感できる空間に。お酒も飲んで、ひとり1万円強だったと記憶している。イサーン料理としてはやや高めだが、体験込みだと思えば納得感はある。
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- editor / writer
野﨑 櫻子 / Sakurako Nozaki
1991年生まれ。雑誌とウェブの制作に携わったのち独立。学生時代に習得したタイ語を武器にバンコクへ赴き、最新グルメからローカル屋台まで練り歩く。日本では良き酒と肴を求めて夜な夜な酒場へと集う日々。IG @rako_noz