連載「シティライツ・レストラン」#13
夜旅の起点となる、懐の深い大空間
年末に「ハレとケに寄り添う京都のにく処」と題して、京都での[牛おおた]さんとの思い出を振り返っていたのですが、年末年始にかまけて記事を完成させるまでには至らず、気づけば一気にGWまで駆け抜けていました。
言い訳がましい話ではありますが、4月から大阪にある短期大学で観光学を教えることになり、週末は100分にもわたる講義の準備に追われながら過ごしています。ちなみに講義は20人ほどの履修生がいて、観光を「教える」というより、観光の言葉の意味を正しく捉え直してもらうこと、そして学生たちこれからの人生で旅をするときに、より豊かな時間を過ごせるような気づきを散りばめている感覚です。旅=観光ではなく、「どこへ行き、誰と何をして、どんな意味を自分が見出したか」、その関係性こそが大切だと話しています。本連載のタイトル「シティライツ・レストラン」も観光という言葉に由来していますが、講義の準備をしていると、自分が大切にしている価値観を改めてなぞる時間にもなっていて、忙しさの中でも自分を見つめ直すいい時間にもなっています。
その視点は自分の日々の生活にも当てはまっているなと感じます。僕は岡山のあるお店にある方と行くと、毎回学びから笑いに溢れた心地の良い夜になるという方程式があることに気づきました。それは備前焼作家の金重陽作さんと訪れる[鳥好 駅前本店]です。まず、「駅前本店」という名前が潔く、毎回岡山駅に降り立つとそこが集合場所となり、その後の数軒を駆け抜けるスタートダッシュとなる起点なのです。魚から焼き鳥、郷土料理まで幅広くカバーしてくれる居酒屋が個人的な好みで、ビールは瓶だけではなく生が欲しい。欲を言えば生ビールはしっかり冷えていて、フレッシュな味わいに店内のライトを照り返すほどの綺麗で優しい泡の生ビールだと、それだけで気分が上がります。鳥好でもまずは生から入り、最近定番化しているオニオンスライスとしゃこ酢を注文。
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なんてことのない一皿に見えるが、玉ねぎの甘みとドレッシングのほのかな酸味が相性抜群です。
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岡山に来たらしゃこは食べておこう、という気持ちです。
ビールを飲み進めると少し味付けの効いたメニューにも手を出したくなり、焼き鳥を攻めにいきます。ねぎま(鳥ねぎ)はあると必ず頼んでしまうのですが、鳥好にもねぎまがある点は個人的に安心できるポイントです。
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魚系メニューも頼もしく、店名で「鳥が好き」と謳っているにも関わらず、魚でも満足できてしまう懐の深い居酒屋なのです。瀬戸内は潮の流れが速く、ゆえに蛸も有名ですが、白身魚も筋肉質で身が締まっているため、刺身の切り方は豪快で、一枚一枚が厚いところが多い。鳥好も例に漏れずしっかりと分厚い刺身たちが出てきます。厚く切られた刺身に理由もなく興奮を覚えるのは、単に食いしん坊だからなのでしょうか。
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このあたりで日本酒にいきたくなるのですが、2軒目に待ち構える[立呑み ひろし]のために我慢。ビールから芋焼酎に切り替え、魚を堪能していきます。そして「そろそろアレいっちゃいますか」とメニューにしっかり記載されているのに、なぜか二人の秘儀みたいな立ち位置に君臨する海鮮巻を最後に頼みます。お寿司が食べられる居酒屋というのは無条件に人を幸せにする力があると感じますが、太巻きまである居酒屋はそう多くなく、それだけで自分の中での評価が一気に上がります。
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海鮮巻に安心感を覚えるのは、母がよくお昼にコープの海鮮巻を買って来てくれた思い出が関係しているのかもしれません。
ここまで僕が[鳥好 駅前本店]の虜になっているのは駅前という立地に対してここまでの大きな空間が広がっていることです。カウンターからテーブル、お座敷まであり店内のレイアウトは長方形に近く、物理的に開かれた空間なのです。国土が狭く、その約7割が森林に囲まれ、建物は横ではなく縦に積み上げていく傾向にある日本ですが、居酒屋でここまでの大空間というのはあまり多くなく、いつ来ても沢山の人で賑わっています。ここにいる人たちの夜はこれから続いていき、それぞれの思い出が作られていくと考えると、幸福感の総量が多い大空間だと感じます。
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日本六古窯の一つである備前焼と向き合う陽作さんは物づくりへの考え方の根底に、昔と今の関係性へのまなざしや、釉薬を使わず焼しめる備前焼ならではの素材の自然さへの敬意を感じ、仕事の話を聞くのが楽しく、学びも多いのです。また、趣味のランニングが一緒なのでランニングトークでも盛り上がることができて、かつ食べ飲みが好きだという共通点の多さも、良い時間が生まれる大きな要因だと思います。岡山に来て、その土地の食文化に浸りながら、地域の伝統産業に携わる方のお話しを聞くことで、その場所への思い入れがまた一段と深まっていく。この日もそんな密度の濃い良い夜になりました。

- Naru Developments
上沼 佑也 / Yuya Uenuma
1995年生まれ、埼玉県出身。中学から都内の学校に通っていたこともあり、約15年間は東京で時間を過ごし、2022年10月より京都へ移住。明治大学とカリフォルニア州立大学へ通い、卒業後はコンサルティングファームに就職。その後、Insitu(現Staple)に入社し、ホテルや飲食店、Coffeeブランドの立ち上げなどを経験したのち、Naru Developmentsに転籍。現在は旅館の企画開発や運営に携わる。趣味は食べ・飲みに加え、ランニング(太らないために)とサッカー(アーセナルファン)。湯呑や椅子などをはじめモノ好きで、リサイクルショップのオンラインストアをチェックすることが日課になっている。