連載「琥珀色の余韻を過ごす〜スコットランド滞在記〜」#4
知れば知るほどおもしろい。ウイスキーの値段さえも左右する樽の話
知れば知るほどおもしろい。
色んなジャンルに言えることだと思いますが、ウイスキーもまた例に漏れず、知れば知るほど楽しみ方やおもしろさが増していく世界でした。
2025年9月、初めてスコットランドを訪れたときの僕は、ウイスキーが好きではあったのですが、あまり知識もない状態。そんな状態だから蒸留所ツアーに参加しても、「おおお、なんかすごい!」としか思いませんでした。でも、少し知識を蓄えてみると、違った観点でウイスキーを楽しめています。
今回はウイスキーの香りに大きな影響を与える”熟成”の観点からウイスキーを探求します。
※シングルモルト スコッチウイスキーがメインの話です
ウイスキーの仕上がりの70%は樽によるもの?
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ウイスキー業界のレジェンドでありながら、今なお現役でGlenAllachie Distilleryを運営するビリー・ウォーカー氏は熟成に用いる樽について、こう話しています。
“It(Wood) contributes 70% to the total experience of a whisky, in my opinion.”
(ウイスキーの仕上がりの最大70%は、樽(ウッド)によるものだと考えている)
ウイスキーの本場スコットランドで、「スコッチウイスキー」を名乗るためには3年以上の熟成が必要なのですが、3年以上の長い時間をかけて香りが原酒に移っていくことを考えると、その意見も頷けます。
同様に語る業界人も多く、熟成を経て多くのウイスキーがそれぞれの個性を携えていきます。
値段さえも左右する樽の違い
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僕はウイスキーを飲み始めた当初、樽の違いなんて考えたこともなく、ただただ「これ美味しいなあ」とか「ボトルによって色んな香りがしておもしろいなあ」と思っていました。
そして、ウイスキー初心者時代に不思議だったのが値段の違い。年数が高いほど高くなるのは直感的に理解できるものの、同じブランドの同じ熟成年数のウイスキーがどうして違う値段になるのかなんて知る由もありませんでした。
年数が長いと値段が高くなるのは、保管にかかるコストはもちろん、ウイスキー特有のエンジェルシェアも大きな影響を与えています。樽の中で熟成している間にもアルコールが揮発して、毎年樽から約2%ほどの原酒がなくなっていきます。これを天使たちが飲んでいるといって、エンジェルシェアという名前がつけられたんですね。
そして、もうひとつ値段に大きな影響を与えるのが樽。よく見かけるものだと、バーボン樽とシェリー樽に大きく分けられます。
バーボン樽Vs.シェリー樽
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スコッチウイスキーの樽熟成では、新樽を使うことは多くありません。ほとんどが何かしらのお酒に使われていた樽が使われます。そのため、以前入っていたお酒のニュアンスがウイスキーの香りに影響します。
ちなみに、アメリカ・ケンタッキー州でつくられるバーボンウイスキーは法律上、新樽を使ったウイスキーしかバーボンウイスキーと名乗ることができません。そのため、毎年量産されるバーボン樽は安い傾向に。そんな経済的な理由もあいまって、スコッチウイスキーではバーボン樽を使うことが多いです。
バーボン樽
その名の通り、バーボンウイスキーの熟成に使った樽。バニラや青リンゴ、ナッツのような風味が出るとされています。安価なことから、バーボン樽熟成のウイスキーも多く、比較的お手頃です。
だからといって、味が劣るかと言われるとそうでもない。熟成年数が長いバーボン樽はときに大化けして、複雑みがありトロピカルなフルーツ感すら纏う至福のウイスキーになることもあります。そんな1本と出会った時の幸福感たるや、想像するだけでとろけてしまいます。
シェリー樽
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もうひとつのメジャーどころがシェリー樽。クリスマスケーキやレーズン、スパイスを思わせる風味が出やすいのが特徴です。これは主に白ぶどうを原料とする酒精強化ワインであるシェリー酒の熟成に使われた樽ですが、現在シェリー酒自体の市場が小さくなっていたり、法律によるシェリー樽の入手難易度が上がったりといった兼ね合いで価格も高騰。1樽あたりの価格ではバーボン樽の10倍と言われることも(※)。
例えば、マッカランではシェリー樽の仕入れのためにスペインのシェリー会社を買収するほど。それだけ樽は大事なんですね。そのほかグレンファークラスやタムデュー、冒頭に引用したグレンアラヒーといった蒸留所もシェリー樽熟成へのこだわりで有名です。
シェリー樽の中にも色々な分類があり、その違いによってウイスキー愛好家たちは自分好みのウイスキーを探すヒントにしています。
※シェリー樽の方が一般的にサイズが大きいため、容量あたりで考えると4~5倍程度
自由にウイスキーを楽しもう!
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今回はスコットランドのシングルモルト(シングルモルトについては#2参照)を中心に話をしましたが、蒸留所ごとのスタイルの違いや樽による風合いの違いが如実に現れるのがウイスキーのおもしろいところ。
僕はもともと珈琲好きで、ウイスキーコーヒーなるものを飲んだことがきっかけでウイスキーが好きになりました。そして、ウイスキーは珈琲と似ているなあとも思います。
珈琲業界ではスペシャリティコーヒーが台頭して、フルーティな珈琲が広く飲まれるようになりました。ケニアは酸味の強いスパイシーな珈琲が、エチオピアは軽やかで華やかな風合いが楽しめる。そんな生産地や豆の違いが珈琲にあるように、ウイスキーも樽ごとの違いや蒸留所のスタイルの違いがおもしろい。
「度数が強いからどれも同じに感じる」といったことも聞きますが、そんなときは水を加えながら飲んでも全然OK。自分なりの楽しみ方でぜひウイスキーを楽しんでもらえたらと思います。

- Coffee whisky Lab.
樋口佑樹 / Yuki Higuchi
30歳からプロジェクトマネジャーとしてのキャリアを一新して、2026年ウイスキーの本場スコットランドに移住。ホテル&パブ「Highlander Inn」でウイスキー修行をしながら、休日に蒸留所を巡る。自分をいかして生きるための余韻を求めて、ウイスキーを探求中。 IG:@higu_nobless