Coffee Crosstalk 増田啓輔(maru)×中村元気(530)

“コーヒーの仕事がなくなるその前に” 今日の一杯、どう飲む?


RiCE.pressRiCE.press  / May 27, 2025

“コーヒーの仕事がなくなるその前に”なんて、かなりドキッとするテーマのイベントが渋谷ヒカリエ「8/COURT」にて本日5月27日から開催される。

身近なところでコンビニのコーヒーの値段も上がっているし、気候変動の影響でコーヒーの収穫可能地域も変化しているという。これからも日常的にコーヒーを楽しめるのか? そんな疑問が一度や二度でも頭の片隅に浮かんだことがある人は、きっと少なくないはずだ。

でもコーヒーが大好きだし、何より美味しいコーヒー片手に誰かと会う時間を愛してる。だから決して他人事とは思えなくて、最近のコーヒー事情がどうなっているのかも知りたいし、急遽イベントを主宰する二人に集まってもらった。

ということで、急遽スケジュールを調整しつつ、フグレン羽根木公園店に集合。
写真左の男性が
増田啓輔さん。2010年より某有名コーヒーチェーンにてキャリアを開始し、最年少(当時)店舗責任者を担う。その後渡豪し、オーガニックコーヒー農園にてコーヒー豆の栽培方法を学ぶとともに、焙煎補助から抽出に至るまでの過程を習得。環境負荷軽減と土壌の再生を追求するコーヒーロースター[Overview Coffee Japan]代表を務めた後、今年の春に退任。清水エスパルスファン。
写真右は中村元気さん。 2018年からごみ問題の根本解決を目指すために“ゼロウェイストな”ライフスタイルの提案を行う「530(ゴミゼロ)」を立ち上げ活動。現代における“食”のあり方を探究していくフードプロジェクト「N.E.W.S project」のメンバーとして、商品企画・開発なども行う。今年リリースされたHERBSTAND のオリジナルブレンドのハーブを使った“OCHAWARI”は何とも香り豊か、酔っ払って「とりあえずお茶割り」じゃなく、きちんと味わいたい逸品だ。

ーー今日はお集まりいただきありがとうございます。まず中村さんにお話を聞かせてください。中村さんといえば、RiCE本誌で連載コラムを執筆いただいている生江史伸シェフが手がけるベーカリー[bricolage bread & co.]と、調理工程で廃棄になってしまう “パンのみみ”を使ったビールを野沢温泉の[AJB.co]と手掛けられたり。食領域ではアップサイクル的な文脈でご活躍されている印象です。
今回開催されるイベントはコーヒーがテーマということですが、コーヒーにまつわるプロジェクトに携わられた経緯を教えてください。

中村 2018年くらいでしょうか、ウミガメの鼻にストローが刺さってる写真が出回った時期があったんです。当時[FUGLEN TOKYO]の代表をやられていた小島賢治さんと、「自分たちがコーヒーを提供するときに使っている容器が、環境や自然生物に対してどういう影響を与えているのか全く知らずに使っていた」という話になって、こういうことをコーヒーを仕事にしている人たちみんなに知ってほしいね、ということでイベントを開催したのが最初です。

 最近の動きだと、生分解性のコーヒーパッケージの企画・開発をメーカーさんとご一緒しています。開発にあたり色やサイズ感、細やかな仕様をテストしている時期があって。当時ケイくん(増田)は[Overview Coffee]をやっていたから色々相談させてもらってて、今考えるとケイくんとの出会いはその時ですね。

増田 そうですね、いま僕はほぼ無職なんですけど(笑)。最近ようやく[maru]という自分の屋号で活動を始めました。まずはコーヒーの焙煎からやっていて、代々木公園の[nephew]で、僕のコーヒーが飲めます。拠点が静岡で、知り合いの市内のコーヒー屋さんの焙煎機を借りて焙煎しています。

ーー早速本題に入らせてください。カフェやコンビニで飲むコーヒーの値段も、けっこう上がってるじゃないですか。一体何が起きているんですか?

増田 コーヒーの生豆自体の値段が年々上がっています。生豆の値段は株価と同じように変動するんですね。ニューヨークのコモディティ取引のマーケットで毎日値段が変わって、10年前だったら1ポンド(およそ453.6g)2ドルくらいで取引されていたものが、今では4ドルとか、ほぼ倍に膨れ上がっている。シンプルに原価が上がっていて、店側はどうにか努力して吸収しようとしていたけれど、さすがに無理でしょ…っていう状況になってきてますね。

ーー価格高騰にはどんな理由があるんでしょう。

増田 いろんな要因がありますが、気候変動でそもそもコーヒー豆の収穫量自体が減っています。生産国の人件費も上がっていますし。コーヒー豆を収穫する、ピッカーさんと呼ばれる人たちは季節労働者が多いんですが、契約形態は成果報酬のケースが多いんです。採った量のぶんだけ、対価が支払われる。だから収穫できる量が少ないと、同じ時間だけ働いたとしても、もらえるお金は少ない。「じゃあコーヒー豆より、レモン採ったほうがいいじゃん!」みたいなことになるわけで、労働者を確保するハードルも上がるし、それに伴い人件費も高騰していきます。

中村 コーヒーに限った話ではないですが、気候変動の影響で、コーヒーが収穫できる場所が変わっているという話もありますよね。「今まで栽培できないところで栽培できるようになった」というポジティブな解釈もできるけれど、新しい 地域が出てきたとして、今までと同じ水準のコーヒーを提供できるか?は全く別の話です。コーヒーならば、発酵工程だったり複雑なプロセスがあります。でもその技術やプロセスの成熟度は、決してすぐに移行できるものではないだから「別なところで育ちます」といえど、今までと同じクオリティのコーヒーを提供していけるかは微妙なところです。

増田 移行できないものに「土」もありますね。コーヒーも土がとても重要で、ワインと同じようにテロワール的な考え方もあるくらいです。土の中の微生物の多様性が、生育や味わいに影響するので。

 コーヒーに興味がある人なら必ず知っているであろう人気の品種に「ゲイシャ」があります、今でこそ世界中いろんな場所で植えられていますが、ほんとうに真価を発揮している土地、土壌の環境とちゃんとあっている場所はどこ?と問われたら意外と絞られるかもしれない。コーヒーが出来上がる要素って色々あるけれど、土や品種、場所、気候などすべての掛け算なんですよコーヒーの起源みたいな話になりますが、コーヒーの発祥の地はエチオピアと言われていて、エチオピアの原種はすごく香りが高く、美味しいとされています。でもこれは「原種だからいいよね」ということではなくて、あくまで「品種と土がフィットしている」賜物だと思う。

ーーなるほど。コーヒー事情を理解するにも、一言で語れないというか。頭に入れておかなきゃ行けない視点がたくさんありますね。「コーヒーの2050年問題」というのも耳にしますけれど、改めて概要を教えてほしいです。

増田 今までコーヒーを飲まなかった国や地域の人たちが、近年コーヒーを飲むようになってきました。人口増加もあるし需要は増加していく一方です。でも気候変動によって収穫できるエリアは絞られてくる。収穫量は確実に減っていくので、反比例が起きますよね。それが拡大し、今と同じ状態や同じペースでは美味しいコーヒーが飲めなくなるよ…っていうのが2050年問題です。
打開策のひとつとして、シアトルのテック企業が「ビーンレスコーヒー」といって、コーヒーに香りと味わいを似せたものを作ろうという動きもあります。

中村 「コーヒー風の別の飲み物」ってことですよね。コーヒー風のものを飲めれば良い、ってなると、なんだか人間らしさを失っていくような。「完全栄養食だけ食べて生きていけばいい」みたいな割り切った話になってくるけど、決してそうじゃないというか。

増田 そういう飲み物を頭ごなしに否定はしないけれど、根本的な解決ではないよね。消費国側の意見だなと思うというか。それに気候変動によってコーヒーが育てられなくなることは、その土地にあるコーヒーの文化が崩れちゃうことです。結構それは大きなことで。生産地の美しい景色だったり、誰がどんなふうに育ているのか? その土地で一体何が起きているのか? そういう生産地の文化を伝えることも、スペシャルティコーヒーショップで働く人たちの使命や哲学であると思うから。

ーーすごく共感します。ただ「このコーヒー美味しければいいよね」ではなくて、生産の背景やカルチャーを伝えることがロースターやコーヒーショップのプライドであり、それを含めて僕たち消費者も味わっていたような。数年前のコーヒームーブメントを牽引した大事な要素な気がしますね。

増田 例えばの話ですけど、「コーヒー生産地がすべてビニールハウス、ロボットたちがコーヒー育ててます」になったら、生産地に想いをなかなか馳せれないじゃないですか。そういうロマンや文化が失われてしまうのはすごく悲しいこと。日本に置き換えたら、お米で考えるとしっくりくる。もしお米が日本でとれなくなったとしたら、日本を誰かに紹介するときに一つのアイデンティティが無くなるのと同じ。エチオピアでコーヒーが収穫できないのは、そんな意味合いだと思うんです。

中村 あとは消費する側に立っても、機械が淹れたコーヒーを飲みたいわけじゃないですよね。親しいバリスタや家族だったり、誰かが淹れてくれたものを飲みたい。今日お邪魔している[フグレン]という場所もそうかもしれないけれど、こういうコーヒーショップで起こるコミュニケーションが日常的な風景であることもすごく意味があるというか。

増田 でもそれがいつの間にか、500円でコーヒー1杯飲めないじゃん?となってきている。もっと高騰して、1杯1,500円とかする世界になると、いよいよコミュニケーションツールとしては辛いです。北欧みたく給料が高ければ問題ないかもしれないけれど、どうやらそういうわけでもなさそうだし。だから本当はそんな未来は想像したくないんだけれど、自分の次の世代に、まるでおとぎ話のように「昔はコーヒーが500円で飲めたんだぞ」って語る将来が来たら嫌じゃないですか。日常的にコーヒーがある景色が、当たり前のこととしてある未来がいい。

コーヒーの仕事がなくなるその前に。

ーーそんな想いもありつつ、今回「コーヒーの仕事がなくなるその前に」というイベントを開催されるわけですね。改めて非常に刺激的なタイトルで、間接的に「このままだとなくなっちゃうけれど、どうする?」という意思を感じました。

増田 「いつかコーヒー飲めなくなるよ」の方が直接的ではあるけれど、どこか他人事というか、「まぁでも誰かが解決してくれるか」みたいになりがち。でも「コーヒーの仕事がなくなるよ」って言われると、急に自分ごとになる。コーヒー業界で働く人たちがみんな自分ごとと捉えてアクションして、お客さんとか一般の人たちを巻き込んでいけたら何かが変わるはず。そのきっかけになるようなイベントになればと思って今回このタイトルにしています。

ーーコーヒーを仕事にする人って意外と多いですしね。コーヒーが関与するシチュエーションってたくさんあると思うんです。「コーヒーでも飲みながら話しましょう」の打ち合わせも、コーヒーの仕事とも言えるかもしれないし。

増田 RiCEもまさにそうだよね。2050年にメディアとしてコーヒー特集やる時に、コーヒーの仕事している人が少なすぎて、特集に出てくるキーパーソンが毎回同じ人じゃんってなる可能性もゼロじゃない。

ーーいつも同じ人が出てくることほど興ざめなことはないので、完全に死活問題です!
話が少し変わりますが、今回のイベントの概要を読んでいたら、「マイボトルやリユース容器の活動が盛り上がり始めていた時期に突如訪れたコロナウイルスにより活動は大きく後退しました」という記述があって。そこが少し気になりました。

中村 コロナ禍は使い捨て文化を肯定せざるを得ない時期でした。衛生面や感染予防の観点で使い捨て可能なものがどうしても選ばれるし、ゴミを出すことに対して「コロナだから」という理由が免罪符になった。そんな状態が続いてそのままのスタイルで営業し続けているお店も多いんじゃないでしょうか。あとはここ数年でUberとかも一気に普及しましたよね。家で何か食べようってなったらUber頼むのも普通になって。その前は「ピザ頼もう」とかそのくらいだったのに。

増田 蕎麦屋の出前の原チャとか、渋くて格好良くて好きだったのになぁ(笑)

増田さんのマイボトル。使い込まれて年季が入っていて味が出ている

Cup to Soilという新たな渦を。

ーー増田さんが以前携わられていた[Overview Coffee]も、環境に配慮したロースターという考え方が当時すごく斬新というか、めちゃくちゃ時代にハマった勢いのあるロースターが登場してきた!みたいな印象で、出てきた時に興奮したのを覚えています。

増田 [Overview Coffee]は、まさにコーヒーの2050年問題に対してのアクションでした。コーヒー豆生産において、根本的に農法から見直すことがテーマです。パタゴニアが作った「リジェネラティブ・オーガニック認証」があるじゃないですか。もし全ての農地にその認証が適応されたら気候変動は改善できる、むしろ逆転できるっていう。そういう認証や志を持って育てているコーヒー生産者 をピックアップして、日本で紹介するということをやっていました。

ーーそんな[Overview Coffee]を卒業されたわけですけれど、ケイさんが考える、アップデートしていくコーヒーの概念みたいなものがあればお聞きしたいです。

増田 まだきちんと定義できてないし、僕が勝手に作った言葉だから、もしかしたら業界から批判を生むかもしれないけれど(笑)

ーーお願いします!

増田 そもそもコーヒーの世界には、「from seed to cup」っていう、「Farm to table」のコーヒーバージョンみたいな言葉があります。「誰がどこで育てて、誰が収穫して、誰が焙煎して、誰が淹れて…」という具合で、とにかく流通経路を明確にして透明性を担保することで、サステナブルな状態を作っていこう!という概念です。でもそれだけじゃ環境をキープできない状態に既になっているから。ここから更にもう一歩飛び越えないといけないと思って。それが「from seed to cup, cup to soil」です。

 今までの「from seed to cup」はあくまで飲むところまで。でも「cup to soil」は「もう一度土の方に還元していこうぜ」という考え方。今までは一方通行で生産地から消費国まで来たけれどこれからは循環させていく。もちろん日本でコーヒーを育てることは難しいけれど。土になるまでを考えていく。堆肥化して別の作物を育てたり、そもそも土を良い状態に保つためにゴミをなるべく捨てない、何か違うものをうみだしたりしていくみたいな意識でありたい。そういう意味で「from seed to cup, cup to soil」と掲げてみました。

中村 土までイメージできるというのはすごくいいですよね。そもそもコーヒーって液体だから、原型というか、どうやって出来上がっているのかがわかりにくい。本当はコーヒーチェリーを収穫して発酵させて、さらに焙煎して、抽出し、液体が出来上がる…ってめちゃくちゃ手間がかかっていて。でもこれが意外とわかりにくい。そのプロセスを伝えるための「from seed to cup」だったと思うんですけど、それから「cup to soil」で土まで戻していくという発想であれば、コーヒーが農産物であることを間違いなくダイレクトに感じられると思う。土に還るということは、当然土から生まれたんだよ、という話もできるから。自分たちが農作物を飲んでいる感覚がより持てて、そのうえでできるアクションは、きっともっとたくさんあるはず。今回のイベント「コーヒーの仕事がなくなるその前に」では、今日話したようなことを参加者の人たちと一緒に考えたりディスカッションできたら嬉しいです。

コーヒーの仕事がなくなるその前に

コーヒーの2050年問題を軸に、産地の現状、気候変動、フードシステム、店舗での実践など、幅広いテーマに触れます。

2018年にコーヒー業界に関わる皆さんとプラスチック容器の海洋汚染の問題を考えるイベントを開催してから早7年。少しずつマイボトルやリユース容器の活動が盛り上がり始めていた時期に突如訪れたコロナウイルスにより活動は大きく後退しました。

今回、ワールドコーヒーリサーチが提唱するコーヒーの2050年問題を皆の共通課題としてテーマと掲げ、コーヒー産地の現状、気候変動、フードシステムのあり方、地域や店舗での実践活動など、幅広いテーマに触れます。私たちの大好きなコーヒーを、これからもお客さんに提供し続けることができるように、みんなで考えていける場を作ります。

日程:5/27(火) 〜 6/1(日) 11:00-20:00
※初日15:00から、最終日18:00まで。その他日程はその日の最終コンテンツが終了次第終了予定。
会場:渋谷ヒカリエ 8/ COURT(Google Maps
〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1
主催:一般社団法人530
共同企画:増田啓輔
協力:東急株式会社,Creative Space 8/ 
デザイン:Mayuko Kanazawa, Minen Nakajima(N.E.W.S project)

Photo by Yuki Nasuno(写真 那須野 友暉)IG @yk_nsn
Interview & Text by Shunpei Narita(取材・文 成田峻平) 
Editorial Assistance by Megumi Bunya(編集補佐 文屋めぐみ)
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