ビアギークが集結!

“大瓶熟成ビール”を造り手と楽しむ「Beer to Share」


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 10, 2026

「ビールが熟成?」、「酸っぱいビール?」

日常的に私たちが口にするビールとは紐づかないフレーズの数々。日本において「ビール」と聞き、第一に思い浮かべるのは爽快な喉越しが特徴のラガービールだろう。“とりあえずの一杯”を求めれば、コンビニからスーパー、そして飲食店まで。あらゆるシーンで手に取ることができ、私たちの生活に根付く。

一方のクラフトビールシーン。多量に使用したホップ由来の香りと苦みが特徴のIPAの人気はまだまだ冷めやまず。他にも副原料にフルーツを使った果実味のあるものなど、味わい豊かにスタイルが存在する。

そんな多様に種類が広がるクラフトビールシーンの中で今、酸味を持つビールが一部のギークたちの間でじわりと、注目を集め始めているのをご存知だろうか。特に熱烈な視線が向けられるのがベルギーのランビックに代表されるような野生酵母によって自然発酵させるワイルドエール。瓶詰めされてなお、瓶内に残る野生酵母の力で瓶内二次発酵が進行。時間の経過とともに味わいが変化する。これらの“大瓶熟成ビール”に焦点を当てた催しが、[麦雑穀工房]主催の「Beer to Share」。3月上旬、埼玉県小川町に集ったビアギークたち約140名と造り手6ブルワリー。その愛と熱気に包まれた1日にRiCE.press編集部が密着した。

イベントを主催した[麦雑穀工房]代表の鈴木等さん。昨年に続き2度目の開催。鈴木さんの「乾杯!」の挨拶とともに、ファンたちは参加6ブルワリーの大瓶熟成ビールをそれぞれ楽しむ。

左から[志賀高原ビール]・「山伏」、[カーブドッチブルーイング]・「クロア」、[反射炉ビヤ]・「Natural Yeast Beer」、[箕面ビール]・「BATON」、[麦雑穀工房]・「NaRa」、[AJB Co.]・「FRUITED SOUR」。各ブルワリーが手掛ける“大瓶熟成”シリーズの数々が会場に並んだ。

大いに盛り上がる会場とは裏腹に、日本国内において一部のギークの間以外では、“大瓶熟成ビール”はまだまだニッチでマイナーなビールのはず。主催の鈴木さんにこのイベントに対する質問を投げかけた。

ーーすごい盛り上がりですね。昨年に引き続き今年で2回目となる「Beer to Share」開催の背景にはどのような想いがあるのでしょうか?

「おかげさまで事前予約制のチケットが早々に完売しました。ただ、日本ではここに並んでいるようなスタイルのビールはまだまだ認知度が低く、今日の盛り上がりもビールシーン全体を俯瞰するとあくまで一部に過ぎません。だからこそ、そういったスタイルのビールを造る自分たちが飲み手に伝えていく必要がある。ヘイジーIPAなど流行っているスタイルとは別で、クラシックなスタイルも大切なビール文化の1つですから。その文化を届けたい」

ーー都内から1時間少々かかり、決してアクセスが良いわけではないと思いますが、本当に熱気が凄まじいです。

「ブルワリーとして参加してくれている[AJB Co.]さんが以前、野沢温泉でサワー、セゾン、ブレッド、バレルエイジという、今日と同じく国内ではニッチな4スタイルに特化したイベントを開催していたんです。遠方からお客さんが野沢温泉に集い、みんなでビールを楽しむ光景が今も目に焼き付いていて、そこからインスパイアされている部分もあります」

会場には老若男女が集い、卓を賑やかに囲った。時折、造り手も卓を一緒に囲むことで手に取るビールにまつわるあれこれを自由に聞くことも、会したファンにとって尊い時間だろう。造り手との距離の近さゆえに、製造の背景や想いを知ることが可能で、手にしたビールは一段と豊かな味わいに感じられた。

ーー今日のようなスタイルがこれだけの数揃うことは、大きな会場で開催されるビアフェスでもなかなかないですよね。ファンにとってなんとも贅沢な機会だと感じました。

「お客さんにそう思ってもらえていたら嬉しいです。こういったスタイルの大瓶のビールは、時間とともに熟成するので購入した後、『いつ飲もうかな』と、開けるタイミングを迷うケースもあります。ただ、ここで同じエイジのものをグラスで飲むことで、開けるタイミングを見定める機会になる。加えて私たち造り手や注ぎ手、そして同じスタイルを愛するお客さん同士の情報交換ができる場になることも期待しています」

ーーまさに熟成ビールを自宅で複数保管されているお客さんもいらしていて、その一助になっている側面があるのだと実感しました。鈴木さんがそういったスタイルのビールを手掛けるようになったきっかけは何だったのでしょう?

「妻のお父さんが立ち上げたブルワリーを自分が継ごうと決意したきっかけがベルギーのセゾンビールだったんです。それを飲んだ時に衝撃を受けて。土地に根ざした季節ごとの果実やハーブを使用して造ります。当時自分たちがチャレンジしていた造りも季節の恵みをそのままビールに取り込むという発想でした。セゾンを追求することで小川町の風土をビールに映す。その想いは今も変わりません」

サービングブースには横浜[鯖寅酒販]の藤田孝一さんと広島[Kamer]の古本桂太さんが注ぎ手として参加。また、ゲストとして[目白田中屋]の北山義嗣さんの姿も。プロの出し手が加わることで昨年からより一段と豪華になった。

フードブースには埼玉県・熊谷市にある[アルティジャーノ]が出店。ポルケッタ(ローストポーク)や地元産の野菜を使用したバーニャカウダなど、この日並ぶビールと相性抜群の料理が脇を固めた。

“大瓶熟成ビール”はビールとワインの間にあるもの

この日、遠方から “大瓶熟成ビール”を目指し、ここ小川町に足を運んだギークの姿も少なくない。ギークたちはいったい、“大瓶熟成ビール”をどのように捉え、日々楽しんでいるのだろうか。好きこそものの上手なれ。良き飲み手になるためには、良き飲み手の飲み方を知ることが第一歩のはず。この日参加する方々とともに、ビール片手に話を伺い続けること約5時間。多くの方々の認識で共通するのが「ビールとワインの間の感覚」という捉え方だった。

「間」とは具体的に何を指すのだろうか。まず度数に関して。アルコール度数510%ほどのものが多く、ワインよりも抑えめ。だからこそシーンや自分のコンディションの差異も広く許容してくれる度量が“大瓶熟成ビール”にはある。そして味わいに関して。ビール特有の“陽”っぽいニュアンスがありながら、飲み飽きない酸の爽やかさ。「まだまだダウナーなテンションになりたくない昼飲みにこそ最適」といった声も複数の方から聞こえた。

飲み手がワインと近しい捉え方をする一方で、造り手たちは“大瓶熟成ビール”をどのように捉えているのだろうか?

[志賀高原ビール]代表の佐藤栄吾さん。この日快く、たくさんの造り手の方々を紹介くださった案内人。2010年よりベルギービールにインスパイアされて生まれた「山伏」シリーズを手掛け続ける。圧倒的な経験とそれに裏打ちされたビールの味わいを淡々と語る姿とは反対に、会場内ですれ違う「志賀高原ファン」の方々と愉快に談笑する姿も印象的。揺るぎない職人としての一面とマーケター的な一面が共存する、そんなお人柄あってこそ今の[志賀高原ビール]があるのだと感じた。

「ものすごく乱暴で端折った言い方をすると、もともとお酒造りをしたかった先人たちはワインを造りたかったんじゃないかと思っていて。だけどヨーロッパ南側のエリアから北上していくと、ぶどうが収穫できなくなる。ベルギーとフランスの境くらいで、そういった背景があり野生酵母を使ったワインチックなビール(ランビック)が生まれた。通常の酵母を使用したビールは糖分が残るのが一般的なところ、野生酵母を使用すると残るはずの糖分をゼロまで持っていける。その結果、ビールに残る青みのようなフレーバーを楽しむ人もいれば、ホップを追加して苦みでバランスを取る人もいる。それぞれ個性があって楽しい世界ですよ」

1993年にワイナリーとして創業し、2022年に併設する形で立ち上がった[カーブドッチブルーイング]醸造家の草野竜征さん。「もともとワインだけやっていたこともあり、ワインを飲むと仕事の頭になっちゃう(笑)。なので、造り始める前からビールを好んで飲んでいました。その時にワイン樽を使って造るビールの存在を知ったことがビール造りのスタートです」

「ワイナリーからキャリアが始まり、そのまま独学でビールを造っています。だからアプローチも捉え方も他のブルワリーさんとは異なると思います。例えばワイナリーからもらったぶどうの皮を入れるブルワリーさんもいますが、発酵が終わったビールに入れるのに対し、自分たちは生のぶどうを発酵が終わる前から投入します。発酵が終わった後に入れるブルワリーさんが多いのは汚染のリスクがあるからです。ただ、自分たちはワイナリーで、ぶどうの成長過程を追えているので、使用するぶどうがどのようなコンディションなのかを把握できています。ワイナリーである自分たちにしかできないビールづくりが自分たちの軸です」

地ビール黎明期の1996年に伊豆で開業した[反射炉ビヤ]の醸造長・山田隼平さん。醸造長として、自身の好きなセゾンスタイルと売れ筋の定番商品とのバランスを考えながら日々ビールづくりに励む。

「ワイン学科を卒業したこともあり、その土地土地の風土があらわれたセゾンスタイルが大好きです。今日持ってきている750ml瓶やマグナムもセゾンビールと自然酵母ビールの2種類で、こうしたスタイルに今後もっと力を入れていきたいと思っています。味わいの追求と同様に、大瓶熟成の素晴らしさや今日のイベントの主題でもあるシェアの精神を伝えることにも全力で向き合っていきたい」

[箕面ビール]代表の大下香緒里さん。[AJB Co.]のビールの味わいに衝撃を受け、コロナ禍をきっかけにフーダー(ビール熟成用の木製タンク)を導入。伝統ある定番シリーズとは別ラインで、2022年より「BATON」シリーズを手掛け続けている。

「度数もそうですし、味わい的にもビールとワインの架け橋になるような、そんなイメージで「BATON」を造り始めました。ビールってどうしても工業的なイメージあると思うのですが、もう少し“育てる”手触り感を大切にしたくて。ビール屋って本当にずっと掃除しているんです。ずっと同じものをシステマチックに造り続けることはビールにおいてとても重要です。ただ、自分たちが想像し得ない味わいに出会える可能性が熟成ビールにはあると思っています。自分のコントロールが及ばない菌の力に任せる感覚。自分たちの想像の外側にある世界を追求するのが楽しくて。ビールってやっぱりどこまでも自由なんです」

Beer to Share」にも大きな影響を与えたクラフトビールイベント「SSBB」の主催である[AJB.Co]の小林新吾さん。自身の好きなスタイルがまさにサワー系という。ベルギーの醸造所とのコラボ品を製造するなど幅広い商品展開をしながら“大瓶熟成”ビールにも注力する。

「今日の盛り上がりもそうですし、7年前にサワー系のビールに絞ったイベントを開催したときからお客さんの反応含めて酸味のあるスタイルに可能性を感じていました。酸味というところで、もちろんワインに近しい要素もあります。ただ、今日持ってきたフーダーサワーとスタウトをブレンドした『往古来今』は、カカオを思わせるボディ感がありながら程よい酸味も感じられます。他にも熟成ビールには、ワインとはまた違った味のレンジがあるので、それ含めて楽しんでもらえたら嬉しいですね」

会場には海外からイベント目掛け訪問した猛者たちの姿も。
昼からほろ酔い気分でナイストリップ!

“いつもの”ラガーも良し。飲み応え抜群なヘイジーIPAを飲むも良し。だけど、1つのオプションとして。もし、大瓶の熟成ビールが並んでいたり、サワー系のビールがタップにつながっているのを見かけた際には、その味わいをぜひ試してほしい。試した先に待つ、新しいビールの味わいによる感動とその豊かさを会場のグルーブから感じる1日だった。

Photo by Jun Sato (写真 佐藤隼) IG @jyun_sato
Text by Shogo Sugano (文 菅野匠悟)
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