もっと知りたい、酒屋さんのこと「Get to Know SAKAYA」#4
“いつもの”じゃない、意図せぬ酒との出会いが待つ[salo]
元サラリーマン店主が営む「ニューボトルショップ」
“いつもの”お気に入りの酒で乾杯することは、有無を言わさず至福のひとときである。だけど、“いつもの”じゃない、自分の意図せぬ味わいの酒に出会える喜びこそ、酒屋へ赴く醍醐味だろう。
昨年12月、鎌倉にオープンした[salo]は、そんな酒飲みたちの好奇心を満たしてくれる酒屋だ。店主独自のセレクトが楽しめるのはもちろんだが、コンパクトな店内では酒を求めて集うお客同士が会話し、ゆるやかに繋がりながら情報交換を楽しむ様子も日常である。広い店内に数多く揃えられた品々から1本をストイックに選び抜く、いわゆる“酒屋”的な風情とは異なる体験ができるのが[salo]なのだ。
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鎌倉駅から歩いて5分ほど、小町通り沿いのテナントビル2階に店を構える。白を基調としたクリーンな内外観は酒屋としても新鮮。ビル内には、創業40年超の老舗割烹[奈可川]や、深夜3時まで客を待ち構える[Bar Light]、タロット占いができる[マジカルアーマ]まで多様な顔ぶれが揃う。
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気持ちの良い自然光が差しこむ店内では、なんとも清々しい心持ちで昼飲みをすることも可能。
[salo]の店主は青山弘幸さん。広告会社やIT企業のマーケティング部にて長らく務めた後、今回の開業にともなって業界初参入となる。
「父がカバン職人だったり、学生の頃には写真や映画、音楽などに携わる友人が周りに多い環境でした。仲間たちの姿を見ていると、つくっているものは良いのに、伝えるのが苦手だからうまくいっていないと感じることもたびたびあって。反対に自分は業種こそ違えど、人に何かを伝えて、届ける仕事をしてきた。だからこそ、大好きなお酒とつくり手の存在を自分の言葉で伝えたいと思い、お店を始めたんです」
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店主の青山さん。グレーのパタゴニアのフリースを着た彼はどこかITエンジニアのような佇まい。取材中、矢継ぎ早に酒とつくり手に関するあれこれを語る口調からは飲み手としてのギークな酒愛を感じる。一方で、開業して間もない自身の店に関することは、届ける立場のプロとして、熟考しながら言葉を選ぶ様子が印象的だった。
業界初挑戦とはいえ、青山さんのお酒への愛は計り知れない。青山さんのお酒への入り口は、老舗のビアホールで出会ったベルギービール。大学在学中、神田にある名店[ブラッセルズ]でのアルバイトに遡る。 「土地柄的に音楽関係の方や古本屋で働くお客さんも多くて。そんな大人たちが『セゾン デュポン』の大瓶を飲む姿が本当に格好良かったんですよ。ひとりで静かに、ゆっくりと時間をかけて」
その後、マーケティング会社に勤務しながら、あくまでひとりの飲み手として、酒づくりのプロのもとへ足繁く通うようになる。
「20代後半くらいから、国内外の醸造所を駆け巡り始めました。ヘレスを飲みにミュンヘンを訪問したり、ウルケルを求めてチェコにも行きました。ベルギーでは首都のブリュッセルから電車やバスを乗り継ぎ地方へ。その道中で寄ったパブで『セゾン デュポンが大好きなんだ』と伝えると、周りにいたみんなが喜んで、店主がドバドバとグラスに注いでくれたり…。今振り返ると、酒飲みの趣味としては少し行き過ぎていたかもしれないですね(笑)。だけど、行く先々で飲むお酒を紐解いていくと、必ず歴史や土地に根ざした作物と密接に繋がっているんです。土着性や普遍さの中にある面白さというのは、今振り返っても大事な気づきだったと思います」
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店内入り口すぐの冷蔵ショーケースには、吟味されたビールがずらり。どれも青山さん自身が足を運び、直接耳を傾けた醸造家たちが手掛ける自慢のビールだ。[salo]のある鎌倉で熱狂的に愛されるヨロッコビールや、「畑からグラスへ」をテーマに2024年よりビールの醸造を開始したFLORA FERMENTATIONなど、その土地に根ざすビールが並ぶのも印象的だった。 青山さんの“きっかけのビール”でもある「セゾン デュポン」を中心に、ベルギーのデュポン醸造所の銘柄も複数ラインナップ。国内外、そして新旧問わないセレクトが光る。
既知の味わい以外に出会う豊かさ
店名の[salo]は、テーマでもある「selected alternative liquors only.」のそれぞれ頭文字を取ったもの。そのコンセプト通り、店主の青山さん独自の視点で選び抜かれたビールや焼酎、ジンなどが店内に並ぶ。その中でも青山さんがとりわけ強く意識するのが「alternative(オルタナティブ)」な提案をすること。
「もともと私生活ではビール中心に楽しんでいましたが、ある日、友人からもらった焼酎が抜群に美味しくて。そのときに普段口にしない味わいに出会える豊かさを実感しました。音楽で言えば、普段ロックしか聴かない人がたまたま耳にしたジャズに衝撃を受けたりすることと近しいと思う。自分が営む店でも、そんな偶然の出会いを提供したくて。ビールやナチュラルワインしか口にしない人にこそ焼酎を飲んでもらいたいですし、その逆も然り。ジャンルを横断した提案をしていきたい」
オルタナティブな提案をする上で重要視するのが、ライフワークでもある「つくり手の声を拾い届ける」ことだと言い、さらにこう重ねた。
「昔、三軒茶屋に住んでいた頃、[Pigalle Tokyo]に通っていたんです。店主のヒデさんとチエさんは毎年のように海外の醸造所を訪問しているのですが、訪れた先のつくり手たちの話を土産話として店でよく語ってくれました。土産話を聞きながら飲むお酒はやっぱり抜群に美味しくて。その実体験から自分も、お酒を届ける上でその場その場で感じ取った一次情報をお客さんに届けたい。どうせお金を払うなら説得力のある人のもとでお酒を買ったり、飲んだりしたいじゃないですか」
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店内中央にはおよそ6人ほどで囲めるテーブルが配置されている。1つのテーブルを囲み、その時々に居合わせたお客同士で飲み交わす時間は、いわゆる角打ちとは一味違う。ここ[salo]ならではの贅沢なひとときだろう。
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店内に並ぶ商品はすべて有料試飲可能。「どんなに話しても最後はやっぱり飲まなきゃ分からない。とにかくお客さんには試してほしいんです」。この日試飲させていただいたのは大石酒造の「橙華」をソーダ割で。トロピカルな口当たりに鮮烈な印象を受けつつ、ビターさも感じる余韻がじわりと残る。焼酎に馴染みのない方にこそ試していただきたい。
ビール以外に現在並んでいるのは焼酎、ジン、そしてアマーロにミード。焼酎は既にスポットライトが当たっている業界をリードする蔵元の銘柄もあれば、いぶし銀的に輝きを放つ銘柄までもがフラットにピックアップされている。 この日、店内に並んでいたのは、中村酒造場の「なかむら」・「玉露(白/黒)」、大石酒造の「鶴見」・「橙華」、天草酒造の「池の露」。ジンは、長野県北部の野尻湖畔で厳選した地元素材から造られるYAMATOUMIというセレクト。蒸留所へ訪問した店舗しか取り扱えない「YAMATOUMI TERROIR」も並んでいた。ジャンル問わず地域の個性が色濃く出た酒が並ぶのは、まさしく青山さんが自身の足で各地を駆け巡り、各土地土地の風土を感じてきた賜物だろう。
[salo]で手に取りたい、青山さんこだわりのビール
本連載で各回1本ずつご紹介いただくおすすめのボトルだが、今回は特別に2本のビールをセレクトいただいた。
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1本目に選んでいただいたのは、青山さんがビール、そして酒全般へ目覚めるきっかけとなったベルギーの「セゾン デュポン」。デュポン醸造所が手掛けるスタンダードな1本だ。
「今のクラフトビールブームよりも前の時代の文脈ですが、新しいつくり手たちからも大きなリスペクトを集め続ける1本です。瓶内で二次発酵が進むので、タップよりも瓶を好む方も少なくないです」
酸味がありながらも、ふくよかでジューシーな味わい。かつて青山さんがバイト時代に憧れた大人たちのように、時間をかけてじっくりと飲むのは至福だろう。
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2本目は、千葉県木更津市で造られる「ソングバード」。
「続々と新しい銘柄やスタイルに挑戦するブルワリーも多い中で、スタイルを変えず、実直に定番品を造り続けている姿勢に惹かれます。つくり手の中島恭平さんとは歳が近いこともあり、『最近調子どうですか?』と季節が変わるごとにたびたび醸造所へ訪問していて。ありがたいことに神奈川県で唯一取り扱わせていただいている店ということと、この[salo]を開く際に1番最初に取引を決めた蔵元ということもあり、自分の中では特別な1本。この店の定番品になっていくと思います」
今後も[salo]には、流行やネームバリューにとらわれない、目利きされた酒がジャンルレスに並び続けるだろう。酒好きならば自分の嗜好はあるはずだ。でもせっかく鎌倉まで足を運ぶのだから、いつもと違うテンションでいい。まずはフラットな心持ちで訪れて、青山さんの提案に身を任せてみてほしい。既知の味わいでは感じられない、現代の酒シーンの自由さと広がりを思う存分感じるショートトリップが、きっと約束されている。
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salo
神奈川県鎌倉市小町2-8-9 秋山ビル2F
火〜金 15:00〜20:00
土 14:00〜21:00
日 13:00〜18:00 IG:@salo_kamakuraPhoto by Yuki Nasuno(写真 那須野友暉)IG @yuki_nasuno
Text by Shogo Sugano(文 菅野匠悟)