ライス・シーズナル・レターズ
桜の下で食べたい、野菜マフィン|[doyoubi] 瀬谷薫子
春の陽気には出かけたくなる。お誘いも増える。そんなとき、ちょっと気の利いた手土産を持っていきたい。できれば手作りで。そんなときに思い出すのが、[doyoubi]のマフィンだ。
レタスとマスカルポーネ、レモン。
春の草花を思わせる、山景色のようなマフィン
コックピットのような小さな厨房から、オーブンで焼かれた小麦のほんのり甘い香りがしてくる。タイマーが鳴ると、慣れた手つきでマフィンを取り出す。型からこぼれおちそうな、たっぷり大きなマフィンが焼き上がった。丸々ふくらんだ体をぱかっとわれば、ほわほわほわ〜と蒸気が立ち上り、居合わせた全員の目尻が垂れ下がる。むふふ、幸せな瞬間だ。
[doyoubi]の瀬谷薫子さんが焼くマフィンは、とにかくおいしい。お品書きもちょっとみてほしい。「にんじん 豆乳カスタード ほうれん草とねぎのオイル」、「発酵白菜 ピーナッツバター 生姜」、「さつまいも 蕗のとう酒粕クリーム」。頭の中であれこれ想像が膨らみ、冬眠から目覚めるように好奇心がむくむくと動き出す。しかもこれはある一日のお品書きで、ラインナップはほんの一部。
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これを手土産にできたら、きっといい。そう思って、今回は特別に春のマフィンを教えてもらった。レタスをマリネして生地に混ぜ込み、中には、はちみつレモンと豆乳でのばしたマスカルポーネ。断面はうっすらとした萌黄色で、春がそのままマフィンになったような可憐な佇まい。
「甘くしないほうが飽きずに食べられますよ」と瀬谷さん。塩気と甘酸っぱさのバランスが、穏やかな陽気によく似合う。お誘いが来たら、これを焼いていこう。そんなマフィンのつくり方をご紹介。
マフィン
レタスとマルカルポーネ レモン
材料(マフィン型6個分)
レタス…1/2個(細かく刻む)
砂糖…大さじ1/2
塩…ひとつまみ
レモン汁…小さじ1
レモン(国産)…1/2個 はちみつ…70g(大さじ5)
水…大さじ1
マスカルポーネ…100g
豆乳…大さじ1と1/2
塩…小さじ½
A(合わせてふるっておく)
薄力粉…300g
砂糖…30g
ベーキングパウダー…10g
B(混ぜておく)
米油…90g
豆乳…240ml
塩…ひとつまみ
作り方
①レタスは細かく刻み、砂糖、塩、レモン汁を加えて軽くもむ。10分ほどおいてマリネする。

レタスは下味をつけるとしんなりして、生地になじみやすくなる。ピクルスのような爽やかな酸味がマフィンのアクセントに。白ごまを加えてもおいしい
②レモンは1/4個分を薄切りにする。ボウルにはちみつ、水、レモンを入れ、600Wの電子レンジで砂糖が溶けるまで30〜40秒ほど加熱して、即席のはちみつレモンをつくる。
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③マスカルポーネに豆乳を加えてのばし、塩を混ぜる。なめらかになるまで混ぜ、塩味のクリーム状にする。
そのままだと濃厚なマスカルポーネも、豆乳でのばすことで軽やかな口当たりに。乳脂肪の重さを豆乳で中和させるのが瀬谷さん流。野菜とよく馴染み、素材の風味が損なわれない
④Bのボウル(米油、豆乳、塩を混ぜたもの)に①のレタスを汁ごと加えて混ぜる。トッピング用に少し取り分けておく。
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⑤Aの粉類を④に加え、粉気がなくなるまでゴムベラでさっくり混ぜる。


混ぜすぎないことが、グルテンを出しすぎず、ふんわり仕上げるポイント。ゴムベラを持った手で混ぜ、もう一方の手でボウルを回すと、均一に混ざる
⑥マフィン型にカップを敷き、底面が隠れる程度に生地をスプーン1杯分入れる。
最初に入れる生地は底が隠れる程度にすることで、具材が沈まず、中心にきれいに収まる
③の塩マスカルポーネを大さじ1/2ほど、②のはちみつレモンのシロップを小さじ1ほど入れる。レモンの皮は刻んで少量加える。残りの生地で具材を包むようにふたをする。

「レモンの皮の苦味が苦手な方はシロップのみでもいいですよ」と瀬谷さん
⑦190℃に予熱したオーブンで25分ほど焼く。竹串を刺して生地がついてこなければ焼き上がり。焼き色がつきすぎる場合は、途中でアルミホイルをかぶせる。
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⑧粗熱がとれたら、取り分けておいた塩マスカルポーネ、レタス、はちみつレモンを上にのせる。
[doyoubi]瀬谷薫子さんのこと
マフィンの魅力は、そのままつくり手の魅力でもある。瀬谷さん自身もまた、おもしろい。マフィン屋、という印象が強いが、店が開くのは不定期の土曜日。平日はフリーランスの編集者兼書き手として働いている。取材をして、記事を書き、書籍の執筆もこなす。いわゆるバリバリのワーカーだ。となると気になるのが、マフィンの仕込みをいつやっているのか、ということ。
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「週の後半になるにつれ、少しずつやってます」畑から届いた野菜を、日々の合間に仕込んでいく。たとえば昼食後、少し眠くなる時間にアトリエへ来て手を動かす。煮詰まった原稿が進まないときの、気分転換にもなるのだという。「思い出したように、自宅のほうへ走って戻って、そのまま原稿を書き進めることもあります」と笑う瀬谷さん。編集者の仕事とマフィンづくりが、互いにいい息抜きになっているようだ。そうして、不定期の土曜日に[doyoubi]がひらく。
そうやって行き来している姿を見ていると、なんてしなやかな人だと感じる。その柔らかさは、きっとマフィンにも表れている。では、あの自由な組み合わせは、どこからやってくるのだろう。
取材の日、まず向かったのは鎌倉市農協連即売所(通称:レンバイ)。地元の農家が朝どれの野菜を持ち寄る市場だ。台の上には、みずみずしい鎌倉野菜やまだ土の気配を残した春野菜が並ぶ。「ほうれん草はクミンと合わせてもおいしい」「菜の花やブロッコリーは濃厚な感じになる」「レタスは軽やかに」。白ごまを合わせようか、さっとしたマリネでもいいかもしれない。瀬谷さん、野菜を見るそばからアイデアが湧いてくる。
鎌倉に住み、レンバイに通うようになってから、季節ごとに野菜が入れ替わるリズムの面白さに気づいた。いまでは毎月のように埼玉県・小川町の[横田農場]に通い、野菜づくりの源流に触れている。今年一緒に、ポッドキャスト「野菜のはなし」も始まった
「きっと飽き性なんですよね」という瀬谷さん。だからメニューは、あらかじめ決めない。その日の朝、並んだ食材を見て考える。仕込みをしながらマフィンを焼き、開店前にさっと札を書き換える。どこかで「いい」と感じた味の組み合わせは、頭の中にストックされている。それが次の発想の種になる。真似しようとしてもなかなかできない話だが、本人はいたって無意識らしい。マフィンを焼きはじめて8年。それが、長く続けてきた人の感覚なのかもしれない。
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食べ方は農家に教わり、自分でも試しながら確かめてきた。教科書はない。 「マフィンを楽しみにしてくれているお客さんが、たまたまいるから救われてます」繰り返すより、自分が驚けるものをつくりたい。固定したレシピより、毎回変わるほうがいい。そのほうが、無理なく続いていくのだそう。
瀬谷さんをみていると、どこかジャズのような即興演奏のよう。自由で、スピード感があって、その場の流れでかたちが変わっていく。そして、その軽やかさこそが、[doyoubi]のマフィンをいつも新しく、おいしくしている理由なのだと思う。
「野菜の色がきれいだから、そのまま残したいんです」湯気の奥に、やわらかな緑がのぞく
また次の季節も、会いに行きたい。そのとき、どんなマフィンに出会えるのかも楽しみにして。ちなみに前に教えてもらった、冬の「里芋と焦がしねぎ 白味噌 ホワイトチョコ」も、こちらに。あわせて、ストックレシピにどうぞ。
doyoubi
神奈川県鎌倉市小町3-10-13
営業日は、不定期の土曜日。 IGの投稿で都度お知らせしている。 @doyoubi_muffin @seyakaoruko野菜のマフィンをもっと楽しみたい方は、瀬谷さんのレシピ本『鎌倉「doyoubi」の野菜とマフィン』もぜひ。
Photo by Misa Shimazu(写真 島津美紗)IG @smzms_620
Text by Sakurako Nozaki(文 野﨑櫻子)