連載「軽井沢の静かな食熱」#3

古着屋の食卓[Maison ma Manière]


Momoka YasushigeMomoka Yasushige  / Mar 22, 2026

時は春に向かっている3月。一年は始まったというのにその早さに驚いてしまう日々だけど、二拠点生活を始めてから、季節の移ろいには敏感になった。

東京と軽井沢とでは、日中の気温が5℃違う。この前の週末、都内の春陽気に合わせた服で乗り込んだバス。軽井沢に到着して降りると足元にあった雪にびっくりしたし、服の隙間から入ってくる寒さには声が出た。

寒い季節がまだこのまちに残っているなって思いながら、冬本番だった去年の12月のことを思い出した。クリスマスの日に料理を出していたんだっけ。その場所は [Maison ma Manière(メゾン・マ・マニエ)]。

オリジナルのファラフェルサンドと、友人のカレー屋さんに合わせたアチャール

オーナーである島田龍太さん(通称:しまもん)はここで生まれ育って、長野の服屋で働いたりしたあと、古着屋を開いた。私が軽井沢に移住してすぐの頃、周囲に薦められて、初めて訪れた。

服をメインに扱ってるのに「それが好きなの?」としまもんにつっこまれそうだけど、私がこのお店でいちばん好きなのは、オリジナルフレグランス。フランスで感じたスパイシーな香りをイメージしたんだって。

いつかの冬に撮った写真の奥のフレグランス

フレグランスミストなので、正確には香水ではないんだけど、そのたおやかに持続する具合がいい。韓国でカフェオーナーをしてる友人におすすめして現地まで届けたこともあるくらい私の偏愛リスト!

何度も使い切って、ボトルも5本目をむかえて、時間の経過とともに、わたしは東京に引っ越したり、二拠点を始めたりした。

しまもんやお店との関係で言えば、イベントで料理を頼んでくれて、気づけば一緒に何かをやるように。周年イベントだったり、ワインの会だったり、このお店は何かと、食に関わるイベントが多い。

ドアを開けると「お〜〜ももちゃん〜」と声をかけてくれる、陽気な印象のしまもん。彼のつくるお店には、このエリアの仲間も多い。

冒頭のクリスマスの記憶に戻る。こういったイベントの日は、通常営業でメインを飾るラックの服たちは、部屋の端にピシっと片付けられる。

その分、大きく開いた空間の中央にテーブルが据えられて(普段はアクセサリーや靴なんかが並んでる)そこに置かれるのがメインディッシュ。

「服屋なんだけど、 服だけの場所にはしたくないと思っていて。いろんな人が集まる場所になればいいな〜と」

この前のイベントで、誰よりも嬉しそうにワインを開け続けていたのがしまもんのパパ。よく遊びに来て、この前は友だちをつれて肩を並べて飲んでた。

パパは軽井沢でレストランを営んでる。しまもんの記憶では、実家ではパパの料理を食べたことはほとんどなく、時々、お店にお母さんと弟と一緒に「お客さん」として行くことがあったらしい。それは、どこか特別な時間として浮遊していた。

「学生のころには長期休みのたびに店に立つようになってて。あのとき賄いで食べた料理が、今でも自分の中では世界で一番だと思ってる」

サービスに入ると、初めて触れるフランス料理の名前やワインばかりで、正直わからないことだらけだったらしい。

「そういうときに、自分なりに調べて、お客様に説明してて、その積み重ねが『良いものを良いと伝える』っていうかな、今の自分の感覚になってった」

私の視点で見ると、パパとしまもんの関係は、近くでお店を営む仲間として、フラットにあるように見える。そこに親子という縛りもなくて。でも、食と服と好きなものにまっすぐあることとか、しまもんの要素のいくつかは、パパ譲りなんだって思った。

惜しまず真剣に力を発揮しているお店という存在は、愛というエネルギーの開放を感じられるから好きだ。

ワイン好きなしまもんのおうちにはワイン部屋があって、ストックは500〜600本。こういう蒐集のギアがただものではないところが、しまもん。

引っ越してまもない一軒家の2階の部屋がたわんじゃうかもねと笑いながら、マニエの2階をいつかワインを飲めるエリアにしたいと構想中。

忘れられない一本はジュラの生産者『ルーセ・マルタン』のサヴァニャン。最近よく飲んでいるのは、フランスのジュラやロワール地方のワイン。特にジュラには並々ならぬ愛着がある。今行っている買い付けで、現地で開催されるワインサロンに飛び乗る予定だとか。

服の買い付けのついでに、友人づたいにいくつかのワイナリーを実際に巡って訪れた現地の畑、土の感触、作り手の思想。それらを持ち帰るプロセスは、古着をバイイングする時の高揚感とどこか似ている。

「生産者に会ったことがあるワインと、そうでないものでは、飲むときの感情が少し変わるよね。感情移入って美味しさのひとつ」

今年の1月には、ジュラワインの巨匠Emmanuel Houillonが来日していて、ずっと好きだった生産者との対面は、それはそれは特別だったと話していた。

だけどマニエのテーブルにあるワインは、詳しい説明や知識のために存在しているわけではない。むしろ、そういったものから少し距離を置いて、大切なのは、それを誰と、どんなふうに飲むか。

同じテーブルで、同じボトルを開けて、少しずつ分け合う。そのシンプルな行為が、場にエネルギーを生んで、それぞれに輪郭のある関係性を立ち上げるってしまもんは言う。

「一本のボトルを、友人や家族、時にはその場で出会った人と分け合う。多少言葉が通じなくても、同じワインを飲んだ、それが思い出になる」

ワインではないけど、私もこんな記憶がある。上京してすぐコロナになって、マンスリー契約でホテルに住んでたころのこと。

ホテルが家になった生活のなかで、毎晩異なる海外の宿泊者とよくシェアテーブルで料理をつくりあって食べたりした。(記憶上強烈だったのはナマズのペッパースープ)

言葉で通じきらないことも時々あったけど、そういう思い出、あの香り、今でも体に残ってる。

マニエのイベント後は、ワインの後にくいっと飲み干すエスプレッソみたいな〆の朝が待ってる。しまもんのお家に泊まって、朝ごはんを食べる。ここまでイベントの続きだったんだって気づくモーニング。

わたしたちでつくったありあわせの円卓は、朝の細い光が被っていたからか、綺麗で儚くもあった。家の外では木に吊るされた服が風に踊ってる。肌寒いを通り越した軽井沢の北風で、キリッとエイジングしてた。

「いろんな見え方がある町だけど、僕にとってはただ、ここで生まれ育ったってこと」

自身のルーツの延長線上で、踊っているようなところを感じるしまもん。今年の夏頃には、新しい店舗をオープンする予定もあるそう。シンプルでまっすぐ気持ちいい。

私は今月の終わりに地元で料理をつくることになった。どこか恥じらうような気持ちだったんだけど、しまもんを見ていると、ふるさとって、いいなって思い起こさせられるとこがあるのは内緒。

料理というものの普遍性のおかげで、どこでもつくる機会はあるけれど、生まれ育った場所で景色をつくることを愛しむ春の手前。

 

RiCE編集部からお便りをお送りしています。

  • 最新号・次号のお知らせ
  • 取材の様子
  • ウェブのおすすめ記事
  • イベント情報

などなど……RiCEの今をお伝えするお手紙のようなニュースレターを月一回配信中。ご登録は以下のページからアドレスとお名前をご入力ください。

ニュースレターの登録はコチラ
PARIYA CHEESE STAND Minimal Bean to Bar Chocolate
BALMUDA The Kitchen
会員限定の最新情報をいち早くお届け詳しく