32歳の地方・農業大臣に聞いた、森の国の食卓と未来
食から紐解く、エストニア。
アジア最大級の国際食品・飲料展であるFOODEXの開催に際して、エストニアから地方・農業大臣が来日するというお知らせが編集部に舞い込んできた。
エストニアといっても、正直なところあまり身近ではない。思い浮かぶのは、「バルト三国」のひとつ、という程度。
一体どんな国なのだろう?と思いつつ、送られてきたメールの詳細を見てみると、なんと1993年生まれの大臣だという。自分の中の「大臣像」は、早くて40代だったので前提から崩れ始めてしまった。
弱冠32歳。ここまで年の近い大臣が、日々何を考えているのか? そもそもエストニアってどんな国なのか? 日本との繋がりは? 頭の中にはクエスチョンマークが浮かぶばかり。
ただ一番気になるのは、エストニアの人の食生活。
そんなことを漠然と感じながら、大臣にインタビューするというおっかなびっくりな機会をいただいたので、思い切っていろいろ聞いてみた。
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質問に快く答えてくれるHendrik Johannes Terras大臣
――まず、エストニアのことをあまり知らない人に、エストニアについて教えていただけますか。
エストニアは、ヨーロッパ北部に位置する1000の島からなる国で、人口は130万人ほど。海をまたいでフィンランド、スウェーデンと接し、ラトビアとリトアニアとともにバルト三国に数えられます。
国土の半分は森林と言われています。四季があり、夏はとても暑く、冬はマイナス22℃にもなります。
エストニアと日本は、文化や歴史は大きく異なりますが、精神性の部分ではどこかすごく近いものがあるように感じます。
「何事も一生懸命で、多くを語らず、内にとどめる。
仕事においても約束は守るし、必要であれば残業もする。」
もちろん全員に言えることではないけれど、そういう傾向は両国ともに見られると、最近気が付きました。
また、電子行政の分野で秀でているため官僚制度はほとんどなく、例えば娘を幼稚園に入れるのも、35秒ほどで済みます。
ログインして、申請し、ログアウトするだけで、すべてが完結します。
――先ほどのお話にあったように、エストニアは、森林や自然でも知られていますよね。そのような環境が人々の食生活にどのような影響を与えているのでしょう?
エストニア人にとって、ベリーを摘んだりきのこを狩ったり、採集行為はとても一般的なことです。「自分のきのこの場所を教えるくらいなら、国を裏切るほうがよい」といった格言もあるくらい、きのこが育つ場所というのは、家族で代々受け継ぐものとして、非常に大事にされています。
また、国土の半分以上が有機農地とされており、もともとオーガニックな環境が広がっています。さらに、その割合を高める取り組みも進められています。
――エストニア人の「典型的なごはん」といったら何になるんですかね。
マッシュポテトや、ひき肉料理、ローストポーク。そして体を内側から温めるようなスープが食卓の中心だと思います。
あと、たくさんのはちみつを使いますかね。ほとんどみんな自分もしくは家族の誰かが蜂を飼っているので、はちみつがとても身近なんです。パンケーキに塗ったり、紅茶にいれたり…いろいろなものに使いますよ。
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そして今回のインタビュー会場は、エストニアの大使館。こんな形で初めて大使館の門戸をくぐるとは思っていなかったので、それも合わせて未知の体験となった。
――Terrasさんが地方・農業大臣に就任してから約一年が経過しましたが、この一年を振り返り、何か大きな変化はありましたか?
すべてが変わったと言っても、過言ではありません。私は政治家ではありますが、農業とのつながりがそれ以前にあったわけではないので、まず「農業」について理解することから始まりました。
アフリカ豚熱の流行や、気候変動による洪水と干ばつの同時発生などたくさんのことが起きたので、それらの対処に追われるような一年でもありました。
――ヨーロッパ中でも、30代前半の大臣というのは稀だと思います。だからこそ、自分たち若い世代が、食べ物や農業に対して今までと何か違う物の見方をもたらしたと思いますか。
もちろん様々な観点が考えられますが、フィットネスや健康を考えるコミュニティの増加が挙げられると思います。例えば、食習慣がタンパク質中心、特に脂肪の少ないものへと移行しています。その影響で鶏肉の消費が増え、豚や牛肉は減ってきています。
ただ、いちばんの変化は、より身体に気を使って食べる傾向が強まったことでしょうか。ですから供給する側としても、消費者がスーパーで成分表示を毎回チェックする必要もないくらい、安心して食べられる食べ物を生み出すことに注力しています。
――今年で、エストニアのFOODEXへの出展は5回目となります。来日の目的でもあるFOODEXでは、どの分野が主軸になるのでしょうか。また、どのようなものを日本やアジアのマーケットに打ち出したいと考えていますか。
私たちとしては、「エストニアの自然」を体現するようなプロダクトを紹介したいと考えています。そのため今回は、オーガニックのはちみつを扱う企業を中心に、多くのブランドが参加しています。
そして今回、特に印象的だったのは、日本の消費者が“価格”だけでなく、“質”を重視している点です。
さらに、小規模な家族経営の製品や、生産者の顔が見えることにも価値を見出しており、そこに信頼や共感が重なっているように感じました。
――最後に、日本人にエストニアを一つの食材、料理、飲み物で紹介するとしたら、何を選びますか。
まず、最初に思い浮かぶのは「カマ(Kama)」ですかね。穀物を砕いた粉で、ミルクやサワークリームと混ぜて食べたり飲んだりします。
あとは、「コフケ(KOHUKE)」かな。チョコレートコーティングした凝乳(カード)で、賞味期限は短いのですが、食べた人は大体お土産に持って帰るくらい美味しい。バルト三国では特別なお菓子です。
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数日後、YouTubeでバシャウマさんによるエストニアのPR動画を発見。目の付け所がいい。エストニア、恐るべし。
小さい頃は、プロの遊戯王プレイヤーになりたかったというTerras大臣。ベルリンで育ったこともあり、幼い頃からドラゴンボールやナルト、遊戯王といった日本のアニメに親しんできたという。
そのため今回のインタビューで最も盛り上がったのは、ルフィの悪魔の実や、最終章に向けて回収されていく数々の伏線など、最近の『ワンピース』についての話だった。
その瞬間、どこか遠い国のように感じていたエストニアが、自分の生活と地続きでつながっているような感覚を覚えた。
ヒトでもモノでもコトでもいい、共通して語れる“何か”を持つこと。
それだけで、遠いはずの国は、驚くほど近くなる。そんな当たり前のことを、改めて実感した一日だった。
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<略歴>
Hendrik Johannes Terras
1993年生まれ
2023年3月よりエストニア共和国 地方・農業大臣を務める。
Photo by Rio Watanabe(写真 渡邊りお)IG @riowatanabe_
Text by Terra Owen
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