連載「Gluten is Free!? 小麦は自由だ!! 」#3
神保町 蛸正
第3回目となる「Gluten is Free」は、神保町にお店を構える[蛸正]の“たこ焼き”を紹介します。その出会いは一瞬の出来事でした。何の気なしにSNSをスワイプしていた時のこと。友人のSNSに現れた端正なお顔立ち(!?)のたこ焼き。目が釘付けになっている間にすかさず流れてきたのは、割烹のお店で出てくるような美しい前菜と和の趣きのカウンター。
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−このお店はいったい!? −
いてもたってもいられず「こちらのお店教えてください!」と友人にすかさずDMを送信。そして実際にお店へ訪れてみるとやはりその直感は確信に。その場で取材を申し込んで、お話を聞かせて頂く機会をいただきました。
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入ってすぐのスタンディングスペース。ここでサクッと食べるのも最高。
[蛸正]は神保町駅より徒歩2分あまり。神保町のメイン通りに位置し、多くの人が行き交う賑やかな場所にすっと現れる真っ白な暖簾が目印です。
[蛸正]で表現したいこととコンセプト、一個のたこ焼きに込められた想像を絶するこだわりなど、聞けば聞くほどたこ焼きの価値観が覆される時間となりました。
出汁の美味しさを身近に、気軽に。
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世にも珍しい(!?)割烹スタイルのたこ焼きは、“日本料理の出汁の美味しさをもっと気軽に楽しめるものはないだろうか”と、考えたのが始まり。今の家庭では、出汁パックではなく1から出汁を引くことがほとんどなくなっているから、ちゃんとした和食屋さんに行かなくても、出汁を味わう機会が作れるような場所があったらいいな。子どもも食べに来られる手頃な値段で、カジュアルなスタイルで、日本料理ならではの出汁の美味しさを届けられるもの、と考えた末に行き着いたのが、たこ焼きだったのだそう。
出汁ファーストの“蛸焼”
季節によってメニューが変わるので四季を通して楽しめる。取材時は秋のメニュー
たこ焼き屋さんとは思えない調理器具の数々
羅臼昆布、鰹の荒節の厚削り、鯖節の厚削り。この並びだけでも、まさかこれらがたこ焼きに使われるなんて、思いもよらないはず。加えて、上品な味わいを求めて真鯛のお出汁も使用しています。あまりの出汁へのこだわりと贅沢さに、鰹節屋さんなどの仕入れ先から、蕎麦屋を始めるのかと勘違いされそうになったり、もったいないからやめろと言われたりしたこともあったのだとか。いかに出汁ファーストで、惜しみなく材料を吟味し手間暇かけていらっしゃるかが伝わってきます。
そして、その出汁の美味しさを尊重するために使用する粉は、小麦粉そのまま+とろみの要素のみ。たこ焼き屋では元々味がついている粉を使うことも多いそうですが、[蛸正]のたこ焼きの粉には全く味をつけず、小麦粉そのままで作っているのだそう。“出汁の味わいを妨げるものは極力排除”の姿勢に頭が上がりません。
焼き方はお好みで三種類
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焼き台にセットされているのは熱伝導率の良い銅の焼き型。注文してから、出汁たっぷりの生地を流し込み、目の前で一つ一つ焼いてくださるたこ焼きは、まさにオーダーメイド。なんと焼き加減も「ふわとろ」「さくとろ」「よくやき」の三種類から選べます。お店の一押しは「ふわとろ」。
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“ふわとろ”の焼き加減から、さらに一つずつちょんちょんと丁寧に油を塗っていき、香ばしい焼きをプラスしたのが“さくとろ”。
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こちらがさくとろの焼き具合。
そこからさらに、表面の皮が厚くなりこんがりと焼いていくと“よくやき”になるのだとか。生地がしっかりとしてきてカリッと感が楽しめるのだそう。
定番は「醤油ダレ&本わさび」
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まずは、お店の一番スタンダードなものからいただきましょう。「醤油ダレ&本わさび」、焼き加減は「ふわとろ」でオーダー。箸で持ち上げると、生地のふわふわとろとろさが指先からも伝わってきます。一口目からしっかり感じるお出汁の上品な味わい。何種類もブレンドされたお出汁たっぷりの風味、香りは豊かなのに、エグ味やクセは無縁で、透明感のあるすっきりとした後味なのが、思わぬ誤算でした。ふわふわの食感の夢見心地のまま、するすると食べ進めてしまいます。恐ろしい子…!
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たこも国産のこだわりのものなのですが、生地の個性についつい心が持っていかれてしまうワタクシ。ここは小麦粉ラバー故お許しください。食レポでよく聞くフレーズ過ぎて使いたくありませんでしたが、ここはもう言わせてください。“歯がいらないほどふわふわ、とろとろ!”
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醤油ダレは、あくまでも出汁の輪郭を引き出すに徹した絶妙な塩気と醤油の香ばしさ。聞けば、醤油、砂糖、みりん、のいわゆるお蕎麦屋さんの出汁の元になる“かえし”を作ってから、たこ焼きの出汁とはまた異なるブレンドの一番出汁で割っているものだそう。あんかけのようなとろみもあるので、“ふわとろ”のとろとろ食感に絡み合い、とろけあいます。
そして、上にちょこんと飾られた本わさび。出汁の味わいを際立たせ、胡麻豆腐にのったわさび(名脇役)に負けず劣らずのグッジョブっぷりなのです。こちらもいいものを使っているそうで、辛さがツンと来ないので、大胆にのせてさっぱりといただけます。
出汁に合うソースとマヨネーズを開発
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最初はメニューinしていなかった“ソース&マヨネーズ”。ソース味が食べたいというお客様の声から、ソースの開発に取り掛かったのだそう。そこで直面したのが、[蛸正]の豊かな出汁の味わいと、ソースやマヨネーズの酸味との相性があまり良くないこと。既製のものだと合わないのでソースもマヨネーズも1から研究を重ねました。ソースはお出汁を忍ばせ、マヨネーズは酸味を抑えたものを自作。
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マヨネーズそのものを特別に食べさせていただいたのですが、卵のコクが際立ち、味の入り口に酸味は感じるけど、余韻には酸味が残らないのが新鮮でした。
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“ソース&マヨネーズ”は“さくとろ”をチョイス。紅生姜が添えられています。
野菜や果実の甘さを感じるソースにお出汁が入って、和の香りがふわり。なるほど。ソースらしいテイストはありつつさらりとしていて、確かにたこ焼きの出汁の味との一体感が感じられます。紅生姜を一緒に口に運べば、“たこ焼き感”が高まりますよ(単純)。
個人的に、ソースは“さくとろ”だと香ばしさが加わりおすすめです。 さっきの醤油ダレはお出汁を飲むようなイメージで、“ふわとろ”。ソースは“さくとろ。
季節の一品料理で粋な楽しみを
秋を感じる「いちじくの白和え」。
小麦粉じゃないけど…ここで箸休め的に、一品料理もいただきましょう。前菜からメインまで季節を感じられる和食の逸品がずらりとメニューに並びます。
これは全女子がアガるルックス。こんもりといちじくを覆う白和えは、雪山のような美しさです。あれ、季節通り越したな。気を取り直して、一口。
白胡麻の香り、風味が華やかに立ち上がるのに、すっきりとした食べ心地。たこ焼きにも感じましたが全体的に重さがなくて、どれをいただいても軽やかな印象を受けます。出汁をベースに組み立てているからなのか、するすると体に入っていき心地がよい。
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レアたこ焼き!?に出会える“季節の蛸焼”
春夏秋冬、「季節の蛸焼」に出会えるのも[蛸正]の特色の一つ。夏には鮎、冬には白子など季節を感じられるたこ焼きを味わえます。今は秋。「サーモンといくらの麹漬け」と「南瓜のすり流し」でお願いしました。
「サーモンといくらの麹漬け」
塩麹のまろやかな塩気が、グッとたこ焼きの味を引き立てます。一見、この華やかな見た目ゆえにいくらやサーモンが主役かと思いきや、意外にも生地の味わいがよく感じられ、たこ焼きが主役となっています。たこ焼きそのものにソースやタレがついてない分、生地から立ち上る出汁の味わいがよりダイレクトに感じられます。サーモンの脂っこさは控えめで、いくらも塩麹の力でマイルドな優しい味わい。ディルが香ることで、洋物な雰囲気がしてくるのが不思議です。たこ焼きは私たちが思っている以上に、ナニモノにもなれるのかもしれません。
「南瓜のすり流し」
すごいの来たー!あまりにもおしゃれな見た目に、わぁ!と歓声をあげてしまいました。深い黄色のかぼちゃのすり流しの海に、浮かび上がるたこ焼きの島。そこに香り高いグラナパダーノチーズの雪が降り積もっています(また季節通り越した…)。
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チーズの香りが真っ先に飛んでくるのでポタージュ気分で一口いただいてみたら、目から鱗。これは、日本料理のあの“すり流し”だ!お出汁の旨味を感じます。すり流しにお魚のすり身が入っていたりするあのイメージから着想したのだそう。季節のメニューを考える時は、味と見た目と、香りをセットで考えて組み立てるそうで、このかぼちゃには、トッピングにチーズ。夏のトウモロコシのすり流しでは黒七味がトッピングされていたとのこと。和にも洋にも変化するこのすり流しスタイルはオールシーズン登場するみたいなので、引き続きチェックしていきたい所存です!
締めのたこ飯まで驚きが詰まっている
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笹のお皿に乗って登場した“蛸むすび”。お米の存在感とたこの存在感、全く異なるベクトルで主張します。お米は、大粒で一粒の存在感がすごい。聞けば、この使っているお米、「龍の瞳」というとんでもなく高級なお米らしい。テイクアウトもやっているので、温めず冷めた状態でも美味しいお米を探して、この岐阜県産の「龍の瞳」に辿り着いたのだそう。そのお米を、たこ焼きと同じ真鯛ベースの出汁で炊いていくので、お米一粒一粒が出汁の旨味を吸ってふっくら粒だちがよく、お米だけ食べても十分に味わい深い。
そしてたこはというと、別で仕上げているのだそう。お米と異なる一番出汁とかえし、生姜で作ったタレに漬け込み、最後にお米とまぶしています。そう、だからこそ、食感がシャキシャキなのです。たこ飯のたこってギュッと縮まった身を想像しちゃいますが、シャキシャキでフレッシュな歯応え。生姜の香りと仕上げのゆずのアクセントがさらに食欲を刺激します。
テイクアウトで日常のカジュアルに
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あくまでも主役はたこ焼き。いろんなこだわりや裏側を聞かせて頂きながらも、最後までずっと楽しい気分で箸がすすんだのは[蛸正]の“蛸焼”が持つキャラクターかもしれません。畏まらず、思わず笑顔になっちゃうようなパワーがたこ焼きにはある気がしました。[蛸正]さん的にも、子どもから外国の方まで、日本の出汁文化を味わうことができるこのたこ焼きをぜひたくさんの方にカジュアルに楽しんでほしいとのこと。テイクアウトで“ふわとろ”を持ち帰っても、時間が経って固くならない硬さで粉を作ってもらっているそうなので、テイクアウトもおすすめなのだとか。
お店の和の設えに一瞬緊張してしまうかもしれないけど、暖簾をくぐればそこに広がるワクワクは街のたこ焼き屋さんと同じ。どこまでも広がる[蛸正]さんの“蛸焼ワールド”をぜひ体感してみてくださいね。
蛸正
東京都千代田区神田神保町2-14-4 朝日神保町プラザ #107
火〜土 12:00-23:00 (L.O.22:30)
日 12:00-22:00(L.O.21:30)
(月曜が祝日の場合は営業時間変更の場合があるので要問合せ)
月(祝日の場合は通常営業、翌火曜休)定休
Tel 03-4362-5465
https://takomasa.info

- Violinist
花井 悠希 / Yuki Hanai
ヴァイオリニスト。ソロや「1966QUARTET」のメンバーとして活躍する傍ら、レディースブランド「PANORMO」のデザイナーとしても活動。自他共に認めるパン大好き人間でもある。
IG @hanaiyuki
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