
連載「#僕に発酵できないものはない 」#5
秋刀魚を発酵させて魚醤を作る🐟
初鰹、サーモン、ノドグロ、鰯にしらす、桜海老、イカ、牡蠣、ホタテ、ホタルイカ・・・
何かというと僕がこの三年間で発酵させて作ってきた魚醤や魚貝醤の数々です。
魚醤に限らずですが、このような自家製発酵食品を使ってお料理を作ることは僕にとってとてもエキサイティングな気持ちになるもので、いらっしゃるゲストに伝わればいいなと思いながら日々お料理をします。
去年くらいから普通の?魚醤では満足できず「燻製サーモン魚醤」、「燻製サンマ魚醤」といった燻製シリーズ、「鰤大根魚醤」、「イカ柚子トマト魚醤(さわやか)」、「金目鯛トマト魚醤(激ウマっ!)」といった魚介と他の野菜をかけ合わせた変化球な魚醤も発酵させています。
僕が夢中に魚醤を仕込むのはなぜだろうと改めて考えてみると、海の近くに住み鎌倉で自家製の発酵食品を使ったレストランをやっていたことも影響しているし、様々な魚種から作られる魚醤は市販品で流通していないため自分で作る必要性があること。
何より僕は美味しいお料理を作るのが仕事なので、味覚の面で魚醤を食べる側としてもお料理を作る側としても魚醤の美味しさに虜になっているからです!
都内で生まれ育った僕の幼少期の食卓の上には魚醤という文化がなかったので、未だに新鮮な美味しさを感じるし、それを紐解いていくと魚介が発酵することで得られるアミノ酸(うま味)が味覚に優しく魚醤を使ってお料理をすることは、自分のお料理のスタイルにも合っているなと感じます。
美味しさにはいくつかの種類があると感じていて、例えばステーキやにんにくを食べた時に感じる力強くみなぎるような美味しさ、鰹節と昆布で引いたお出汁に少しのお塩を入れて飲んだ時の滋味深い美味しさ。とか。
魚醤はその美味しさの中間のハイブリッドな立ち位置だと僕は感じていて、ここにこそお料理に使った時の面白さが出てくる調味料だな!とたくさんの魚醤を作る経験から、僕なりの答えが出てきたところです。
魚介類を発酵させて作る魚醤の作り方にはいくつか方法があり、もっとも原始的で材料も少なく済むものは古代のローマで作られていた「ガルム」と呼ばれているもの。
好みのお魚と多量のお塩を混ぜて、保存容器に詰め常温に数カ月から数年置いておくだけ。
多量の塩が防腐剤の役割を担い、お魚の内臓の消化酵素が自らの魚体を発酵・分解することでやがて魚体は液状に溶けていき、そのたんぱく質がアミノ酸(うま味成分)に分解され、うま味調味料として生まれ変わる、といった具合。
文面から想像できる通り、強い匂いを発する場合があるのでハーブを混ぜたり、街の外にガルム製造所を作ったりしたみたいです。
僕は三年前にこの古代のガルムに倣ったガルム作りを行ったのですが、完成品は確かにクセが強く番人受けするものではないなと感じました。
そこでお魚の内臓を取り出し、代わりに米麹を使った魚醤作りを行っています。 内臓を取り除くことでそこに含まれる肝心な消化酵素を利用できない代わりに、米麹のタンパク質分解酵素を利用することで発酵を促し、クセが強い内臓の風味を加えずマイルドな魚醤が完成することが分かってきました。
今秋は豊漁な秋刀魚で魚醤作りを行います。
脂乗りが良く太っていて、しかも安価!
秋刀魚を3枚に卸し、頭や中骨、腹骨や血合いを取り除いた様子。 雑味になりそうなところを徹底的に排除し、クリアな魚醤作りを目指します。
秋刀魚は細かく切って、米麹とお塩をまんべんなくまぶします。
今年はここにカボスを絞った果汁を入れてみました。
秋刀魚と言えば塩焼きに大根おろしとスダチを添える食べ方からインスピレーションを受けて、スダチより僕の好みのカボスの香りや酸味を足します!
しっかり混ぜたものは殺菌消毒した瓶詰めします。
ここから一年ほど常温で置くことで発酵・分解していきます。
次第に液状化していくので、濾して一度火を入れると魚醤の完成。
来年この魚醤が完成したら、この魚醤をソースに仕立てて大根の塩焼きステーキにかける、秋刀魚と大根の主従が逆転したお料理を作ってみようと思います。
お楽しみに!
- enso chef
藤井 匠 / Takumi Fujii
六本木[ブリコラージュ ブレッド & カンパニー]の開業時から料理長として活躍。2022年4月、鎌倉に[enso]をシェフとしてオープン。鎌倉を中心とした地場の野菜に、自ら発酵させて作る調味料をかけあわせた料理が注目される。
IG @enso_osaji