おいしい裏話
「弱ってるとき」(RiCE No.18)に寄せて
動画にも本にも初女さんのおむすびの作り方は書いてあるので、同じようにできなくはない。
でも、ほんとうに同じように作ろうと思うと、まず心を落ち着けて、台所を片づけなくてはいけない。そのくらい迫力がある作り方なのだ。
「おむすびって、単にごはんを握ればいいんでしょう?好きな具を入れて」そう思うんだけれど、決してそうではない。そして同じように作ってみると、気のせいではなく全然違うものができる。
むんずと掴んでわしわし食べるようなものではないのだ。
観ていると梅干しでなくてはいけない気さえしてくる。
むんずと掴んで山の上で食べるみたいなのも人生の楽しみなんだけれど、ひたすら素材のほうを向いて、こつこつ作ったものには確かに力があり、弱っているときに摂取できるのはそうしたものなのかもしれない。
佐藤初女
日本の福祉活動家、教育者。1992年より青森県の岩木山山麓に「森のイスキア」と称する悩みや問題を抱え込んだ人たちを受け入れ、痛みを分かち合う癒しの場を主宰。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。